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実臨床データから見えてきたアドヒアランスの重要性

読了時間:約 6分1秒  2016年09月30日 PM05:05
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非弁膜症性心房細動患者における血栓塞栓症予防の選択肢を拡大させた直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant :以下DOAC)の登場から5年が経過した。2013年改訂の「心房細動治療(薬物)ガイドライン」にはDOACの記載が追加されるなど、DOACは新たなステージを迎えたといっても過言ではない。その証左として、実臨床(リアルワールド)エビデンスの蓄積が加速度的に進んでいる。一方で、患者のアドヒアランスが最も重要な課題の1つである点は、ワルファリンの時代から変わっていない。

そこで今回は、公益財団法人心臓血管研究所 所長 山下武志先生に、リアルワールドにおけるアドヒアランスの現状を、また、日本医科大学大学院 医学研究科 神経内科学分野 大学院教授の木村和美先生にアドヒアランス向上に何をすべきか、について解説していただく。(2016年5月16日イグザレルトWEBカンファレンスより)

リアルワールドにおけるアドヒアランスの現状
山下武志先生(公益財団法人心臓血管研究所 所長)

アドヒアランスが予後に与える影響は大きい


山下武志先生
公益財団法人心臓血管研究所 所長

現在、抗凝固療法に関する様々な臨床研究が進んでいるが、実臨床での使用において、最も重要なテーマの1つがアドヒアランスである。CHARISMAスタディを基にした分析からは、患者の予後を決定する最も大きな要因が「薬物中止」であることが分かっている。

また、経口抗トロンビン薬で行われた調査によれば、アドヒアランスの基準を処方された薬剤の80%以上服薬と定義すると該当するのは7割程度、あとの3割の患者はノンアドヒアランスであった。また薬を10%余らせるごとに死亡と脳卒中のリスクが約10%増加することが報告されている。(※1)

ワルファリンも同様に、アドヒアランスは予後に影響する。アドヒアランス不良例ではTime Therapeutic Range(以下TTR)が低くなることがあるが、TTRと脳梗塞リスクの関係について検討した調査では、TTRが10%改善するごとに脳梗塞リスクが低下し、その影響はCHA2DS2-VASC scoreが高い患者ほど大きいことが報告されている。(※2)

超高齢化社会を迎えた日本では、今後、多くが脳梗塞の高リスク患者となる可能性があり、リアルワールドでは患者一人ひとりのアドヒアランスを上げることが非常に重要な課題であることは明白だ。医師や薬剤師は、処方した薬剤はある程度飲むのだろうと思いがちだが、現実は必ずしもそうではなく、時間の経過とともに患者のアドヒアランスは低下しやすく、脳梗塞リスクの上昇につながることを認識すべきである。

1) AM HEART J 2014;167:810
2) CHAN PH, ET AL. CAN J CARDIOL. 2016.

Persistence(治療の継続)の重要性

アドヒアランスに関する課題は、患者個々人によって大きく異なる。ここではアドヒアランスに関する、2つの概念について解説していく。

まず1つ目は、服薬のPersistence(治療の継続)という概念、つまり、これまで服薬を続けていた患者が、ある日、服薬を中止してしまう問題である。処方1年後のリバーロキサバンのアドヒアランスは、ワルファリンと比較して11%、ダビガトランと比較して4%良好であったというデータ(図1)がある。しかし、アドヒアランスが比較的良いとされるリバーロキサバンですら、処方1年後には約15%の患者が服薬を中止しているというデータがあり、中止理由の半数以上は副作用で、そのうちの半数以上が出血関連事象であった。

一般的に、患者は、副作用が出た際に自己判断で服薬を中断しやすく、やがてそれが服薬中止につながる。医師や薬剤師は改めてこの事実を知っておく必要があり、Persistenceを考えるうえでは、薬の副作用をできるだけ回避するとともに、対処方法を十分に説明しておくことが必要であろう。

Proportion of Days Coveredの視点から見るアドヒアランス

2番目の概念はProportion of Days Covered(PDC)だ。PDCは、本来飲むべき日数を分母、飲んだ日数を分子としてその割合を示したもの、つまり処方レジメンとおりにどれだけ服用したかの指標であり、値が高いほどアドヒアランスが良好であることを意味する。PDCはもちろん100%が理想だが、一般に80%以上服用した患者を「アドヒアランスがよい」と定義することが多い。実際、PDC80%以上をアドヒアランス良好例として、DOAC服用患者での調査した結果、1日1回のリバーロキサバンの方が、1日2回の他剤よりもアドヒアランス良好例が5~10%多いことが分かった(図2)。PDCの概念からアドヒアランスを俯瞰すると、1日1回の薬剤のほうが薬の余りが少ないことが分かった。これは当然のことのように思えるが、非常に重要なことである。

DOACのアドヒアランス 各医療機関に応じた再考を

アドヒアランスは患者の治療に対する理解度、認知症の有無、社会的背景など患者側の要因以外に、薬剤の要因、医療者側の要因について考えることも重要である。薬剤の要因では副作用や服薬回数が、医療者側の要因では、患者とのコミュニケーションの取り方等がアドヒアランスに影響する(図3)

心臓血管研究所において、2011年から2014年の間に180日以上DOACが投与された患者745人に対し、PDC90%以上をアドヒアランス良好例と定義し解析を行ったところ、94%がアドヒアランス良好例であることが分かった。

さらに、自施設の調査から分かった特徴は「若い人は忘れやすい」「1日1回の薬と1日2回の薬では、1日2回のほうが薬は余りやすい」「通院が4年5年経っていくと、忘れやすい」といった点だった。

ここでは自施設での例をあげたが、来院する患者の特徴や医療体制はそれぞれの施設で異なり、アドヒアランスの問題は複雑である。そのため、「DOACのアドヒアランスの質を上げるにはどうすればよいか」を、あらためて各医療機関が様々な観点から再考してみることが重要ではないだろうか。

アドヒアランス向上に何をすべきか
木村和美先生(日本医科大学大学院 医学研究科 神経内科学分野 大学院教授)

アドヒアランスのバリアとなる要因を探り、改善していくために


木村和美先生
日本医科大学大学院 医学研究科 神経内科学分野 大学院教授

まず、「患者はなぜ薬を飲み忘れるのか?」ということについて考えると、アドヒアランスのバリアとなる因子は、精神的要因や薬の副作用、病気に関する知識不足や費用など、患者側、医療者側の問題から治療内容に至るまで多岐にわたる。

アドヒアランスは患者の予後に大きな影響を与える。降圧薬のアドヒアランスと脳卒中リスクに関する検討では、降圧薬アドヒアランス不良群は良好群と比較して、薬物療法開始2年後の脳卒中による死亡リスクが約3.8倍、脳卒中による入院リスクが約2.7倍、10年後では、それぞれ約3.0倍、約1.7倍に増加した(図1)

アドヒアランスの低下は疾患の悪化だけでなく、死亡率の上昇や医療費の増大にもつながっていく。それを防ぐためにも、アドヒアランスのバリアを外来で探り、取り除いていくことが重要である。

アドヒアランスを良好に維持するために

アドヒアランスは医療者側だけでなく、患者自身が積極的に治療に参加することで成り立つ。患者側の最も大きなバリアは、疾患や治療への理解といえる。患者に疾患や治療についてしっかり説明し、「脳梗塞になりたくない、予防したい」という思いを持ってもらうことが重要であり、さらに、その思いや治療経過を患者と医療者が共有しながら、アドヒアランスを良好に維持していくことが必要である。

医療者側のバリアとして改善できることは、できるだけ患者の希望に沿う、複雑な処方をなるべく避けて服薬回数が少ない薬剤や一包化できる薬剤を処方する、薬価についてきちんと説明する、患者との良好な関係を維持すること等が挙げられる。また、患者だけに薬の管理を任せるのではなく、家族、友人、コミュニティ・サービスの協力のもとで行うなど周囲の人の協力も必要である。その他にアドヒアランス向上への取り組みとして、服薬カレンダーや服薬補助の携帯アプリの活用等も行われている。福岡市薬剤師会では、残薬を薬局に持参してもらい薬を管理する取り組み「節薬バック運動」を推進しており、アドヒアランスを維持する上で非常に効果的であると考える。

アドヒアランスを良好に維持するためには、アドヒアランスを定期的に確認しなければならない。アドヒアランスが不良であれば、改善するまでバリアの探求とそれに対する対策を繰り返し、たとえ良好であっても、定期的に何度も確認していく必要がある。特に、抗凝固療法は伝えるべきことが多く、一度に大量の情報を説明しても、なかなか患者の頭には入らない。繰り返し、アドヒアランスの確認と説明を行い、服薬を自然な生活習慣の一部にするよう指導していくことが求められる。

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承認番号:L.JP.MKT.XA.07.2016.1155 資材番号:XAR-16-0015