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てんかんをもつ人の就労・就職の問題点について~第56回日本神経学会学術大会シンポジウムレポート【1/4】

読了時間:約 2分25秒  2015年07月28日 AM10:00
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2015年5月20~23日に新潟コンベンションセンターとホテル日光新潟(新潟県新潟市)にて開催された第56回日本神経学会学術大会。てんかんと就労の問題がテーマのシンポジウム「社会の中の神経学:はたらく人とてんかん」で、東京大学医学部附属病院 精神神経科、国立精神・神経医療研究センター病院 精神科の谷口豪先生が精神科医の立場から「てんかんと就労」における問題点と自施設での支援体制について講演を行った。

第56回日本神経学会学術大会シンポジウム「社会の中の神経学:はたらく人とてんかん」
座長:赤松直樹氏(国際医療福祉大学 福岡保健医療学部)
   寺田清人氏(静岡・てんかん神経医療センター 神経内科)
■てんかんをもつ人の就労・就職の問題点について
 谷口豪氏(東京大学医学部附属病院 精神神経科/国立精神・神経医療研究センター病院 精神科)

てんかん患者の低い就業率の原因は

日本てんかん協会が実施した患者調査(2007年)によると、国内てんかん患者の有職率は約4割。これに対して職についていない人は約2割、授産施設・作業所利用者は約3割だった。

発作の頻度と就職率の関係をみると、「2年以上発作のない人」の就業率は約7割に上るが「日単位で発作がある人」の就業率は1割強と状態が良好な人ほど高い就業率を示した。

一方で就業者の中には年単位・月単位で発作がある人もおり発作と就業は必ずしも1対1の関係ではない可能性も認められた。谷口氏は発作以外にも就業を妨げている他の要素があると指摘。就業支援にあたっては多角的に評価する必要があると訴えた。

多職種の連携で就業をサポートする

てんかん患者に対する就業支援のあり方として谷口氏は自施設における「3つの視点による就労支援((1)ストレングスモデル(2)多職種チーム会議(3)IPSモデル)」の概要を紹介した。

(1)ストレングスモデルとは今までの経験は強み(=ストレングス)であると考えその強みを有効活用する方法を模索する手法である。「できないこと」に着目して患者に余計な負荷をかけない方向性を模索する従来の考え方と異なり過去の経験と将来の希望をベースに就労のあり方を考えていく。

(2)多職種チーム会議では(1)で作成したストレングスシートをもとに多職種会議を実施し就労支援の方向性を多職種間で共有する。会議には患者にも同席をしてもらうという。

(3)IPSモデルとは「個別的就労支援方式(Individual Placement and Support)」の略である。作業療法士や臨床心理士が仕事探しから就労定着まで全過程をマンツーマンで支援する。患者が自分の疾病を自分の言葉で説明できるよう疾患の学習なども行う。

自己評価の低下は診療の質も下げる

国も障害者の就労支援に取り組んでいる。2013年の法改正では従業員数の2.0%の(身体・知的)障害者雇用枠を義務化。2018年には精神障害者の雇用も義務化される見込みだという。

てんかん患者は発作がない時には健常人と同様に働くことができる人が少なくない。企業がその点に着目すれば障害者雇用枠を通じててんかん患者の雇用が進む可能性もある。

その場合精神障害者手帳の取得は就職に有利に働く。脳神経疾患であるてんかんは精神障害者枠になるが中には「精神障害」という響きに抵抗を覚える人も多い。谷口氏は「手帳を取得するメリットは大きい」と述べ誤解を解く必要があると説明する。

講演で谷口氏は医療者が患者の就労に関心を持つことの重要性を指摘。就業できる能力があるのに就業できないという状態は自己評価の低下や精神症状の合併につながりてんかん診療の質自体を下げてしまうと述べ医療者による就業支援の重要性を訴えた。

※この記事は株式会社ライフ・サイエンス「MEDICAMENT NEWS」第2199号(2015年6月25日発行)掲載誌面をもとにQLifePro編集部で一部再構成したものです。

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