医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 成人期発症の大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植は有効-東大病院

成人期発症の大脳型副腎白質ジストロフィーに対する造血幹細胞移植は有効-東大病院

読了時間:約 3分51秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年01月16日 AM11:15

成人期発症に対する造血幹細胞移植の治療効果は確立されていなかった

東京大学医学部附属病院は1月14日、これまで有効な治療法が確立されていなかった、成人期発症の大脳型副腎白質ジストロフィー12症例に造血幹細胞移植を行い、その治療効果を長期にわたって検討した結果を発表した。この研究は、同院22世紀医療センター分子神経学講座の辻省次特任教授および松川敬志特任助教、同院血液・腫瘍内科の黒川峰夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Brain Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

副腎白質ジストロフィーは指定難病のひとつであり、ABCD1遺伝子上の変異によって発症するX連鎖性の神経疾患で、副腎不全を伴うこともある。発症年齢は小児期から成人までと幅広く、多彩な臨床病型を呈することが特徴。大脳、小脳などに脱髄が生じ、比較的急速に拡大する予後不良の病型、緩徐な痙性歩行を示す病型(副腎脊髄ニューロパチー)、副腎不全症状のみを呈する病型など、さまざまな病型がある。小児期に大脳に脱髄が生じて急速に進行する小児大脳型(患者数120人程度)では、発症数年後に寝たきりになり予後不良となるが、発症早期に造血幹細胞移植を行うこと症状の進行停止に有効であることが確立されてきている。一方で、進行期に造血幹細胞移植を行った場合は治療成績が良くないことも知られている。思春期、および成人期に大脳の脱髄が生じて急速に進行する臨床病型はそれぞれ、思春期大脳型、成人大脳型と呼ぶが、小児大脳型と同様に予後不良。小脳、脳幹の脱髄病変で初発する臨床病型の小脳脳幹型は思春期・成人期以降に小脳性の運動失調症状や構音障害、嚥下障害を進行性に認め、発症後2年で約半数の症例が大脳型へ移行することが報告されている。緩やかに進行するタイプの副腎脊髄ニューロパチーでは、発症後10年で約半数の症例が成人大脳型へ移行することが報告されている。いったん大脳型へ移行すると予後不良の経過を取る。小児大脳型に対する造血幹細胞移植とは対照的に、成人大脳型に対する造血幹細胞移植の報告は非常に少なく、その治療効果については確立されていない。

造血幹細胞移植を行った全12症例で長期にわたる顕著な治療効果を確認

今回、研究グループは、発症早期の大脳型、小脳脳幹型の12例(成人期発症10例、思春期発症2例)に対して造血幹細胞移植を行いその治療効果を検討した。併せて、造血幹細胞移植の適応に含まれず、造血幹細胞移植を行うことができなかった成人大脳型、小脳脳幹型の8症例について、大脳、小脳脳幹型の発症時点を基準にして、予後の比較検討を行った。造血幹細胞としては全12症例で血縁者または日本骨髄バンクのドナーの骨髄から得られた造血幹細胞を用いた。

前処置は、化学療法や放射線の量を減らした、副作用の少ない骨髄非破壊的前処置を用いた。造血幹細胞移植を行った12症例は、いずれの症例もドナーの造血幹細胞の生着を確認し、1月14日時点で全員生存しているという(論文執筆時点で、生存期間の中央値 28.6か月)。造血幹細胞移植を行った12症例と、行うことができなかった8症例において、大脳/脳幹/小脳病変の出現からの生存率を比較したところ、造血幹細胞移植をした群では生存率が有意に高かった(P=0.0089)。造血幹細胞移植を行うことができなかった8症例においては、6症例が大脳/脳幹/小脳病変の出現から中央値69.1か月で死亡しており、生存している2症例についても病状の進行により車椅子が必要な状態となっていた。神経系の症状に対する治療効果については、造血幹細胞移植後に大脳/脳幹/小脳の病変による症状の進行停止、または一部改善が認められた。頭部MRI画像検査では脳の炎症性の脱髄を示す造影効果は、造血幹細胞移植後全ての症例で消失/不明瞭化した。12症例のうち9症例では造血幹細胞移植後2か月以内に脳病変の拡大停止を認め、残りの3症例も造血幹細胞移植後12か月以内に拡大停止が認められた。特筆すべきこととして、7例においては脳病変の縮小が認められた。一方で、造血幹細胞移植を行うことができなかった症例では、脳病変の拡大と脳の著明な萎縮が認められた。

この病気について認知を高めていくことが早期診断・治療に重要

造血幹細胞移植により、大脳、小脳の脱髄病変の拡大停止が実現する機序については、十分に解明されていないところがあるが、ミクログリアなど骨髄由来の細胞が中枢神経系に移行することが知られており、そのような細胞が、同疾患で蓄積する極長鎖脂肪酸(髄鞘の脂質成分を構成する炭素数23以上の鎖長の長い脂肪酸)の代謝を助けることにより、極長鎖脂肪酸のオリゴデンドロサイト(髄鞘を形成する細胞)に対する毒性作用を軽減するのではないかと推定されている。なお、造血幹細胞移植を行った12症例全てにおいて重篤な感染症や合併症は見られず、急性の移植片対宿主病(GVHD)は、7症例では認められなかった。皮膚で軽度の急性GVHDが4症例に認められたが、ステロイドの塗布または内服で完治した。1人において中等度の消化管と皮膚の急性GVHD が見られたが、ステロイドの点滴で完治した。慢性のGVHDは2人で認められた。

これまで成人大脳型や小脳脳幹型の副腎白質ジストロフィーに対して症状の進行停止に有効な治療法はなく、また造血幹細胞移植の実施例は少数で、その臨床効果の報告はさまざまだった。今回の研究で、発症早期の思春期・成人大脳型、小脳脳幹型に対する造血幹細胞移植は、安全に行うことが可能で、かつ症状の進行停止に有効であることがわかり、小児例だけでなく成人例でも有効であることが認められた。研究グループは、「今後造血幹細胞移植の治療効果をより良いものにするためには、大脳型・小脳脳幹型の発症を早期に診断する、また、大脳型・小脳脳幹型を発症する前の副腎脊髄ニューロパチーや副腎不全のみの患者についても、慎重に経過を観察し、大脳、小脳などの病変の出現を早期に診断すること、さらに副腎白質ジストロフィーの症状を将来発症する可能性のある患者と家族に情報提供を行うことが大変重要であると考えられる。それと同時に、大脳型/小脳脳幹型副腎白質ジストロフィーの早期診断を進めるために、本疾患についての社会の認知を高めていくことも大切であると考えている」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか