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ASD患児の血液中の脂質と社会的相互作用の症状が関連-福井大ほか

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2020年08月20日 PM12:45

低脂血症の合併で、脂質を内包するVLDLが特徴的に減少

福井大学は8月12日、(autism spectrum disorder:)患児の血液中の脂質の調査から「低脂血症」を合併していることを発見し、この低脂血症では脂質を内包する「超低密度リポタンパク質(VLDL)」が特徴的に減少していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センターの松﨑秀夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「EBioMedicine」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

ASDは、対人的相互作用やコミュニケーションの困難さ、興味・活動の限定された反復的常動的な行動様式などによって特徴付けられる神経発達障害。近年、ASDの有病率は先進諸国で2%を超えるとされ、さまざまなアプローチで研究が行われているが、その病態メカニズムは現在も不明で、生物学的に根拠のある診療技法はない。

ASD患児と定型発達児童の血液検体で脂質を比較解析

コレステロール合成酵素7-dehydrocholesterol reductase(DHCR7)を欠損するSmith-Lemli-Opitz症候群患者の約半数がASDの症状を有することから、ASDと脂質代謝の関連が注目されている。しかし、これまでの先行報告では調査対象者の人数が少なく、研究によって診断基準と分析方法が異なるため、結果が一致していなかった。

そこで、今回研究グループは、宮城県立こども病院とNPO法人アスペ・エルデの会の協力を得て、米国精神医学会が定めた精神障害に関する診断基準「DSM-Ⅳ」とASDの症状評価を目的として開発された診断基準「ADI-R」を用いて、ASDと診断された患児200人以上を対象に採血を行い、性別と年齢層をあわせた定型発達(Typical Developmental control:TD)児童の血液検体と比較した血液中の脂質解析を行うことで、血液中の脂質がASDの診断の指標になるかどうか調査した。

ASD患児でVLDLが低下し遊離脂肪酸増加、社会的相互作用の症状と相関

まず、対象者の中からASDとTDを30例ずつ抽出して、血液の血漿成分を用いた大規模な代謝産物の解析を実施。この結果、脂質生合成と代謝、酸化ストレス、およびシナプス機能に関与する48個の代謝産物がASD患児の血漿で特定された。特に、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸などの遊離脂肪酸の増加が明らかとなり、ASD患児のADI-Rの社会的相互作用の指標と相関を示した。

次に、ASD患児152例とTD児童122例から得た血液の血清成分を用いてリポタンパク質の解析を行った。その結果、ASD患児の血清中の脂質VLDL分画がコレステロールと中性脂肪の両方で著しく低下していたという。LDL分画は中性脂肪のみで増大しており、HDL分画に変化はなかった。リポタンパク質の粒子数は、VLDLのみ低下が認められた。

最後に、リポタンパク質の認識に関わるアポタンパク質の解析を実施。ASD患児の血清ではアポタンパク質B(APOB)の特徴的な減少が見つかり、VLDL分画の減少と有意に相関していたという。この結果は、先行研究で示されていた、ASD患児に特異的なAPOB濃度の低下という結果と一致した。

以上の結果から、ASD患児の血液においてVLDL特異的な脂質の分解が進んでいることが明らかになった。その結果、生じる遊離脂肪酸の増加がASD患児にみられる社会的相互作用の症状と関連していることから、ASDの病態生理を理解する上で新しい知見になると考えられる。

ASDの新しい治療薬や栄養学的アプローチによる治療法確立に期待

今回の研究成果は、ASD患児の血液に生じた脂質代謝の特徴的な変化を捉えたもので、今後の診療応用への道が期待される。これまで、ASDの症候改善のために薬物療法、、環境調整、早期療育などさまざまな取り組みがなされてきたが、生物学的なエビデンスに基づいた評価指標はなく、また治療に資する標的分子も定まっていない。今回の研究成果は、ASDの診療標的を提供している可能性がある。

さらに、本研究によって明らかにされた血液中のVLDLの分解の原因が同定されるか、あるいはその結果生じる遊離脂肪酸の働きの仕組みが解明された場合、それらを標的としたASDの新しい治療薬や栄養学的アプローチによる治療法の確立が期待される、と研究グループは述べている。

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