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清水産婦人科 清水喜代治院長

読了時間:約 5分18秒  2010年08月10日 PM01:45
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清水産婦人科
清水 喜代治院長

産科の「影の部分」にも真剣に
4代続く医師家系の3代目が
継承と新規性の両方に挑戦

一番の苦労

メンタル・ケアの重要性が高い、現代の妊婦

 開業して26年になるが、来院する女性の傾向が昔と少し変わってきている。晩婚化で妊婦の年齢層が高くなったにもかかわらず、むしろ精神的には幼い女性が増えている印象だ。高齢出産のリスクを理解して、「私は何もわからない。出産は未知の経験」と自覚している患者さんは大丈夫だが、そうではない人も多い。
 小さい頃から勉強ができて仕事面でも実績があるキャリアウーマンタイプの女性が、「私は何でもできる」という自信を持っていたところ、出産というまったく未知の世界に入り壁にぶつかってしまうケースが珍しくない。男性と対等に仕事をこなしてきた優秀な女性が、「まるで誰でも無事にこなしているかのように見える妊娠、出産」で、初めての挫折経験をする。そのギャップでメンタル面が不安定になってしまい、子どものようになってしまう。「お産はそういうものだよ。思い通りにはいかないよ。」と助言して、勉強や仕事とは違う、努力や頑張りでは何とも解決しない部分もある、と理解してもらうのが大変。昔は30代の妊婦さんには、母胎のリスクそのものに気をつけていればよかったが、今はメンタル面のケアに時間を割く比重が大きくなっている。
 開業医は、勤務医と違って自分一人。いざという時に誰も助けてくれない。こういう患者さんの新たな変化に対しても、自分なりの解釈・解決法を見出していかなければならない。そういう孤独な責任プレッシャーはいつもある。

一番の「秘訣」

当たり前の事を安全に。それが「医師の腕」

 勤務医と開業医の一番大きな違いは、患者さんが「大病院の看板」で来るか、「この先生に診てもらおう」と思って来るかだ。それが開業医の醍醐味でもあり、自分の腕だけを試されるプレッシャーでもある。
 勤務医の方に怒られてしまうかもしれないけれど、本当に「医師としての腕」ができるのは開業してからだと思う。大病院の勤務医という立場だと、建物は大きい、設備は最新、医師は何人もいる、医療スタッフもたくさんいる、自分がわからないことは誰かが助けてくれる。こういった環境と、すべてを自分でやらなければならない開業医の現場とは、まったく違う。
 また、大学病院にいると、特殊な症例を多くこなすことが優秀な医師の証だと錯覚してしまいがちだ。ところがクリニックには、異常分娩の妊婦さんはめったに来ない。むしろ日常的な正常分娩を安全に当たり前にできることが、開業医に求められる「腕」であり、そこを勘違いをしてはいけない。
 「腕」以外にも患者さんの信頼を得るための努力は必要だ。私の場合、その秘訣は「患者さんのパーソナリティを覚える」こと。この妊婦さんは、どんなことが好きで、どんなライフスタイルを送っていて、どんな性格なのか、を覚えるよう心がけている。患者さんが診察時に話してくれた内容を、カルテにメモすることもある。例えば妊婦さんから「旅行は大丈夫でしょうか?」と相談を受けたら、次の診察の時には「旅行はどうでしたか?」と聞くようにしている。このように患者さん一人ひとりと向き合うことが、信頼獲得につながると思う。

一番の「自慢」

母娘二代にわたり信頼いただける喜び

 私自身の誇れることは、開業してからはもちろん、医師免許を取って以来35年間で一度も仕事を休んでいないこと。そして、昨今は産婦人科の訴訟問題が騒がれているが、訴訟が一例もないことも自慢だ。
 たぶんそれらの理由は、良く言えば慎重、悪く言えば恐がりだから。恐がりは、無茶なことをしない。無理にお産をさせたり、「まあこんなものだろう」と曖昧な診断もしないことをモットーにしている。事故が起きそうな時には前もって手当てをするから、失敗もほとんどない。無痛分娩や麻酔など、慎重さが必要な技術も上手な方じゃないかと思う。医師、特に開業医は、恐がりなくらいがちょうど良いのではないか。
 長年、信頼を積み重ねてきて、良かったなと思うエピソードがあった。当院では昔から、私が書道をすることを活かして「赤ちゃんの手型・足型をつけて印刷した命名書」をプレゼントしている。そうしたら最近、この「出産のお祝い」を持って来院して、「私は先生のところで産まれました。私の子も取り上げてください。」と言ってくれた患者さんがいた。私の命名書を30年近くご家庭で大切に保存してくれていたことになる。産科医としては、本当に嬉しくて感慨深いことだった。

一番の「工夫」

遠隔地からリアルタイムで胎児・新生児の映像を

 超音波によるお腹の中の胎児の3D映像や、新生児として生まれたばかりの赤ちゃんが、インターネットを通じて、リアルタイムで見られるサービスを行っている。
 IDとパスワードでログインすれば、出張や残業などで仕事が忙しいお父さんや、遠く離れたおじいちゃん、おばあちゃんも見られる。ありきたりのサービスではなくて、オリジナリティがあり、本当に家族の方に喜んで頂けるものを模索して導入した。
 大学病院にいた頃は、患者さんを集めることにあまり関心が向かなかった。しかし私立病院では「患者さんを集めて欲しい」という要望が経営側から出される。さらに開業すれば、患者さん集めはもちろん、経営の実務すべてが自分の責任となる。小さい医療施設になるほど、医療業務だけをやっていればいいというのではなくなる。「集患」や「評判を高める」ために何ができるのか、真剣に考えるようになった。
 先に述べた「出産のお祝い」プレゼントも、開業当時に妻やスタッフが、産婦さん達に「何が一番喜ばれるか?」を一生懸命マーケットリサーチして決めたもの。ありきたりのアルバムや食器を贈っても、それほど喜ばれはしないから、オリジナリティにこだわるのが大切だ。

一番の夢

あえて真剣に取り組む、産科の「影の部分」

 「30年は開業したい」という想いから、私は34歳という若い年齢で開業した。でも、そろそろ息子達へのバトンタッチの時期に来ていると考えている。バトンタッチの仕方は、自分の立ち位置を「大院長、理事長」のような形にするのではなく、第一線を息子達に任せたいと思う。その方が、息子もスタッフ達もやりやすいはず。
 そして私自身は、一スタッフとしてカウンセリングやメンタルケアに力を入れていくつもりだ。特に重要なテーマとして「人工中絶」がある。中絶は産科の影の部分と言えるだろう。産科の「おめでとう」の部分に着目する医師はたくさんいるが、中絶という裏の部分は積極的に取り組む医師も少なく、あまり進んでいないのが現状だ。
 中絶の患者さんは、親には言えない、彼にも言えない、親しい人にもあまり話せない、というケースが珍しくない。苦しんでいるぶん、医師のことを心底、頼ってくれる。電話でじっくり話をした結果、顔も知らない私を信頼して、遠方から新幹線で来てくれることもある。
 だから私も、相談内容に応じて望まない妊娠を乗り越えるために、できる限りのことをしている。妊娠したのに産めない人のために何ができるか。影の部分だからこそ、真剣に取り組んで行きたいと思う。

医院プロフィール

清水産婦人科

〒468-0058 名古屋市天白区植田西2-902
TEL:052-801-1666
医院ホームページ:http://shimizuladiesclinic.web.infoseek.co.jp/index.html

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名古屋地下鉄鶴舞線「塩釜口」駅2番出口より約500m。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

産科、婦人科

理念

無理な処置、曖昧なままの治療はしないことがモットー。
産婦人科訴訟が問題になっている昨今、当たり前のことがきちんとできるかが問われる。

院長プロフィール

清水喜代治(しみず・きよじ)院長略歴

1975年 東邦医科大学卒業
同大産婦人科入局
1977年 聖霊病院勤務
同産婦人科医長
1981年 大医会おりど病院医長
1984年 清水産婦人科 開業

資格

医学博士、日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本医師会認定産業医

所属学会

日本産婦人科学会、日本不妊症学会

取材時にご自身の文芸作品をまとめた本を頂戴しました。
年齢を感じさせない、みずみずしい感性をお持ちです。