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血液製剤を使用した患者の生存率、供血者の性別は影響しない-約8,700人の臨床試験で

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2023年04月24日 PM03:15

供血者の性別で輸血を受ける患者の生存率は変わらない

供血者(血液を提供する人)の性別は受血者(輸血を受ける患者)の生存率に影響を与えるのか。未解決だったこの問題の答えとなる研究結果が報告された。赤血球製剤の輸血では、供血者が男性でも女性でも受血者の生存率に差はないことが、二重盲検ランダム化比較試験で明らかにされた。オタワ病院(カナダ)のDean Fergusson氏らによるこの試験の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月13日掲載された。


画像提供HealthDay

米国国立心肺血液研究所は2015年に、供血者の年齢や性別といった因子が受血者の生存率に与える潜在的な影響を、輸血医療における主要な未解決問題として認定した。これを受けて複数の観察研究が実施されたものの、一貫したエビデンスは示されていない。

この問題を解決するためにFergusson氏らは、8,700人以上の患者を対象とした、画期的な大規模臨床試験を実施した。研究論文の筆頭著者である、モントリオール大学(カナダ)医学部のMichaël Chassé氏は、「この問題の答えを出すには、大規模なランダム化比較試験を実施する必要があった。しかし、それには途方もないコストがかかる」と振り返る。そして、「われわれは、試験を実臨床に組み込むという実用的な方法を用いることで、通常の臨床試験にかかるコストに比べるとわずかなコストで、この疑問の答えを見出すことができた」と述べる。

具体的には、オタワ病院で赤血球製剤の輸血を必要とする可能性のある全ての成人患者を試験に登録し、男性供血者由来または女性供血者由来の赤血球製剤をランダムに割り当てて輸血を行った。その後、オタワ病院データウェアハウス(Ottawa Hospital Data Warehouse)から患者の特性や検査・臨床データなどを入手。また、Canadian Blood Services(カナダ血液サービス)から供血者のデータを入手し、ICES(旧称:Institute for Clinical Evaluative Sciences、臨床評価科学研究所)の医療データベースとリンクさせた。研究グループによると、一般的な試験方法を用いた場合には、推定900万ドル(1ドル134円換算で12億600万円)のコストがかかるところを、この方法を用いたことで30万ドル(同4020万円)に抑えることができたという。

試験では、最終的に8,719人が赤血球製剤の輸血を受けた。これらの患者のベースライン時の平均年齢は66.8±16.4歳で、5,190人に男性供血者由来の赤血球製剤(男性由来製剤群)、3,529人に女性供血者由来の赤血球製剤(女性由来製剤群)が使われた。6,969人(79.9%)は入院中に初回の輸血を受け、このうちの2,942人(42.2%)は手術患者だった。試験期間中に、女性由来製剤群で1,141人、男性由来製剤群で1,712人が死亡した。年齢と性別を調整した全生存に関する解析では、男性由来製剤群を1とした場合の女性由来製剤群での死亡のハザード比は0.98(95%信頼区間0.91〜1.06)であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった。

Fergusson氏は、「いくつかの観察研究では、女性供血者由来の血液製剤を用いた輸血では、男性供血者由来の血液製剤を用いた場合よりも、受血者の死亡リスクが高いことが示唆されていた。しかし、われわれの臨床試験により、それが事実ではないことが明らかになった」と述べている。

Canadian Blood Servicesの上級科学者であるJason Acker氏は、「輸血は病院で行われる最も一般的な救命処置だ。血液供給会社として、輸血医療におけるこの非常に重要な問題の解明に協力できたことをうれしく思う。われわれは、この試験結果を受け、適格条件を満たす全ての人が今後も引き続き献血に協力してくれることを願っている」と話している。

なお、本研究は、カナダ保健研究機構の助成を受けて行われた。(HealthDay News 2023年4月13日)

▼外部リンク
Effect of Donor Sex on Recipient Mortality in Transfusion

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