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噛む力そのものが顎の骨を造り変える分子メカニズムを解明-東京医歯大

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2019年03月26日 AM11:45

因果関係が不明だった「噛む力」と「下顎の形」の相関

東京医科歯科大学は3月18日、強く噛むことが顎の骨に含まれる骨細胞によるIGF-1の発現上昇とスクレロスチンの発現低下を介して骨の形成を促進し、その結果、顎の骨の形が噛む力に耐えられるよう最適化されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野の中島友紀教授と小野岳人助教、同咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、井上維大学院生らの研究グループが、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の安達泰治教授の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に3月20日付で発表された。


画像はリリースより

噛む力を発揮する咀嚼筋の活動性と下顎の骨の形に相関があることや、食習慣の異なる中世と現代とでは下顎の骨の形が大きく異なることから、噛む力と顎の形との間には密接な関係があることが古くから知られている。このため、咀嚼トレーニングにより適切な顎の成長を誘導できる可能性が指摘されているが、噛む力と顎の形を結ぶ分子メカニズムはこれまで不明だった。また、噛むという刺激が顎の骨のどの部位にどのような影響を及ぼすのかについては研究も少なく、現状では歯科矯正治療への応用が難しい。

噛むことで、顎の骨細胞が生理活性物質の発現を制御

研究グループは、硬い餌を与えることで咀嚼力を強化する新しいマウスモデルを作出し、噛む力の強化が顎の骨に与える影響とそのメカニズムを解析した。通常マウスの飼育に用いる餌の栄養成分を変えることなく硬度だけが高くなる餌を開発し、マウスに与えたところ、咀嚼回数と咀嚼時間が増加し、咀嚼筋の一つである咬筋の幅径が増大。そこで、咀嚼筋が発揮する噛む力が顎の骨の形にどのような影響を及ぼすか明らかにするために、コンピューターシミュレーションを用いて解析をした結果、マウスの顎の骨に噛む力が加わることにより、噛む力の強いヒトに特徴的な、咬筋の腱付着部における骨の突出と下顎枝高の減少が予測された。また、このような変化により、噛んだ時に顎の骨に生じる応力が減少し、骨への負担が低下することも予測された。そこで、実際に硬い餌を与えた咀嚼強化モデルマウスの顎の骨を、マイクロCT解析で評価したところ、シミュレーションと一致した骨の形の変化が観察された。

さらに、咬筋の腱付着部の骨の突出部を組織学的に評価したところ、骨を形成する骨芽細胞の増加を確認。さらに詳細な解析により、骨形成が起きている部分の骨細胞でIGF-1(骨形成を促進する)の発現が上昇し、(骨形成を抑制する)の発現が低下していることが判明した。また、細胞培養実験から、力学的な負荷によって骨細胞からのIGF-1産生が増加し、腱から採取した細胞の骨芽細胞への分化を促進することが示唆された。これらの結果は、強く噛むことにより顎の骨に含まれる骨細胞が生理活性物質の発現を制御することで、顎の骨の形を噛む力に耐えられるように造り変えることを示唆している。

これまで、顎の成長の適正化を目的とした咬合や咀嚼に対する臨床的介入はほとんど行われていなかった。今回の研究により明らかにされた細胞・分子メカニズムの裏付けにより、顎の形や大きさの不調和に対する新しい歯科矯正治療法が開発されることが期待されると、研究グループは述べている。

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