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最前線のチーム医療 地域に根ざしたてんかんセンターを目指す【1/4】地域へのてんかんの疾患啓発が第一の課題

読了時間:約 3分30秒  2015年03月13日 AM10:00
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包括的てんかんセンターの概念図
※MEDICAMENT NEWSに掲載された図をもとにQLifePro編集部で作成

埼玉県南西部に位置する朝霞台中央総合病院(村田順院長)は、2011年に久保田有一氏が赴任後、てんかん診療に注力し、2014年10月に脳卒中・てんかんセンターが本格稼働した。

てんかんセンターは埼玉県内で包括的てんかん医療を展開すべく、多くのスタッフに支えられながら活動を続けている。今回同院を訪れ、久保田先生をはじめ、てんかんのチーム医療に従事する医療スタッフの皆さんにお集まりいただき、「地域に根ざしたてんかんセンター」業務の実際について率直にお話をいただいた。

※この記事は株式会社ライフ・サイエンス「MEDICAMENT NEWS」第2185号(2015年2月5日発行)掲載誌面をもとにQLifePro編集部で一部再構成したものです。

急性期・慢性期のどちらにも対応できる施設を

――てんかんセンター設立の経緯を。

久保田先生(脳卒中・てんかんセンター センター長)
てんかんは100人に0.8~1人が罹患する一般的な疾患でありながら、わが国には専門医が少ないのが現状です。アメリカでは住民250万人に1施設、てんかんの専門施設があると聞きますが、700万人を超える人口を有する埼玉県にはその専門施設がこれまでありませんでした。

例えば、てんかん重積発作を起こし救急で搬送される患者さんの場合、一般病院ではなかなか受け入れてくれないケースが多いようです。埼玉県のてんかん難民の方々を減らすためには、地域でてんかん患者さんの急性期と慢性期のどちらにも迅速に対応できるてんかんセンターがぜひとも必要だと考えました。

私が当院に赴任したのは2011年ですが、その8月に長時間デジタルビデオ脳波計を導入し、2012年初めにはてんかん外来を本格的にスタートしています。そして2013年4月には救急脳波計も導入しました。その後、2014年の7月にセンター化が院内で承認され、同年10月からてんかんセンターが本格稼働しています。てんかん外来(毎週水・金曜日)は、脳神経外科の中本先生が新たに加わり私と二人で担当しています。小児てんかん外来(毎週金曜日)は東京女子医科大学から伊藤先生に来ていただいてます。

急性期から慢性期患者さんの社会復帰までを支援する包括的ケアを実践するためには、医師の他にも看護師、薬剤師、検査技師、臨床心理士、理学療法士、作業療法士、言語療法士、ソーシャルワーカー、そしてメディカルクラークなど、多くの医療スタッフが関わらなければなりません(図:包括的てんかんセンターの概念図)。今回は、てんかんセンターで活躍してもらっているスタッフの代表が集いましたので、その現場の声を聴いてもらえればと思います。

小児てんかんに対する地域への啓発が先決

――まず小児てんかん外来の状況について伊藤先生に。

東京女子医科大学 伊藤進先生(小児科学講座 助教・医局長)
私が担当する患者は、0歳児から15歳、つまり中学3年生までが対象です。小児てんかんと成人てんかんの大きな違いは、小児の場合、乳児期、幼児期、学童期、思春期と年齢によって発症するてんかんがそれぞれ異なるところです。乳児は様々な不思議な動きをしますが、それがてんかんによるものなのか、あるいは違う理由によるものなのかを見極める必要があります。

幼児期から学童期にかけては、注意欠如・多動性障害(AD/HD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)など、発達障害を合併することもあり、その点にも注意が必要です。小中学生では、精神的な問題で引き起こされる非てんかん発作もあるため、やはり鑑別が重要になります。このように小児てんかんは様々な症状を呈するので、特有の発作を知ってさえすれば、早期診断・早期治療につながります。

例えば、小学校6年生でランドセルに教科書を入れようとすると手が震えて本を投げ出してしまう。そのようなことがきっかけでその子は1年間不登校となってしまいました。中学1年生になってようやく当院外来を受診しましたが、よく話を聞くと、若年ミオクロニーてんかんであることがわかり、抗てんかん薬を処方するとピタリと発作が止まったのです。

あるいは小学校の女児で授業中よくボーッとしている。周りからはそんな性格だと思われていたようですが、当院で調べてみると、1日に30~40回も欠神発作が起こっていました。このような症状では車道などを歩いて発作が起これば、自動車に轢かれかねません。

小児欠神てんかんだと分かれば、すぐ薬物療法を開始することで発作は治まります。つまり、地域の開業医の先生や学校の先生方には、小児てんかんには特有の症状があり、適切な早期診断と早期治療を行うことで、症状をうまくコントロールできるということをぜひともご理解いただきたいのです。

学校の先生との連携も重要です。例えば、小児てんかんのお子さんは水泳の授業を受けられるのか? プールに入れないということはないのですが、発作の状況によっては制限が必要な場合もあります。私は現在、日本てんかん協会の東京都支部の世話人をしていて、患者さん向けの講座や教職員向けの講座を開催していますが、当センターでも将来的には、周辺の保育園、幼稚園、小学校、中学校などを対象にてんかん講座を定期的に開催できるようになればと思います。

もう1つ、小児てんかん診療では、患者が成長してもなかなか小児科から成人の診療科へ移行が難しいという小児慢性疾患のトランジション(キャリーオーバー)の問題があります。幸い当てんかんセンターには、久保田先生、中本先生の成人のてんかん外来があるため、患者さんが高校生になったらスムーズに成人外来に移行することができます。

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