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がん悪性化因子を抑制する新規Fc融合タンパク質を開発-東京医歯大ほか

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2020年07月30日 PM12:30

がん悪性化に関わるTGF-β、治療標的として注目される

東京医科歯科大学は7月27日、がんの悪性化因子であるTGF-βの全てのアイソフォームを抑制する新規Fc融合タンパク質を開発したと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野の渡部徹郎教授、井上カタジナアンナ助教と高橋和樹大学院生らの研究グループは、理化学研究所生命機能科学研究センター創薬タンパク質解析基盤ユニットの白水美香子基盤ユニットリーダーと松本武久研究員、新潟大学大学院医歯学総合研究科薬理学分野の吉松康裕准教授、東京大学大学院医学系研究科分子病理学分野の宮園浩平教授、鯉沼代造准教授、赤津裕一研究員(現・日本化薬株式会社)との共同研究によるもの。研究成果は「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に掲載され、特に優れた論文に与えられるEditors’ Picksに選ばれている。


画像はリリースより

近年、がん治療の標的として、がん細胞のみならず、がん微小環境の構成因子である腫瘍血管、がんを悪性化させるがん関連線維芽細胞(CAF)、がん免疫を抑制する制御性T細胞に注目が集まっている。がんの悪性化は、がん微小環境におけるさまざまなサイトカインによって調節されている。こうしたサイトカインの中でも、トランスフォーミング増殖因子β()は、がん微小環境に存在するさまざまな種類の細胞から分泌されて、上皮がん細胞の上皮間葉移行(EMT)、腫瘍血管新生、CAFの形成、制御性T細胞の分化誘導などを介して腫瘍環境をがんの悪性化へと誘うことが明らかになっており、がんの治療標的として注目されている。

既存のTβRII-FcはTGF-β2の阻害作用が低いという課題

TGF-βファミリーにはTGF-β1、-β2、-β3という3つのアイソフォームが存在するが、なかでもTGF-β2の発現は、神経膠芽腫(グリオーマ)などの難治がんにおいて高いことが知られている。さらに、研究グループは最近、腫瘍血管内皮細胞由来のCAFがTGF-β2を分泌することで、がん細胞のEMTを誘導することを報告した。つまり、がん微小環境の構成因子は、ネットワークを形成し、そのネットワークを制御するTGF-β2の治療標的としての重要性が高いことが明らかになりつつある。

がん促進シグナルを阻害するタンパク質製剤(治療薬)を開発する目的で、がん微小環境において存在するサイトカインの受容体細胞外領域と免疫グロブリンのFc領域を融合させたFc融合タンパク質が開発されていた。TGF-βはI型受容体(TβRI)とII型受容体(TβRII)に結合してそのシグナルを伝達するが、TGF-βを標的とした治療薬の候補としては、II型受容体を用いたFc融合タンパク質(TβRII-Fc)が開発されている。TβRII-FcはTGF-β1とTGF-β3を効率良く阻害できるものの、TGF-β2に対する阻害作用が低いと報告されており、全てのTGF-βアイソフォームを阻害できるFc融合タンパク質の開発が待ち望まれていた。

そこで、TβRIとTβRIIの両方を含む新規Fc融合タンパク質(TβRI-TβRII-Fc)を開発。この新規TβRI-TβRII-Fcは、TGF-βの全てのアイソフォームに結合し、TGF-β2を含む全てのアイソフォームによるシグナル伝達を阻害することを示した。

開発したTβRI-TβRII-Fcは、口腔がん細胞の悪性化を抑制

研究グループは、新規Fc融合タンパク質の作用について検討を行った。頭頸部がんに含まれる口腔がん由来の口腔扁平上皮がん細胞の悪性化の指標となる上皮間葉移行(EMT)はTGF-βにより誘導される。TβRII-Fcでは、TGF-β1とTGF-β3によるEMT誘導を抑制するにもかかわらず、TGF-β2によるEMT誘導を抑制できないことが示された。一方、TβRI-TβRII-Fcは、TGF-βの全てのアイソフォームによるEMT誘導を抑制できることが明らかになった。これにより、頭頸部がん患者で、TGF-β2が予後不良因子であることを見出した。

また、TGF-β2の発現が高い口腔がん細胞の皮下移植モデルを用いて、TβRI-TβRII-FcがTβRII-Fcよりも効率良く腫瘍形成を抑制することを見出した。さらに、この作用が腫瘍血管新生の抑制を介することもわかった。以上の結果から、TβRI-TβRII-Fcが、がん微小環境に存在するTGF-βの全てのアイソフォームを標的とした有望な分子標的治療薬となることが示唆された。

がん微小環境中のサイトカインを阻害する分子標的治療薬の候補として、Fc融合タンパク質が注目されている。Fc融合タンパク質などのタンパク質製剤は、多くの低分子医薬品よりも血中半減期が長いことが知られており、治療薬としての優位性があることがわかっている。「研究成果より、TGF-βの全てのアイソフォームを阻害できるFc融合タンパク質が、腫瘍形成をより効率良く抑制できることが示された。将来的に口腔がんや神経膠芽腫におけるがん微小環境ネットワークシグナルを標的とした新たながん治療法への導出が期待される」と、研究グループは述べている。

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