モノクローナル抗体薬の自宅での投与でコロナ重症化を予防
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者の重症化予防には、新型コロナウイルスを中和するモノクローナル抗体薬の点滴投与が有効だが、現在、必要とする全ての人が同薬による治療を受けられる状況にはない。こうした中、米ミシガン州の医療機関でパラメディック(高度な救急・救命処置を行うことができる救急隊員)が患者の自宅でモノクローナル抗体薬を投与するという独創的な方法が試みられた。詳細は、「JAMA Network Open」に10月14日発表されたリサーチレターで報告された。

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モノクローナル抗体は、免疫システムによって大量に作られる抗体に類似した、人工的に作られたタンパク質である。COVID-19の治療に用いられているモノクローナル抗体薬は、新型コロナウイルスの表面のスパイクタンパク質を認識するように設計されている。現在、米国では重症化リスクの高い軽症COVID-19患者の治療薬として3種類のモノクローナル抗体薬が認可されている。これまでに報告されている臨床試験では、これらの薬剤によってCOVID-19患者の入院リスクが70%低下したことが示されている。
モノクローナル抗体薬による治療は、救急外来や外来診療所など、さまざまな場所で行われているが、医療従事者による点滴投与を必要とする。このため、COVID-19の感染拡大期には、医療機関に重い負担が強いられるだけでなく、体調を崩した患者が受診のために移動しなくてはならなくなる。論文の筆頭著者である、米セント・ジョセフ・マーシー病院のAnurag Malani氏は、「こうした状況は、特に低所得者層にとって大きな障壁となる。移動手段がない人は、バスに乗らざるを得ない。親戚に送迎を頼むにしても、その親戚は送迎のために仕事を1日休まなければならないかもしれない」と話す。
そこで、同病院も属するヘルスケアネットワークであるセント・ジョセフ・マーシー・ヘルスシステムが新たな選択肢として用意したのが、パラメディックが患者の自宅に赴いてモノクローナル抗体薬を点滴投与するという方法だ。2021年2月から5月にかけて、ミシガン州の3つの郡で144人(平均年齢60.1歳、女性57.6%)がこの方法でモノクローナル抗体薬の治療を受けた。その結果、3人(2.1%)が同薬の投与に対する過敏性反応を呈して病院に搬送されたものの、ほとんどの患者(94.4%)が重症化リスクを回避できたという。抗体薬の投与後12時間以上14日以内にCOVID-19が重症化して入院に至った8人(5.6%)は、気管挿管が必要になるまで悪化することはなく、全員が退院した。
米ピッツバーグ大学医療センターのRichard Wadas氏によると、モノクローナル抗体薬は発症から10日以内に投与する必要があり、投与は早ければ早いほど良いという。同氏は、このセント・ジョセフ・マーシー・ヘルスシステムの革新的な戦略を賞賛し、「モノクローナル抗体薬投与に対応できるスキルがパラメディックに備わっていることは確かだ」と述べている。その一方で同氏は、モノクローナル抗体薬は入院リスクを低下させるがワクチンに代わるものではないことを指摘し、「まずはワクチンを接種することが肝要だ」と強調している。
▼外部リンク
・Administration of Monoclonal Antibody for COVID-19 in Patient Homes

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