医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > チオプリン投与による造血幹細胞障害、NUDT15の遺伝子型の違いにより障害に差-滋賀医大

チオプリン投与による造血幹細胞障害、NUDT15の遺伝子型の違いにより障害に差-滋賀医大

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年10月28日 AM11:45

NUDT15R139Cは日本人で高頻度、チオプリン耐用量を知る必要あり

滋賀医科大学は10月21日、NUDT15の遺伝子型の違いによって、チオプリンによる造血幹細胞や白血病細胞の障害が大きく異なることを解明したと発表した。この研究は、同大内科学講座消化器・血液内科の安藤朗教授、河原真大講師らの研究グループによるもの。研究成果は「Leukemia」に掲載されている。


画像はリリースより

チオプリンは、メルカプトプリン(MP)やアザチオプリンといった薬剤の総称で、免疫抑制剤・抗がん剤として、炎症性腸疾患や急性白血病に広く使用されている。一方、チオプリンによる重大な副作用の一つに、重度の白血球減少があることが以前より知られている。最近、NUDT15の遺伝子多型がチオプリンによる白血球減少に深く関与することが明らかになってきた。特に、139番目のアミノ酸が、アルギニンからシステインに変化する遺伝子多型(NUDT15 R139C)があると、重度の白血球減少が起こる確率が格段に上がる。

NUDT15は、DNA障害を引き起こすチオプリンの代謝産物を無毒化する酵素で、R139Cを有する場合、この酵素活性が低下するためDNA障害が強くなると考えられている。NUDT15R139Cの頻度は、欧米人で少なく日本人に多いことが判明しており、NUDT15R139Cのホモ接合型の日本人の頻度は約4%、ヘテロ接合型は約20%に上る。したがって、NUDT15R139Cをもつ患者が安全にチオプリンを使用するためには、その耐容量を知る必要がある。特に、白血病患者では造血幹細胞が障害されることが多く、NUDT15 R139Cをもつ白血病患者にチオプリンを投与すると、予想外に強い副作用を引き越してしまうことが危惧されている。

ホモ接合型とヘテロ接合型のモデルマウス、MP同容量の投与で生存期間に差

ヒトのNUDT15タンパクとマウスのNudt15タンパクは、アミノ酸配列の89%が同じで、ヒトNUDT15の139番目のアルギニンは、マウス Nudt15の138番目のアミノ酸に保存されていることから、研究グループは、遺伝子編集技術を用いて、NUDT15 R139Cを模倣したマウス「Nudt15 R138Cノックインマウス」を世界で初めて作成し、検証した。

まず、Nudt15野生型とR138Cヘテロ接合型、R138Cホモ接合型マウスに、メルカプトプリン(MP)を2 mg/kgで経口投与。血球が速やかに減少し、その生存期間中央値は、ホモ接合型で15日、ヘテロ接合型で30日だった。MPの投与量を1mg/kgに減量すると、それぞれ 26日と66日に改善し、0.2 mg/kg にまで減量すると、ヘテロ接合体で70日間生存した。以上のことから、安全なMPの初期投与量は、ホモ接合型では0.2 mg/kg (体重60㎏のヒト換算で約1mg)、ヘテロ接合型では1 mg/kg(同約5mg)以下と推測された。

さらに、Nudt15R138Cホモ接合型およびヘテロ接合型の造血幹細胞が、正常造血幹細胞と比較してどの程度障害を受けやすいかを競合移植法を用いて検討。Nudt15R138Cホモ接合型またはヘテロ接合型の骨髄細胞と、野生型の骨髄細胞を正常マウスに1:1の割合で移植し、28日間MPで治療。その後の解析により、それぞれの造血幹細胞の数が野生型と比較して50%に減少するのに必要なMPの投与量を求めた。その結果、Nudt15 R138Cホモ接合型造血幹細胞は 0.12 mg/kg、ヘテロ接合型造血幹細胞は0.23 mg/kgで、野生型の50%に減少することがわかった。この結果は、マウス個体として耐えられるMPの投与量であっても造血幹細胞は相当な障害を受けており、特に造血幹細胞が障害される急性白血病患者では、慎重な投与が求められることを示唆するものだった。

造血細胞に白血病遺伝子(MLL-AF9)を導入し、野生型とNudt15 R138Cホモ接合型マウスで白血病を発症させたモデルを作成。このモデルマウスに1mg/kgのMPを毎日経口投与すると、Nudt15 R138Cホモ接合型白血病モデルで生存期間中央値が有意に延長されることを確認した。この結果は、NUDT15 R139C を有する白血病患者に、野生型のドナーから正常造血幹細胞を移植した場合、そのチオプリン感受性の違いを利用することで白血病細胞を優先的に傷害できる可能性を示唆するものだ。

NUDT15 R139Cは、測定キットがすでに開発され、実際の臨床でも測定が可能になっている。今後は、チオプリン投与前にNUDT15遺伝子型を測定し、遺伝子型に即してチオプリンを減量することが求められる。しかし、どの程度減量すればよいのかについての基準は現時点で明確ではない。また、NUDT15 R139Cを有する急性白血病患者では、同種造血幹細胞移植後に再発するという難しい状況において、チオプリンが治療オプションとなる可能性がある。研究グループは、「今後の臨床研究を通して、その可能性をさらに追及していきたい」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 肝線維化の治療薬候補を同定、iPS細胞から誘導の肝星細胞で-東大ほか
  • 「ストレス造血時」における造血幹細胞の代謝調節を解明-東北大ほか
  • 食道扁平上皮がんで高頻度のNRF2変異、がん化促進の仕組みを解明-東北大ほか
  • 熱中症搬送者、2040年には日本の都市圏で2倍増の可能性-名工大ほか
  • 日本人がアフターコロナでもマスク着用を続けるのは「自分がしたいから」-阪大ほか