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非小細胞肺がん、ジオトリフ治療継続のための口腔ケアとは-がん治療開始前から始める副作用マネジメント

読了時間:約 6分20秒  2017年03月02日 AM10:00
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提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

非小細胞肺がん(NSCLC)に対するEGFR-TKIによる薬物治療では、治療の影響によってさまざまな口腔内の症状が起こると報告されている。LUX-Lung7のジオトリフの有害事象報告では、下痢、発疹/ざ瘡に次いで口内炎が第3位。LUX-Lung3の報告でも早期に発現が多いことからも、治療開始前から口腔ケアを行うことが、治療継続には有効であると考えられる。

国立がん研究センター中央病院総合内科・歯科・がん救急科の上野尚雄先生に、NSCLCに対するジオトリフ治療継続のための口腔ケアと治療開始前から始める副作用マネジメントの重要性について伺った。(2017年1月取材)

副作用が出てからの介入と開始前からの介入の違い

-がんの薬物治療では従来から殺細胞性抗がん剤の代表的な副作用として口腔粘膜炎があります。さらに近年では、新たながん治療薬として肺がん治療の個別化を実現した上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の一部でも、発現頻度の高い副作用として口腔粘膜炎が報告されています。こうした副作用の緩和・予防目的で口腔ケアの重要性が指摘されていますが、ケア開始を治療前から行う場合と副作用発現後から行う場合ではどのような違いがありますか


国立がん研究センター中央病院総合内科・歯科・がん救急科
上野尚雄先生

従来からがんの薬物治療の支持療法として口腔粘膜炎に対する口腔ケアの重要性は、海外のガイドラインなどでも言及されています。支持療法全体のベースにある思想は、「問題が生じてから対応する」のではなく、治療開始時から介入し、生じうる副作用を予測して予防に努めることにあると思っています。

しかし実際の臨床の現場では、がん薬物治療中の患者さんでの口腔ケアを中心とした粘膜炎の対策は、その他の多くの有害事象の中で後回しになりがちです。当院でもかつては歯科に口腔ケアを依頼するのは、口腔粘膜炎が発症し、経口摂取も妨げられるほど重症化してからであることが少なくありませんでした。

その背景には、口腔ケアなどの介入が口腔粘膜炎などの予防や症状軽減につながるというエビデンスが不十分だったことがあります。しかし今では、粘膜炎の予防・軽減を目的とした介入に対して、信頼性の高いエビデンスも蓄積されてきています。例えば、一部のレジメンでは薬物投与時に氷を口に含んで冷却することで、口腔粘膜炎の発症や重症化を抑制することがエビデンスレベルの高い研究の結果として報告されています。口腔ケアもしかりです。口腔ケアを行うことで粘膜炎の発症をゼロにすることはできませんが、感染制御を通して重症度の抑制や症状の緩和に有効であることが報告されています。

このようなエビデンスが積み重なり、現在では薬物治療開始前から継続して口腔ケアを中心とした管理を実施することで、口腔粘膜炎の発現や重症化の予防・軽減の一助としようとする考えが、医療者のコンセンサスとして広がってきています。この結果、現在国立がん研究センターでは、歯科の初診患者の約8割が、治療開始前の予防的介入の依頼となっています。

がん治療開始前から行う、口腔粘膜炎対策の実際

-実際の口腔粘膜炎の症状は殺細胞性抗がん剤とEGFR-TKIなどとでは違いはあるのでしょうか。また症状や進行はどのようなものでしょうか

基本的に殺細胞性抗がん剤とEGFR-TKIでは、薬剤の作用機序が異なるため、口腔粘膜炎の発生機序も異なり、臨床的にもEGFR-TKIによる粘膜炎はアフタ性のものが多いなどの若干の相違が認められます。しかし対策となると今のところ両者に大きな違いはなく、EGFR-TKIによる口腔粘膜炎の治療と予防方法は殺細胞性の抗がん剤で行われている対応に準拠しています。

初期症状は口腔内の違和感、ザラザラ、ガサガサ、ヒリヒリなどと表現される自覚症状を訴える患者さんがほとんどです。この段階で口腔内を診察すると、潰瘍の形成はなくても、粘膜の発赤や蒼白化、浮腫状変化などの変化が起き始めていることが多いです。このような軽い症状だけでおさまってゆく場合もありますが、そのまま放置すると、潰瘍の形成や局所感染の成立を経て、強い疼痛を起こし経口摂取を妨げる重度の粘膜炎に進展してしまうこともあります。

-口腔粘膜炎などの苦痛以外に口腔ケアを行わないことによる弊害はありますか

口腔粘膜炎が重症化すると、望ましくない抗がん剤の減量や中断、治療スケジュールの変更やスキップなど、患者さんのがん治療の円滑な進行に直接影響がでることが報告されています。口腔粘膜炎のリスクが高い頭頸部がんでの化学放射線療法では、実際に重度の口腔粘膜炎で治療継続が不可能になるケースも存在します。また、経管栄養などによる栄養管理やオピオイドによる疼痛緩和などが必要となり、医療費が増大するという医療経済学的な問題を示す研究報告もあります。

-こうした口腔粘膜炎を予防するための口腔ケアはどのように行いますか

口腔ケアとは、口腔内を良好な状態に維持するよう努める一連の介入と考えています。望ましい口腔内の状況とは、清潔で、口腔粘膜が十分に湿潤し、かつ食事や会話などが良好に機能できる状態を指します。口腔ケアの基本は物理的な汚染物の清掃除去、つまり歯ブラシを使用して食後に歯を磨くこと、粘膜を湿潤させ保護するために定期的にうがいを行うことになります。うがい薬は、消毒効果の高いものというよりは、刺激の少ない、患者の含嗽の受け入れを妨げない物が推奨されています。生理的食塩水でのうがいが最も望ましいとする無作為比較試験の結果もあります。粘膜炎による疼痛が強い場合は、うがい薬にリドカインなどの局所麻酔薬を混和して、疼痛を緩和します。

口腔管理における看護師の役割

-がんの薬物療法を行う内科医、さらには看護師が口腔ケアに関して果たす役割はどのようなものでしょう

いままでも、治療中に口腔粘膜炎を発症するリスクの高い、造血幹細胞移植を行う血液内科や頭頸部がんの化学放射線療法を行う頭頸部外科の病棟などでは口腔ケアの重要性が認識されており、看護師が中心となって積極的に入院患者の口腔ケアに努めておられたと思います。

しかし、最近では口腔ケアとは無縁のように思えた肺がん治療を担当する呼吸器内科などでも、一部のEGFR-TKIによる口腔粘膜炎などリスクの高い治療が導入されています。その点では呼吸器内科などでも後手に回らないよう、患者の口腔内の変化に注意を払うこと、とりわけ患者の訴えに応じて時折、口腔内を視・触診することが必要だと考えます。

看護系の学会、専門家団体などでも、薬物治療中のがん患者さんへの口腔ケアは重要な看護介入の一つとして強く推奨されています。とりわけ薬物治療で入院中のがん患者さんに対する口腔ケアの指導や教育では、看護師に大きな役割が期待されています。看護師は患者さんと接する時間が最も長い医療職であり、初期症状に最初に気がつく機会が多いと思います。そのため看護師でも口腔内を肉眼で確認することは必要ですし、気づいた症状を主治医や関連部署に伝達して適切な治療につなげていくコーディネーターとして役割を分担してほしいとも思います。

患者さんの口腔内の状況を問診する際には、単に「痛みはありますか?」「食事はとれていますか?」という問いではなく、「口内に何か気になる変化はありませんか?」というような開かれた尋ね方が必要かもしれません。食事が摂れていることと、食事を「美味しく」摂れていることは必ずしも同義ではないからです。

また、口腔ケアの必要性を患者さんに繰り返しお伝えすることも重要です。がん患者の口腔ケアは患者さん自身に行っていただくセルフケアだからです。がん患者さんは、少しでも治療に役立つ、治療効果に貢献できることの情報を常に欲しています。そこで「患者さん自身が自分のためにできること」の1つとして口腔ケアの必要性をお伝えすることは、がんの治療に立ち向かう、という患者さんの気持ちを支えることにもつながると思っています。

がん診療登録歯科医との連携

-がんの薬物治療中の患者さんが市中の一般歯科、あるいは従来からのかかりつけの歯科でこのような口腔ケアを受けることができますか?

少なくとも口腔ケア自体は特別な技術ではなく、全ての歯科医師が施行可能なものです。ただし、がんの薬物治療中の患者さんに行う口腔ケアが通常の歯科診療と異なる点は、チーム医療の一員として、がん治療の流れを妨げないよう、がん治療の支援としての口腔ケアであることに留意しなければならない、という点です。そのためにはがん治療に関する情報や知識、さらにがん治療中の患者さんに関する情報の共有が重要になります。

現在、厚生労働省の委託事業として、日本歯科医師会が主催した「がん医科歯科連携の講習会」を受講いただいた地域の歯科医師を「がん診療連携歯科医師」として登録し、がん患者の口腔管理を担っていただく、という取り組みが進んでいます。すでに全国で1万4千人余りの連携歯科医師が登録されており、円滑ながん医科歯科連携の受け皿となりつつあります。各地域の連携歯科医師のリストは国立がん研究センターのがん対策情報センターのホームページに掲載されています。院内に歯科が設置されていない病院などで、地域でのがん医科歯科連携をご検討の際は、是非リストをご活用ください。

歯科医師の医療者としての使命は「口腔を通して全身の健康に寄与する」ことにあり、歯を治すことはあくまで手段にすぎません。「悪い歯を治すこと」は負担が大きく難しい状況のがん患者さんには、「食べる幸せ」を維持するための負担の少ない支援、例えば口腔ケアで患者さんを支えることができます。食事や会話をすることは人としてのQOLの根幹をなすものです。がん治療開始前から歯科が介入し、口腔ケアなどの支援を行うことで、患者さんのがん患者さんの療養生活の質の向上、がん治療そのものの質の向上につながれば、と思っております。

上野尚雄先生(国立がん研究センター中央病院歯科医長)
山梨大学医学部附属病院 歯科口腔外科非常勤講師
1997年北海道大学歯学部卒業、北海道大学第一口腔外科入局
2007年静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科副医長
2008年国立がんセンター中央病院 歯科医員
2012年より現職

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