男性用経口避妊薬、動物実験で有望性を示す
避妊法として男性が避妊薬を服用する日もそう遠くないかもしれない。マウスを使った予備研究で、非ホルモン性の男性用経口避妊薬により妊娠を予防でき、明らかな副作用も認められなかったとする研究結果が報告された。米ミネソタ大学のAbdullah Al Noman氏らによるこの研究の詳細は、米国化学会春季年会(ACS Spring 2022、3月20〜24日、米サンディエゴ/オンライン開催)で発表された。

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女性の避妊法には、経口避妊薬や避妊パッチから子宮内避妊用具までさまざまな選択肢があるが、男性での有効な手段には、コンドームと精管結紮術(パイプカット)の2つの選択肢しかない。このうち、コンドームは使い捨てである上に、避妊に失敗する可能性もある。これに対して、パイプカットは永久避妊法である。パイプカットを行った場合でも、再建術により元の状態に戻せる可能性はあるが、施術は高価な上に、常に成功するとは限らない。こうした現状から、男性にも女性と同様に効果的で長持ちする可逆的な避妊法が必要とされている。Noman氏は、「効果的な男性用経口避妊薬の開発は、何十年も前から試みられてきた。だが、いまだに承認された避妊薬は市場に出回っていない」と話す。
現在臨床試験中の男性用経口避妊薬のほとんどは、男性ホルモンであるテストステロンを標的としたものである。ホルモン性の避妊薬は、体重増加、抑うつ、LDL(悪玉)コレステロールの増加などの有害な副作用を伴う可能性がある。Noman氏は、「われわれは、こうした副作用を伴わない、非ホルモン性の男性用避妊薬を作りたかった」とACSのニュースリリースで語っている。
Noman氏らが今回マウスで試した避妊薬は、レチノイン酸受容体アルファ(RAR-α)と呼ばれるタンパク質を標的にしている。RAR-αは、ビタミンAの誘導体であるレチノイン酸に結合する3種類の核内受容体ファミリー(RAR-α、RAR-β、RAR-γ)のうちの1つである。ビタミンAは、細胞の増殖と分化(精子形成も含む)や胚の発生に重要な役割を果たしている。同氏らは、レチノイン酸に結合したこれら3種類の核内受容体の結晶構造解析データを基に、RAR-αに関わる約100種類の化合物を設計・合成し、それらのRAR-α阻害能を評価した。その結果、YCT529と呼ばれる化合物がRAR-αを、RAR-βやRAR-γより500倍も強力に阻害することを突き止めた。
このYCT529を4週間、雄のマウスに経口投与したところ、マウスの精子の数が大幅に減少し、99%の妊娠予防効果のあることが明らかになった。また、目立った副作用はいっさい確認されなかった。さらに、YCT529の投与を中断してから4〜6週間後には、マウスの生殖能力が回復することも確認された。
Noman氏が所属する同大学の研究室を率いるGunda Georg氏によると、2022年第3四半期または第4四半期に、ヒトを対象にYCT529の安全性と有効性を検討する臨床試験が開始される見込みであるという。Georg氏は、「動物実験で有望性が示された化合物が、ヒトを対象にした試験でも同様の効果を示すかどうかは不透明だ。そのため、われわれは、他の化合物についても検討しているところだ」と話す。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
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・A non-hormonal pill could soon expand men’s birth control options

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