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大腸がんの肝転移を調節する新たな制御メカニズムを解明、IL-6がカギ-北大

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2019年12月25日 AM11:45

IL-6による抗腫瘍免疫と大腸がんの再発・転移との関係を解析

北海道大学は12月24日、がん免疫治療の最適化への応用が期待できる、大腸がんの転移を調節する新しい制御メカニズムの解明に成功したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所の北村秀光准教授、同大大学院医学研究院の武冨紹信教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Immunology Research」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、がん患者の免疫抑制状態を改善する免疫チェックポイント阻害治療薬が開発され、多くの患者に適用されてきたが、全てのがん患者に有効ではない。このことは、がん患者の生体内に複数の免疫抑制メカニズムが存在し、がん細胞の免疫逃避によって再発・転移が生じてしまう可能性を示している。これまで研究グループでは、担がん生体で産生されるIL-6が樹状細胞の成熟・活性化を抑制し、抗腫瘍エフェクターT細胞の導入によるがん細胞の排除を阻害することを明らかにしてきた。そこで今回の研究では、IL-6による抗腫瘍免疫と大腸がんの再発・転移との関係を明らかにするとともに、新たながん免疫治療の開発への応用を試みた。

IL-6を調節することで抗腫瘍免疫細胞を賦活し、大腸がんの肝転移巣形成を抑制

研究グループは、マウス大腸がん細胞を野生型BALB/cマウスおよび同系統のIL-6欠損マウスの脾臓内に移植し、その後、肝臓で転移巣が形成される大腸がん肝転移モデルを構築して、担がん生体で産生されるIL-6と大腸がんの再発・転移との関係について検討した。また肝転移巣の形成に関与している免疫担当細胞やその制御分子を同定するために各種免疫細胞や標的分子を除去・中和する試薬、抗体を使用して検証した。最後に、大腸がん肝転移モデルマウスに抗PD-L1抗体を投与し、IL-6の産生と免疫チェックポイント阻害治療による抗腫瘍効果との関連も検討した。

その結果、大腸がん肝転移モデルにおいて、野生型マウスに比べIL-6欠損マウスでは、大腸がん細胞の肝転移巣の形成が明らかに低下し、CD8陽性キラーT細胞を除去すると、その転移巣形成の抑制効果が阻害されることが判明。またIL-6欠損条件下では、細胞傷害性分子であるパーフォリンやグランザイムBを産生する抗腫瘍エフェクターT細胞やMHCクラスIIを高発現し、IFN-α/βやIL-12を発現する成熟型の樹状細胞が、より高頻度に肝転移巣に集積しているとともに、IFN-α/βの受容体の阻害及びIL-12の中和により、同モデルにおける肝転移巣の形成が増悪することが確認された。さらに、抗PD-L1抗体を肝転移マウスに投与する免疫チェックポイント阻害治療を実施したところ、野生型に比べてIL-6欠損マウスでは、著しい生存率の延長効果が認められた。

今回の結果から、担がん生体で産生されるIL-6は樹状細胞の成熟・活性化を抑制し、抗腫瘍エフェクターT細胞による大腸がん細胞の排除がなされないことから、大腸がん細胞の肝転移巣の形成が促進されることが考えられる。研究グループは、「今後、担がん生体で産生されるIL-6を阻害することで大腸がんの再発・転移が抑制されることが期待され、さらに、IL-6を制御することによりPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害治療の最適化にもつながると考えられる」と、述べている。

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