極めて予後不良な膠芽腫、脳内老廃物排出機能との関連は未解明
順天堂大学は11月26日、IDH野生型膠芽腫(以下、膠芽腫)患者において、腫瘍から離れた対側半球の脳クリアランスシステムの機能低下が生存期間と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科放射線診断学の萩原彰文准教授、鎌形康司教授、健康データサイエンス学部の内田航助教、青木茂樹特任教授/学部長、医学研究科脳神経外科学の近藤聡英教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuro-Oncology」にオンライン掲載されている。

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膠芽腫は最も悪性度の高い原発性脳腫瘍であり、標準的な治療を行っても生存期間中央値は約11~15か月、5年生存率は5%未満という極めて予後不良な疾患である。そのため、新たな予後予測バイオマーカーと治療標的の開発が急務とされている。
近年、脳内の老廃物を排出する脳クリアランスシステムが注目され、その機能低下がさまざまな脳疾患の病態に関与することが報告されている。膠芽腫においても、腫瘍による脳浮腫や頭蓋内圧上昇、遠隔部位での神経炎症などにより、腫瘍のある側だけでなく対側半球でも脳クリアランス機能が障害される可能性が指摘されている。しかし、膠芽腫において、脳クリアランス機能の変化と予後との関連は明らかになっていなかった。研究グループは、MRIを用いて非侵襲的に脳クリアランス機能を評価し、膠芽腫患者における脳間質液動態の変化と生存期間との関連を明らかにすることを目的とした。
公開データベースから術前MRIデータを解析、脳クリアランス機能を示す2指標を測定
この研究では、UPENN-GBMとUCSF-PDGMという2つの公開データベースから、膠芽腫患者の術前MRIデータを用いて解析を行った。
まず、拡散MRIデータから、脳クリアランスを司るグリンパティックシステムに関連したMRI指標(血管周囲腔に沿った水の拡散率、脳間質自由水量)を算出した。これらの指標を、腫瘍領域と両側半球の正常白質で測定し、施設間差を補正するためComBat法によるデータ調和(ComBat調和法)を実施した。
腫瘍部位で血管周囲腔に沿った水の拡散率低下、左右の正常部位間に差はなし
その結果、腫瘍領域では対側および同側の正常白質と比較して、血管周囲腔に沿った水の拡散率が有意に低下していることが明らかになった。一方、対側および同側の正常白質間では、この指標に有意差は認められなかった。
対側半球の脳クリアランス機能低下が予後不良と関連、複数指標でより精緻に予測
次に、生存期間との関連を検討したところ、対側半球の正常白質において、血管周囲腔に沿った水の拡散率の低下と脳間質自由水量の上昇が、年齢、性別、造影腫瘍体積とは独立して予後不良と関連することが判明した。さらに、局所白質構造の指標で追加調整しても、血管周囲腔に沿った水の拡散率は有意な予後因子として残った。
UPENN-GBMデータセットで最適なカットオフ値を決定し、この閾値をUCSF-PDGMデータセットで検証したところ、独立したデータセットでも有意な生存期間の層別化に成功した。
さらに、血管周囲腔に沿った水の拡散率と脳間質自由水量を組み合わせた層別化を行ったところ、高拡散率/低自由水量群は、中間群および低拡散率/高自由水量群と比較して有意に生存期間が長く、これらの指標の組み合わせによってより精緻な予後予測が可能であることが示された。
脳クリアランス機能、新たな予後因子や治療標的として期待
今回の研究により、最も悪性度の高い膠芽腫において、腫瘍から離れた対側半球の脳クリアランス機能の低下が、腫瘍体積や局所白質構造とは独立した予後因子であることが明らかになった。これは、脳クリアランスシステムの機能不全が全身性の現象として患者予後に影響を与える可能性を示唆している。
今後、これらのMRI指標を用いた予後層別化により、リスクに応じた治療戦略の最適化が可能になると期待される。例えば、低拡散率/高自由水量の高リスク患者には、より強力な治療や免疫チェックポイント阻害薬を選択し、逆に高拡散率/低自由水量の比較的良好な予後が期待される患者には、QOLを重視した治療選択を検討するということが可能となる可能性がある。また、脳クリアランス機能を改善することが新たな治療標的となる可能性がある。
「睡眠改善、運動療法、アクアポリン4調節薬、抗炎症療法など、脳クリアランス機能を促進する介入が、膠芽腫患者の予後改善につながる可能性があり、今後の研究課題として期待される。より大規模な前向き研究や他の脳腫瘍への応用拡大、脳クリアランス機能を標的とした治療介入研究を進める予定」と、研究グループは述べている。
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