医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > ヒトの音楽活動を支える基盤が、類人猿にも共有されている可能性を発見-京大

ヒトの音楽活動を支える基盤が、類人猿にも共有されている可能性を発見-京大

読了時間:約 2分48秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年12月25日 PM12:00

音楽によるリズム運動の誘発は、ヒト以外の霊長類でどれだけ起こるのか?

京都大学は12月24日、音刺激がチンパンジーのリズミカルな身体運動を誘発することを発見したと発表した。この研究は、同大霊長類研究所の服部裕子助教と同友永雅己教授が共同で行ったもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

ダンスや合唱など、音楽はヒトに普遍的な活動だと言われている。しかし、こうした活動の進化的起源はあまりよくわかっていない。近年、オウムなど音声コミュニケーション能力の高い動物が、音楽にあわせてダンスをするなどの報告が挙がっており、ヒトの音楽をささえる生物的基盤に対する関心が高まっている。

このような音楽の特徴に、脳内での聴覚処理と運動制御との強いつながりが挙げられる。ヒトは、ノリの良い音楽を聴くと思わず体を動かしたくなるが、音楽によるリズム運動の誘発は、発達の早い段階から現れることが報告されている。しかし、ヒト以外の霊長類でどの程度この現象がみられるのかは、あまりよくわかっていなかった。

そこで研究グループは、系統発生的にヒトに最も近い種のひとつであるチンパンジーを対象に、リズム音など聴覚刺激がリズミカルな身体運動を誘発するのかについて調べた。

オスの方がメスに比べて、反応が大きいことが判明

まず、8ビートのリズム音を作成し、それをチンパンジーが実験室にいる時に再生して自発的な反応を調べるプレイバック実験を行った。7個体のチンパンジーを対象にリズム音を2~3分再生した結果、全てのチンパンジーで体のリズミカルな揺れ(swaying)や頭の振り(head bobbing)、拍手や足踏みといったリズミカルな運動が誘発されることが確認された。また、反応の最中に発声も観察された。

これらの現象は、オス個体の方がメス個体よりも反応が大きく、リズム運動を行う時間や発声の頻度もオスの方が大きいことがわかった。これは、チンパンジーの野生下での音声コミュニケーションの違いにも一致しているという。チンパンジーは、オスが協力して縄張りを守るが、音を用いたコミュニケーションはオス同士のほうがより頻繁に行われる。同研究の結果から、チンパンジーのオスは、より音に敏感に反応するように進化していったことで、他のオスとより密な音声コミュニケーションを発達させていったことが示唆される。ヒトには音への反応に対する顕著な雌雄差は見られないことから、チンパンジーがヒトとの共通祖先から分岐した後に独自に進化させていったものだと考えられる。

しかし、リズムの構造を崩して特定のリズムが判別できない音刺激に対してもリズム運動の誘発が見られたことから、音のどの要素がリズミカルな身体運動を誘発するのかについては、今後さらに検討する必要があるという。

さらに、最も音に対して反応が見られたオス1個体を対象に、リズム音のテンポに合わせた動きをするのか、またこのような刺激を好んで得ようとするのかについて調べた。その結果、異なるテンポのリズム音に対する反応を比較した結果、2足姿勢(上体が起きている姿勢)では、テンポの速いリズム音を聞いているときには動きが速く、ゆっくりなリズムを聞いている時には動きが遅くなっていることがわかった。音のタイミングに合わせてダンスをするなどの正確な合わせ方ではないが、リズム音の速さもある程度リズミカルな動きに影響を与えることが明らかになった。また、音刺激を再生している場合には、音が再生されていない場合に比べ、より音源に近づく傾向があることも確認された。なお、これらの実験に参加するかどうか、より強い音刺激を受けるかどうかについては、すべてチンパンジー自身が選択して決められる状況にしており、自らそのような刺激を得ようとすることもわかった。

今後、なぜヒトが音楽を発達させる必要があったのかを明らかにする予定

この10年間で、ヒトの音楽活動を支える基盤は、チンパンジーを含めたさまざまな動物たちにも共有されていることがわかってきた。また、彼らの社会や生息環境から、そこにどのような進化的背景があったのかも推測できるようになってきた。

研究グループは、「音楽は、言語と同様に、世界中の文化で用いられている、ヒトに普遍的なコミュニケーションだと言われている。しかし、進化の過程でヒトがなぜ、どのようにして歌ったり踊ったりするようになったのかは、あまり良くわかっていない。音楽の生物的基盤を調べることで、ヒトがなぜこうしたコミュニケーションを発達させる必要があったのかについて、明らかにしていきたいと考えている」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか