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早産児の発達過程の継続的調査から新たな認知機能評価を開発へ-京大

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2016年04月07日 AM06:00

満期産児とは異なる神経成熟過程をたどる可能性を示唆

京都大学は4月1日、同附属病院小児科で出生した早産児を対象に、周産期から乳児期の発達過程を継続的に調査した結果、「予定日前後の早産児の高い声での泣きは、迷走(副交感)神経の活動の低さと関連すること」、「生後1年の早産児と満期産児とでは、他者への注意関心が異なること」などの事実を明らかにしたと発表した。この研究は、同大教育学研究科の明和政子教授、医学部附属病院の河井昌彦教授らによるもの。研究成果は、「DevelopmentalPsychobiology」オンライン版および「Infancy」オンライン版に、4月1日付で掲載されている。


画像はリリースより

日本は先進国の中で、早期産児・低出生体重児の出生割合が増加の一途をたどる数少ない国とされている。そのため、科学的根拠に基づく新生児集中治療室(NICU)での発育支援と、退院後を視野に入れた養育環境の改善、整備が喫緊に必要とされている。

乳児の高い泣き声は、神経成熟の異質性と関連するとの見方がある。同研究グループは、予定日前後の早産児と満期産児、50名を対象に、呼吸の周波数帯域に生じる心拍の変動(ゆらぎ)から迷走神経の活動を測定し、授乳前の自発的な泣き声の基本周波数との関連を検討した。

その結果、早産児は満期産新生児に比べ、静睡眠時の呼吸性の心拍変動が低いことや、静睡眠時の呼吸性の心拍変動が低いほど、自発的な泣き声の基本周波数が高いことなどが明らかになったという。これにより、予定日前後の早産児の高い泣き声の背景には、迷走神経の活動低下による声帯の過緊張が関与している可能性が示唆された。泣き声の音響解析に基づく自律神経系の評価は、「乳児にストレスを与えない、簡便かつ客観的な」発達指標として、NICUでの臨床応用が強く期待される。

早産児に対する新たな発達評価、診断、支援法の開発に期待

近年の欧米の大規模コホート研究は、早産児は満期産児に比べて、のちに自閉スペクトラム症と診断されるリスクが高いことが発表されているが、詳しいことは分かっていなかった。そこで、同研究グループは、修正齢6、12か月の早産児と満期産児を対象に、「人と幾何学図形を左右に並べた映像」と「人が物体に視線を向ける映像」を見せ、それらに対する視覚的注意を、視線自動計測装置を用いて計測した。

その結果、早産児の一部は、人への選好が弱いことや、早産児では満期産児よりも視線を追従しにくいことなどが明らかになった。しかし、修正齢12か月の早産児は、修正齢6か月の早産児よりも人への選好が強く、視線も追従するという満期産児と同じ結果になったことから、興味や能力が確実に発達する点は重要と考えられる。今後は、早産児が発達過程における認知機能の発達や言語獲得とどのように関連するかを、周産期からの各々のプロファイルをたどりながら追跡調査していく予定としている。

これらの研究成果は、早産児が満期産児とは異なる神経成熟過程をたどる可能性を示唆するものであり、早産児に対する新たな発達評価、診断、支援法の開発に大きく寄与するとして、今後の研究に期待が寄せられる。

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