HRBが腸内のインドール濃度を低下させることができるか検証
京都大学は5月10日、同大と森永乳業株式会社が開設した「ヒト常在性ビフィズス菌(HRB)研究講座」の一環で実施した研究において、ヒトにすむ種類のビフィズス菌が有害物質の前駆体を有益な物質へ変換することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院 生命科学研究科の小田巻俊孝客員教授(兼:森永乳業株式会社室長・主席研究員)、片山高嶺教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gut Microbes」に掲載されている。
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腸内細菌が産生するインドールは、肝臓で代謝されインドキシル硫酸という代表的な尿毒素に変換される。インドールは腎機能が正常に機能している際は尿とともに体外へ排出されるが、腎機能の低下により排尿量が減少すると血中に蓄積されてしまうため、このインドールおよびインドキシル硫酸が腎不全の進行促進に関与していることが明らかにされている。
研究グループは今回、同社のビフィズス菌を含むHRBが腸内環境へ与える影響を調べる一環として、腸内のインドール濃度を低下させることができるか、またそのメカニズムについて検証を行った。
大腸菌が産生したインドールの濃度を大幅に低下させるビフィズス菌を発見
まず、インドールを産生することが知られる大腸菌を培養し、この培養上清とさまざまなHRBを混ぜて培養したところ、大腸菌が産生したインドールの濃度を大幅に低下させるビフィズス菌が存在することが明らかとなった。
次に、ビフィズス菌がインドールをどのように減少させているかを調べるために、安定同位体でラベル化したインドールを培地に添加し、HRBを培養したところ、アミノ酸の1種であるトリプトファン(Trp)や、脳機能の改善や免疫システムの強化をすると考えられているインドール-3-乳酸(ILA)に変換されていることが明らかとなった。
インドールからTrpを経由し、ILAに変換する代謝経路を解明
さらに、インドールが変換された物質からインドールの代謝経路を予測し、代謝に関与する遺伝子を推定した。インドールからTrpに変換する酵素 tryptophan synthase β subunit (TrpB)、Trpからインドール-3-乳酸(ILA)に変換する酵素 aromatic lactate dehydrogenases(ALDH)をそれぞれコードする遺伝子(trpB, aldh)を欠損させたHRBを作成して、先と同様の実験を行った。その結果、trpB欠損株ではTrpやインドール-3-乳酸(ILA)がほとんど産生されず、aldh欠損株ではTrpが蓄積していたことから、2つの遺伝子がこの代謝に重要であることが明らかとなった。
重要な遺伝子2つを保有している腸内細菌はビフィズス菌のみと判明
最後に、インドールを変換させる重要な遺伝子2つをどのような腸内細菌が保有しているかを調べるため、米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のデータベースに登録されている品質の高い960種1万1,943個のヒト腸内細菌株のゲノムを対象に解析を行った。その結果、trpBとaldh両方の遺伝子を保有している菌株はわずか95株のみで、その全てはビフィズス菌(Bifidobacterium属)だった。
ビフィズス菌が有害物質を有用な物質に変換し、健康を守っている可能性
以上の結果から、同社商用株を含むヒトに住む種類のビフィズス菌は、有害物質の前駆体となるインドールを体内で有用な物質であるインドール-3-乳酸(ILA)に変換させることで、ヒトの健康を守っている可能性が示された。同社はこれからも、人々の健康に貢献できる正しい情報と優れた素材を発信できるよう努めていく、と述べている。
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