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薬剤性肝障害の罹患感受性、ポリジェニックリスクスコアで予測できる可能性-東京医歯大ほか

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2020年09月09日 PM12:30

数万のリスク因子を加味したPRSなら、DILIの遺伝的感受性の予測は可能?

東京医科歯科大学は9月3日、個人のゲノム情報から算出したPRS(ポリジェニックリスクスコア)が薬剤性肝障害(DILI)の罹患感受性を予測しうることをヒトiPS細胞由来肝オルガノイド、ヒト肝細胞、臨床データを用いて示したと発表した。この研究は、同大統合研究機構の武部貴則教授の研究グループ(研究開始時の所属、)が、武田薬品工業株式会社と京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の共同研究プログラムであるT-CiRA Joint Programの一環として行ったもの。研究成果は、「Nature Medicine」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

DILIは1万人から10万人に1人が発症するまれな副作用だが、医薬品開発プログラムや市場から薬剤が消失する最大要因になっており、第3相臨床試験における臨床試験の終了は12年間で1800億円の損失に上ると報告されている。このことから前臨床段階における高精度な医薬品候補の毒性予測が必要になっている。そこで、国際的にDILIの遺伝的感受性が存在するのかどうか検証するため、iDILICやDILINといった国際ゲノムコンソーシアムで取得したGWASデータの解析が行われているものの、予測に有益な特定の遺伝的多型を見出すことは困難だった。

こうした背景のもとで研究グループは、DILIの発症や進展には無数の遺伝的多型が関与していると仮説を立て、数万のリスク因子を加味したモデルであるPRSを算出することによって個人ごとのDILI感受性の予測が可能であるか検証を行った。すなわち、ヒトiPS細胞由来肝オルガノイド、ヒト肝細胞、臨床データを用いて、欧米のゲノムコンソーシアムで取得したGWASデータから構築されたPRSによるDILIの遺伝的感受性の予測可能性を検証するとともに、それらの感受性を規定していると考えられるメカニズム特定を試みた。

PRSの高い個人では、臨床でDILIを発症する頻度が高い

まず、150種以上のDILIを発症する薬剤(DILI薬剤)に対してDILIを発症した862人のゲノムデータを用いたiDILICおよびDILINのGWAS解析結果より、PRSに用いる遺伝的多型とリスク算出に用いる重みを決定。次いで、ヒト肝細胞およびiPS細胞由来肝オルガノイド合計26ドナーに対して、SNPアレイから取得したゲノム情報より各ドナーのPRSを算出し、DILIを発症することが報告されている薬剤12種類を処理し、実験的に生存率を評価した。その結果、PRSと生存率は負の相関を示し、すなわちPRSの高いドナーでは軒並み生存率が低下することが示された。26人の異なる患者に由来する培養ヒト細胞を用いて複数の薬剤での評価を行った結果、PRSによるDILIのリスク層別化はさまざまな薬剤で有効であることが示唆された。

次に、PRSを算出したGWASとは独立した臨床試験データで、臨床でのDILIの予測が可能かを調べた。DILIは障害を受ける細胞によって、胆汁うっ滞・混合型DILI(CM-DILI)、肝細胞障害型DILI(HC-DILI)と大きく2つに分類される。今回、特にCM-DILIの患者のGWASからそれぞれPRSに用いる遺伝的多型とリスク算出に用いる重みを決定し、Fasiglifam、Flucloxacillin、およびAmoxicillin-ClavulanateによりDILIを発症した臨床試験データで、PRSがコントロール群とDILI発症群を分けることができるか検討した。その結果、CM-DILIのGWASを基に算出されたPRSでのみコントロール群とDILI発症群とで有意差を示した。患者のデータによっても、PRSによるDILI感受性予測が可能であることが示唆された。

DILIの感受性は酸化ストレスや小胞体ストレスなどのメカニズムに関連

PRSを規定する遺伝的多型近傍には、酸化ストレス、ERストレス、ミトコンドリア活性に関連する遺伝子群が多く集積していることが判明した。そこで、DILIの感受性に関連するメカニズムを検討するため、PRSでDILIリスクを予測したiPS細胞由来肝オルガノイドを用いてDILI薬剤処理下の遺伝子発現解析、機能解析を実施。ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドのDILI薬剤処理下の遺伝子発現解析では、PRSが高いほどミトコンドリア活性に関する遺伝子発現が減少し、ERストレス関連遺伝子の発現が増加する傾向が得られた。さらに、抗酸化ストレス作用を有するバルドキソロンを添加することでPRSが特に高いドナー由来のiPS細胞由来肝オルガノイドで生存率が大幅に回復したことから、DILIの遺伝的リスクの高いドナーがDILIを発症した際の酸化ストレスの関与が実験的にも示された。以上より、DILI感受性に関連するメカニズムの一端が解明され、今後抗酸化ストレス作用を有する薬剤を処置するといったDILIの予防対策も取りうる可能性が示唆された。

新戦略「Polygenicity in a dish」で種々の疾患の個別化医療への展開に期待

今回の研究は、DILIがPRSによって予測できることを遺伝子、細胞、オルガノイド、ヒト臨床研究データを用いて初めて示したもの。iPS細胞を用いる利点を活用し、PRSが紐づいたiPS細胞由来肝オルガノイドパネルを毒性・創薬スクリーニングに応用することで、個人の疾患リスクを予測した個別化治療への貢献が期待される。

、非家族性がんおよび統合失調症などの多因子疾患の発症や進展にも、無数の遺伝的多型が関与していることが示唆されている。研究グループは、「今回提案されたPRSと培養細胞を組み合わせた「Polygenicity in a dish」と呼ぶ新たな研究戦略が、さまざまな疾患研究に役に立つ可能性がある」と、述べている。

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