医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 「心と体をつなぐ」神経伝達路をラットで発見、ストレスに対する新治療開発へ-名大

「心と体をつなぐ」神経伝達路をラットで発見、ストレスに対する新治療開発へ-名大

読了時間:約 2分45秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年03月10日 AM10:45

ストレスがかかった時、どのように心の信号が脳内に伝達されるかは未解明

名古屋大学は3月6日、脳の中で心理や情動を処理する「心」の領域と「体」を調節する領域とをつなぐ「心身相関」の神経伝達路をラットにおいて発見したと発表した。これは同大大学院医学系研究科統合生理学の片岡直也特任助教と中村和弘教授の研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学誌「Science」(電子版)に掲載されている。


画像はリリースより

心理ストレスや喜怒哀楽といった情動が体の調節に影響を与え、さまざまな身体反応が生じる現象は「心身相関」と呼ばれ、私達が日常生活の中で経験することである。例えば、心理ストレスを受けると、交感神経系の活動が活発になるため、心臓の拍動が速くなるとともに、血圧や体温も上昇する。このような心身相関による生理反応は、その強さとタイミングが適切であれば生命活動に有益だ。

しかし、「病は気から」といわれるように、心身相関が引き金で疾患が起こる場合がある。強い心理ストレスを受けると、高体温の状態が続く心因性発熱が起こるが、これは解熱剤が効かないことから治療が困難なストレス関連疾患とされている。また、心理ストレスや不安などが引き金となってさまざまな発作が起こるパニック障害も、ストレスや情動が交感神経系を強く活性化する心身相関によって発症する疾患だ。さらに、強いストレスを長期間受けると、さまざまな臓器の老化が促進されると考えられている。心身相関に関わる脳の神経メカニズムを解明できれば、こうしたストレス関連疾患の治療法の開発や、ストレスと老化の関係についての研究が加速すると考えられる。

大脳皮質の「背側脚皮質/背側蓋紐」から視床下部背内側部へ神経伝達路

心身相関は、脳の視床下部の中にある交感神経系を調節する領域が活性化することによって起こるとこれまで考えられてきたが、実際に脳の中で、心理ストレスや情動といった「心」の信号がどのようにして視床下部の領域を活性化するのかは長年の大きな謎だった。そこで研究グループは、ラットを使って、視床下部の中で交感神経系を調節する視床下部背内側部という領域へ心理ストレスの信号を入力する神経伝達路を探索する研究を行った。

その結果、ストレスや情動の信号処理を行うことが知られている大脳皮質の内側前頭前皮質の中で機能が不明であった「背側脚皮質/背側蓋紐(がいちゅう)」(dorsal peduncular cortex/dorsal tenia tecta、以下DP/DTT)と呼ばれる領域から視床下部背内側部へ神経伝達路があり、心理ストレスを受けた時にはこの伝達路を通じたストレス信号の伝達が行われ、交感神経系が活性化することを発見した。

ラットでDP/DTTからの神経路を抑制すると、ストレス源からの逃避行動が消失

遺伝子技術を使って DP/DTTから視床下部背内側部へ至る神経伝達路を選択的に破壊したラットに社会的敗北ストレス(テストラットのケージに攻撃性の高い雄ラットを入れ、テストラットにストレスをかけること)を与えると、通常のラットでは生じる褐色脂肪組織での熱の産生と体温の上昇が起こらなくなった。一方で、この神経伝達路を破壊しても平常の体温調節には影響がなかった。したがって、DP/DTT から視床下部背内側部への神経伝達路は、平常の生体調節には関与しないが、ストレス反応を起こす信号の伝達に必要であることがわかった。

また、光遺伝学の技術を用いて、DP/DTTから視床下部背内側部へ至る神経伝達路を選択的に光で抑制すると、通常は社会心理ストレスによって起こる脈拍、血圧、体温の上昇が強く抑制された。さらに、通常、動物は自分を攻撃した個体(ストレス源)から遠ざかる逃避行動を示すが、興味深いことに、この神経伝達路を光で抑制されたラットは、ストレス源の個体から遠ざかることなく、積極的に交流する行動を示した。加えて、DP/DTTは、情動を処理する前脳の複数の領域からストレス信号を受け取ることもわかった。

これらの結果から、心理ストレスや情動の信号が DP/DTTで統合され、交感神経制御の領域である視床下部背内側部へ心身相関の信号として送られることにより、多様な身体反応が発現するものと考えられる。「この神経路がパニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、心因性発熱などの発症にどのように関わるのかを明らかにすることによって、こうしたストレス関連疾患を根本的に治療できる画期的な治療法の開発に貢献したい」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか
  • 乳児股関節脱臼の予防運動が効果的だったと判明、ライフコース疫学で-九大ほか
  • 加齢黄斑変性の前駆病変、治療法確立につながる仕組みを明らかに-東大病院ほか
  • 遺伝性不整脈のモデルマウス樹立、新たにリアノジン受容体2変異を同定-筑波大ほか