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座談会 静脈血栓塞栓症(VTE)における治療パスと連携

読了時間:約 17分41秒  2019年11月18日 PM01:00
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座談会
静脈血栓塞栓症(VTE)における治療パスと連携

日時
2019年7月12日
場所
ANAクラウンプラザ岡山
司会
伊藤 浩 先生(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 生体制御学講座(循環器内科学)教授)
ディスカッサント
  • 岩佐 健史 先生(国立がん研究センター中央病院 総合内科・循環器内科 医長)
  • 乙井 一典 先生(神戸大学医学部附属病院 総合内科・循環器内科 助教)
  • 志賀 悠平 先生(福岡大学病院 循環器内科 講師)
  • 日浅 謙一 先生(九州大学大学院医学研究院 循環器内科学 助教、冠動脈疾患治療部(CCU)副部長・医局長)

はじめに

司会 伊藤 浩先生

伊藤 浩先生
伊藤 浩先生

直接経口抗凝固薬(DOAC)の登場によって、静脈血栓塞栓症(VTE)治療が多様化しました。このため、VTEの発生部位やリスクの程度に合わせて適切な治療を選択するための標準化の必要性が生じています。今回、ご所属の施設、または他の施設と協同して積極的に標準化に取り組まれた先生方をお招きし、各施設のVTE治療プロトコールを中心にご紹介いただきます。福岡大学では、VTEへの対応に十分なマニュアルがないところからプロトコール作成を始められ、他の診療科と連携しながら完成・運用に至られています。九州大学では、電子カルテに肺血栓塞栓症(PTE)のリスクを評価できるシステムを組み込み、適切な検査と治療を行うための工夫をされています。神戸大学では、総合内科に静脈血栓外来を開設し、さまざまな背景疾患のあるVTE患者さんに均一な治療ができるようなフローを構築されています。国立がん研究センター中央病院からは、がん患者のVTEに特化したプロトコールを紹介していただきます。VTE診療に携わる全国の先生方の日常診療において、治療方針の一例として少しでもお役立ていただければ幸いです。

当資材はVTE治療プロトコールを紹介するものであり、適応外の薬剤等の使用を推奨するものではありません。紹介された各薬剤の使用にあたっては、製品添付文書をご参照ください。

各施設におけるVTE治療プロトコール

福岡大学病院のプロトコール/志賀 悠平先生

志賀 悠平先生
志賀 悠平先生

当院では、2017年からVTE治療プロトコールを作成し始め、2019年1月から運用しています。それまでは、当院の医療安全ポケットマニュアルに、PTEを疑ったら循環器内科に相談するという連絡体制が記載されているのみで不十分でした。また、術前のVTE評価は臨床症状とDダイマーに基づいて実施しており、Dダイマー陰性でもVTEが再発する可能性がある1)ことからも改善が必要と考えられました。特に整形外科や消化器外科など、外科の疾患に合併したVTEが多いことから、これらの診療科と協同し、プロトコールを作成しました。

当院のVTE治療プロトコール(図1)では、まず、深部静脈血栓症(DVT)-Wellsスコア<3点の場合にDダイマー検査を行い、<1μg/mLで「DVTなし」とします(図1-1)。DVT-Wellsスコア≧3点の場合には画像診断を行って、DVTがないか末梢の器質化血栓であれば経過観察、DVTがあれば循環器内科に相談、という流れです。

DVTありで、末梢型の場合はPTE-Wellsスコアまたは改訂ジュネーブ・スコアで評価します(図1-2)。スコア<2点でも、強い症状やDダイマー上昇などの危険因子がある場合には抗凝固療法を前向きに検討します。強い症状や危険因子がなければ、1~2週間後に下肢静脈エコーを行い、血栓進展があれば抗凝固療法を行います。スコア≧2点の場合、中枢型と同様に造影CTによってPTEの除外診断を行います。PTEがなければ、IVCフィルターの留置について検討するようにしています。浅大腿静脈(SFV)より遠位でSFVに遊離血栓がある場合、また総大腿静脈より近位の場合に、IVCフィルター留置を考慮します。

PTEが発見された場合、高リスク群では、抗凝固療法と血栓溶解療法を行います(図1-3)。非高リスク群ではsPESIスコアで評価し、スコア≧1点でモニタリングを行いながら抗凝固療法を、0点では早期退院を考慮した抗凝固療法を検討します。

図1 福岡大学病院におけるDVT治療プロトコール
(志賀 悠平先生ご提供)

抗凝固療法は、“DVT、低リスクPTE”では、リバーロキサバンまたはアピキサバンでのシングルドラッグアプローチ(経口抗凝固薬による単剤療法)か、未分画ヘパリンまたはフォンダパリヌクスで抗凝固療法を開始し、エドキサバンまたはワルファリンに変更しています(図2-1)。“中等度リスクPTE”での抗凝固療法も同様ですが、シングルドラッグアプローチの前に未分画ヘパリン5000単位の単回静脈内投与を検討する点が異なります(図2-2)。

図2 福岡大学病院における抗凝固療法
(志賀 悠平先生ご提供)

九州大学病院のプロトコール/日浅 謙一先生

日浅 謙一先生
日浅 謙一先生

私は約2年前から、他科医師、看護師、検査技師、薬剤師やシステムエンジニア等の多職種によるチームでVTE診療に関する院内体制を構築してきました。例えば予防については、最近抗がん剤使用後など内科系でのVTEが増えていることを踏まえ、周術期のみで徹底していた予防管理を、2019年1月から非手術症例でも手軽に行えるよう、電子カルテの仕組みを改変しました。また、4月からは予防に加え診断および治療手順においても電子カルテのスクリプト機能を活用した新たな体制が稼働しています。

こちらが当院の急性PTEの診断手順です(図3-1)。ショックを伴うPTE疑い患者は他の病態の除外も必要になりますので院内規定に則り、循環器内科ではなくRapid Response Systemを起動し、救急医による診療が開始されるようになっています。ショックがなければ臨床的確率を評価しますが、「評価する」と記載しているだけでは、専門医、非専門医に関わらず適正な評価は必ずしも行われません。そこで、臨床的確率評価のために日本循環器学会ガイドラインでも推奨されているWellsスコアと改訂ジュネーブ・スコアを診断ツールとして電子カルテに入れ込み、該当項目を選択することで自動的に評価できるようにしました(図3-2)。いずれかのスコアでPTEの可能性が高いと判断されれば、自動的にCTオーダー画面が立ち上がります。PTEの可能性が中~低の場合、Dダイマーを含む採血セットのオーダー画面が表示されます。循環器専門医の介在しない中での緊急CTを正当化することについては当初懸念の声もありましたが、本システムはむしろCTまでの時間を短縮でき医療安全上メリットがあること、また不要なCTオーダーを減らす可能性が高いこと、さらには診断に至るまでの一連の過程を自動で記録に残すことができ、後の検証にも耐えうる診療体制となることから、関係各部署の同意を得ることができました。

CTでPTEを発見した場合、治療手順のボタンをクリックすると図3-3に準じ、ショックがあれば循環器内科call、なければsPESIによるリスク評価を行える画面に誘導されます。sPESI≧1点の中等度リスク群は通常右室負荷所見の有無を評価し、治療方針を決定すべきですが、専門家による判断を要することと、マニュアルの煩雑化を鑑み、院内の診療手順からは削除しました。一方、sPESI 0点の低リスク群は各診療科での治療を促進するため、循環器内科受診に加え、各科にて抗凝固療法開始を可能とし、さらに「早期退院or外来治療を検討」と但し書きを加えることで、循環器内科以外でも治療が可能であることをアピールするようにしました。

また、心房細動と異なり腎機能による調整が不要な薬剤もありますが、実際は不必要な減量処方など、誤った処方がなくならない状況で、薬剤師の疑義紹介の手間も問題となっていました。VTE治療ボタンを押すことで、適応通りのセット処方が行え、さらには腎機能評価ツールが立ち上がることで、高度腎機能障害では注意が必要であることや、減量処方の必要な薬剤が明示されるようにし、不適切処方はシステム上不可能な仕組みとなりました。今後はこの改修による効果をモニタリングしていくことにしています。

図3 九州大学病院におけるPTE診療プロトコール
(日浅 謙一先生ご提供)

神戸大学医学部附属病院のプロトコール/乙井 一典先生

乙井 一典先生
乙井 一典先生

当院では2017年1月からVTE治療プロトコールを導入して標準化を図るとともに、総合内科に静脈血栓症外来を開設して患者さんの集約化を目指しました。以前は循環器内科がVTEの診療にあたっていましたが、VTEは他の疾患に付随して起こることがほとんどであるため、総合内科に集約することにし、他の診療科と連携しながら診療しています。

VTE治療プロトコール(図4-1)では、DVTが疑われたら、Wellsスコア<2点かつDダイマー<1μg/mLで経過観察、Wellsスコア≧2点またはDダイマー≧1μg/mLで下肢静脈エコーを施行、DVTがあればこの時点で総合内科へのコンサルトを考慮できるように、コンサルト基準を明確にしました。

DVTがある場合(図4-2)、PTEをPTE-Wellsスコアと改訂ジュネーブ・スコアで評価し、疑わしければ造影CTを撮ります。CTでPTEが発見されればPTEプロトコールに移行、PTEがなくDVTが下腿に限局していれば末梢型DVTプロトコールを適用、膝窩静脈より近位であれば抗凝固療法を行います。

末梢型DVTプロトコール(図4-3)では、症状を伴うか血栓進展の危険因子がある場合、抗凝固療法を行います。無症状や危険因子がなければ2週間後に下肢静脈エコーでフォローアップをして、血栓進展があれば出血リスクを鑑みて抗凝固療法を考慮します。

PTEプロトコール(図4-4)は、高リスク群は循環器内科に依頼しCCUで管理、非高リスク群は総合内科で治療します。非高リスク群では、sPESI≧1点の中等度リスクであれば入院で抗凝固療法を行います。その場合、まず未分画ヘパリン5000単位を単回静脈投与し、以降はPTE低リスクやDVT単独と同様にDOAC等の抗凝固療法を行います。抗凝固薬であるリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ワルファリンの選択は、血栓・出血リスクより最適な薬剤を選択することになりますが、個々の医師の判断に任せています。一方、sPESI<1点の低リスク、DVT単独の場合、外来治療も考慮して抗凝固療法を行います。その場合は、シングルドラッグアプローチが可能なリバーロキサバンやアピキサバンが選択肢に挙がります。

プロトコールでは、急性期(治療開始3週間前後)と、慢性期(3か月後)に下肢静脈エコーや造影CTでの画像フォローアップを行うことにしています。基本的に抗凝固療法は3か月継続で、3か月後以降抗凝固療法を継続するかどうかの判断は、個々の症例の患者背景や血栓退縮の程度等から総合的に判断するため、現時点では明確な基準は設けていません。そのため非専門診療科の医師がVTE治療を行い、何か相談したいことがあった際に、静脈血栓症外来にコンサルトしていただくケースも多く見受けられ、相談窓口を明確化したことは、院内連携の観点からも意義があると考えています。

プロトコール導入後、新規VTE患者への処方件数は総合内科が全処方数の1/3を占めるなど、症例の集約が可能となっています。プロトコール導入で治療を標準化することにより、新たなエビデンス構築につながるデータの集積が期待できると考えています。

図4 神戸大学医学部附属病院におけるDVT治療プロトコール
(乙井 一典先生ご提供)

がん拠点病院と連携総合病院でのがん合併VTE共通パス/岩佐 健史先生

岩佐 健史先生
岩佐 健史先生

国立がん研究センターを含めたがん専門病院2施設と連携総合病院2施設で、VTEパスの作成に取り組んできました。VTE全般ではなくがん合併例に特化している点と、単施設ではなく4施設で連携して運用する前提となっている点で、これまで紹介頂いた3つのパスとやや異なります。しかしながら、本邦でのVTEの基礎疾患としてがんは約3割を占めており、これは長期臥床・手術を抑えて1位であること2)、がん合併VTEは、ほかの原因によるVTEよりも再発率、出血リスク、死亡リスクが有意に高く3)、治療の判断に迷うことから、がん合併VTE特化型パスの必要性は決して低くないと考えます。また、多数の循環器専門医と補助循環やカテーテル設備を抱える大学病院ではなく、循環器診療の人的・物的リソースに限界があるがん専門病院での運用を目指すパスは、幅広い実臨床現場に応用可能と考え、紹介する次第です。

今回我々は、VTEの侵襲的な治療が可能な近隣施設と連携し、患者転送基準を含めた統合パスの作成を目指して3年間議論を重ね、がん周術期と非周術期それぞれのフローチャートが完成しました。

がん周術期(図5-1)は、手術の延期を最小限に止め、安全かつ確実に手術を遂行することが最優先です。そのため、まずは感度が高いDダイマーでスクリーニングし、基準値以上の場合には画像診断でDVTを検索します。

末梢型DVTの場合は、手術まで1週間以上あれば抗凝固療法を導入し、術直前の下肢エコーで増大傾向がなければ予定通り手術、中枢進展があれば術前のIVCフィルター挿入を考慮します。術後、可能となった時点で抗凝固療法を再開し、悪性腫瘍が根治していれば3か月、残存・再発があれば6~12か月以上継続します。それ以降は3か月ごとの画像検査で血栓消失を確認した時点で、抗凝固療法の終了を検討します。中枢型の周術期フローチャートもほぼ同じですが、緊急性のある手術の場合は積極的にIVCフィルターの挿入を模索することとし、可能な限り抗凝固療法を実施してから手術します。

非周術期フローチャート(図5-2)は、がん患者にVTEが発見された場合の治療方法を対象としていますが、外来、がん専門病院への入院、連携施設への転院と、3つの選択肢から治療場所を決めることを重視しています。末梢型DVTであれば外来治療、中枢型DVTであれば造影CTでPTEを検索します。PTEがある場合、sPESIスコアで死亡リスクを層別化するのですが、がん患者の場合は1点加算されるので、自動的に全例高リスク(≧1点)と判断されます。本フローチャートでは、リバーロキサバンの臨床試験4)を参考に、≧2点で入院治療、1点では外来治療を考慮することとしました。入院の場合は、全身状態・バイタルサイン、心エコー、BNP※1またはNTproBNP※2、トロポニンIまたはTを測定し、呼吸・循環不全やショック状態、右心負荷と心筋障害など亜広範型(submassive)以上の重症度を示唆する所見を認めた場合は連携施設への転院を、それらがない場合は自施設での入院を選択します。転院先での治療の結果、これらの問題が解決またはコントロール可能となれば、速やかに再転院を受け入れ、治療を継続することとしています。

※1:BNP:脳性ナトリウム利尿ペプチド
※2:NTproBNP:N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド

図5 がん合併VTE共通パス(国立がん研究センターを含むがん拠点病院と連携総合病院)
(岩佐 健史先生ご提供)

他の診療科や部門の理解・協力を得るためには

伊藤:最後に、プロトコールの作成や導入にあたって、他の科や部門をどう巻き込んでいったのか、お教えいただけますか。

乙井:当院では、VTEへの処方が多い循環器内科や産婦人科などと意見交換をしてコンセンサスを得た上でプロトコールを導入しました。また「総合内科の静脈血栓症外来でフォローアップを含め診ます」というスタンスを取ったこともスムーズな運用につながったと考えています。もともと循環器内科へのコンサルトの負担が大きいという課題からスタートしたのですが、その点はコンサルトの基準を明確にすることで対応し、非専門診療科からは相談窓口を一つにしたことも、プロトコール運用に理解が得られやすかったのではないかと考えています。

岩佐:他科の理解を得る上で最も効果的なのは医療安全の観点から訴えることです。DVTの診断が画期的に増えたのは、医療安全委員会から、術前に必ずスクリーニングをするよう指示があったのがきっかけでした。その他には、術前精査のオーダーの権限を持つ看護師が、DVTスクリーニングのオーダーと循環器内科へのコンサルトを依頼する仕組みを作ったことも、円滑な運用につながっています。

伊藤: 医師のみに任せないことも重要ですね。医師が別のことに集中していても、プロトコールを掌握している看護師がいれば、ルーチンワークのなかで必ずチェックしてくれます。志賀先生、日浅先生の施設ではいかがでしょうか。

志賀:当院でも、まず医療安全管理部に相談しました。また、院内全体で納得いく検査・治療を行えるよう、循環器内科が主導しながらさまざまな科を巻き込んで協力しながら進めました。リアルワールドミーティングという会を開いて各科と協同していくうちに、皆さんの意識も自然と向上していきましたし、周知もしやすくなりました。

日浅:私は病院から同意を得られるように、病院機能評価の認定の際に算出している「中リスク以上の手術における肺血栓塞栓発生率」に加え、院内発症例の予防管理未施行率などの医療安全に関するデータを示したほか、VTEの予防管理料を例にコストの観点からも病院にメリットがあることを訴え、理解を得ました。また、各科の先生方が“やらされている”と感じると運用が上手くいかないので、これまでよりCTを含む検査や治療のプロセスが簡便になり、かつ処方で間違いが起こらないなど、各科の先生にメリットのある仕組み作りを目指しました。

伊藤:その仕組み作りの過程は感動に値します。
本日は、各施設の作りこまれたプロトコールと、仕組み作りにあたって周りを巻き込み動かしていったご経験をうかがい、大変勉強になりました。ありがとうございました。

1)Kearon C et al.:Ann Intern Med 162(1):27-34, 2015
2)Nakamura M et al.:Circ J 78(3):708-717, 2014
3)Yamashita Y et al.:Circ J 82(5):1262-1270, 2018
4)Fermann GJ et al.:Acad Emerg Med 22(3):299-307, 2015

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