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宇宙の無重力環境で「胸腺」が委縮すると判明、その軽減法も明らかに-理研ほか

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2020年01月07日 AM11:15

将来的に身近になると考えられている「宇宙滞在」

)は12月27日、宇宙の無重力環境を経験することにより、リンパ器官である「」が萎縮すること、その萎縮は人工的な重力負荷で軽減されること、また、胸腺細胞の増殖が抑制されることによって萎縮が起きるという仕組みを発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター免疫恒常性研究チームの秋山泰身チームリーダー、粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダー、筑波大学の高橋智教授、宇宙航空研究開発機構の白川正輝グループ長、東京大学の井上純一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

近い将来、宇宙へのフライトは身近なものになると考えられており、火星への有人探査も計画されているが、このような宇宙滞在により、ヒトの体は無重力や宇宙放射線など、地上とは異なる環境にさらされ、さまざまな影響を受ける。その1つが生体防御に重要な免疫系への影響で、免疫機能が低下し、ヘルペスウイルスなどの再活性化が起きると考えられている。そのため、これまで主に宇宙滞在中およびその前後に採取した宇宙飛行士の血液を用いて、宇宙環境による免疫系への影響が調査されてきた。

リンパ器官は免疫系の発生・維持・免疫応答に重要だが、その1つである胸腺は、宇宙飛行士の血液を調べた研究から、胸腺で産生した直後のTリンパ球が、宇宙滞在により減少することが明らかにされており、宇宙環境が胸腺の機能に影響することを示している。胸腺への影響を防ぐには、宇宙環境がどのような仕組みで胸腺の機能に影響するのかを調べる必要があるが、リンパ器官への影響をヒトで詳細に調べることは困難だ。そこで研究グループは、実験動物のマウスを宇宙で飼育し、胸腺が受ける影響の解明を試みた。

宇宙環境によって起こる上皮細胞の点在異常は、人工重力で軽減可能

研究グループは、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟にマウスを飼育する設備を設置。この設備はマウスの飼育ケージを回転することで、地上と同じ重力を再現すること(人工1G)ができる。まず、無重力環境に置いたマウスと人工1Gの環境に置いたマウスをそれぞれ約1か月間飼育して地上に帰還させた後、胸腺を採取。また、比較のため地上で飼育したマウスからも同様に胸腺を採取した。各マウスの胸腺の重量を体重比で調べたところ、無重力飼育マウスの胸腺重量は地上飼育マウスに比べて有意に減少していたのに対し、人工1G飼育マウスの胸腺重量の減少幅は無重力飼育マウスに比べ少ないものだった。このことから、宇宙環境の影響で胸腺は萎縮すること、また、人工的に1Gを負荷した場合は萎縮を軽減できることが明らかになった。

次に、宇宙環境による胸腺萎縮が、どのような機構で起きるのかを明らかにするため、採取した胸腺で発現する遺伝子を網羅的に調べた。それぞれのマウスの胸腺からRNAを採取し、発現する遺伝子を次世代シークエンシングで定量した結果、無重力飼育マウスの胸腺では、地上飼育マウスに比べ、多くの遺伝子発現が変動し、細胞増殖に関わるタンパク質をコードする遺伝子が有意に減少していることがわかった。一方、人工1G飼育マウスで変動する遺伝子は、無重力飼育マウスよりも少数だった。以上のことから、「胸腺細胞の増殖が、宇宙環境により抑制され、胸腺萎縮を引き起こす」「宇宙環境による細胞増殖抑制の一部は、人工1Gでは軽減される」という2つのことが明らかとなった。

さらに、胸腺組織の構造を免疫組織染色法で検証。胸腺の構造は、髄質と皮質の2つの領域に大きく分かれ、それぞれの領域には特徴的な胸腺上皮細胞が存在することで、Tリンパ球の分化や増殖を促す。胸腺の上皮細胞を調べたところ、無重力飼育マウスでは髄質領域に存在する上皮細胞の一部が異所的に皮質に点在していたが、この点在は人工1Gマウスの胸腺では観察されなかった。つまり、遺伝子発現と同様に、宇宙環境によって起こる上皮細胞の点在異常は、人工1Gによって抑制されることが判明した。

人工重力の負荷が、免疫系の異常も緩和できる可能性

宇宙滞在による免疫機能の低下はこれまでにも報告されてきたが、その機構については多くが不明だった。今回の研究成果により、無重力を経験することで起きる細胞増殖の抑制が胸腺萎縮の原因であると考えられることが明らかになった。今後、この抑制を誘導する機構を明らかにすることで、胸腺萎縮の抑制が期待できるという。

研究グループは、「人工的に1Gを負荷することで、胸腺への影響が軽減されることも実証された。宇宙環境が筋・骨格系に与える影響を緩和するために人工的1Gの応用が模索されているが、筋・骨格系のみならず、免疫系の異常も緩和できる可能性がある」と、述べている。

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