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悪性中皮腫の腫瘍増大に関わる原因物質PGRNとGRN様タンパク質を特定-兵庫医大

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2017年03月07日 PM01:00

VEGF非依存性の新規血管新生因子を探索

兵庫医科大学は3月2日、悪性中皮腫の腫瘍を増大させる新たな原因物質を特定したと発表した。この研究は、同大学環境予防医学の江口良二助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Oncogene」誌に掲載された。

悪性中皮腫は腫瘍増大に必要な血管新生を伴う極めて予後不良の疾患だ。主病因のアスベスト暴露から20~40年を経て発症する。手術療法による完全な切除は困難で、ほとんどの化学療法剤に対しても強い抵抗性を示し、放射線療法の効果も限定的。より効果的な治療法の開発が強く望まれている。

腫瘍径が1~2mm以上に増大するには血管からの栄養と酸素の供給が不可欠で、腫瘍に向かって既存の血管から新たな血管を形成する血管新生は多くの悪性腫瘍に共通して見られる現象だ。腫瘍の増大・浸潤・転移を抑制する目的で、この腫瘍血管新生に焦点を当てた抗血管新生療法の対象疾患が近年増加している。)は、腫瘍血管新生において重要な役割を担っているが、悪性中皮腫における既存の化学療法に抗VEGF中和抗体を併用しても全生存期間の延長は短く、無憎悪生存期間の延長は見られないことが最近報告されていた。これらの報告から、悪性中皮腫ではVEGFとは異なる因子が血管新生を制御することが示唆されるが、その因子は不明だった。そこで、同研究では悪性中皮腫における血管新生のメカニズムを解明することを目的として、VEGF非依存性の新規血管新生因子を探索したという。

PGRNとGRN様タンパク質が新規血管新生因子であることを発見

研究グループは、悪性中皮腫細胞株NCI-H2052(H2052)の無血清培養後の上清を用いて血管新生の解析を実施。その結果、H2052細胞由来の無血清培養上清は濃度依存的に血管新生を誘導し、この血管新生は抗VEGF抗体では抑制されなかったことから、H2052細胞の培養上清による血管新生はVEGFに依存していないことが確認された。VEGF以外の血管新生因子を探索するために、H2052細胞の培養上清に対して網羅的タンパク解析を行い、血管新生に直接関与すると報告のあるタンパク質を同定後、そのタンパク質に対する中和抗体やRNA干渉を用いた解析を実施。その結果、H2052細胞の培養上清による血管新生にグラニュリン(GRN)が関与することが示されたという。

GRNは、その前駆体であるプログラニュリン(PGRN)の形で細胞から分泌され、何らかのタンパク質分解酵素によって切断体が生じることが知られている。そこで、GRNのRNA干渉を施したH2052細胞の培養上清を検討した結果、PGRNとは異なるGRN様タンパク質の存在が上清中に確認された。さらに、PGRN単独のRNA干渉に比べて、GRN様タンパク質に対しても同時にRNA干渉を施したH2052細胞の培養上清では、血管新生作用がより強く抑制されていたという。以上の結果から、PGRNとGRN様タンパク質は悪性中皮腫におけるVEGF非依存性の新規血管新生因子であることが初めて証明された。

H2052細胞のGRN遺伝子の転写・翻訳領域には顕著な変異は見られなかったことから、GRN遺伝子の非転写もしくは非翻訳領域に何らかの変異が存在する可能性が示唆された。また、ヒトPGRNの組換体をH2052細胞の培養上清に添加するとその切断体が出現したことから、PGRNそのものだけではなくその切断体が血管新生に関与する可能性も示唆されたという。今後は、GRN様タンパク質の配列を同定し、PGRNのどの切断体が血管新生に関与しているかを検討することで、どちらのタンパク質にも存在する共通タンパク質領域を特定する必要があると、研究グループは述べている。

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