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マクロファージ表現型操作技術により高齢マウスの骨治癒機能が回復-産総研ほか

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2025年11月04日 AM09:30

高齢組織の再生治療は発展途上、マクロファージ操作に課題があった

産業技術総合研究所(産総研)は10月22日、ホスファチジルセリンリポソーム(PSL)によるマクロファージの表現型の操作が、老化骨の再生の促進に有効であることを実証したと発表した。この研究は、同研究所モレキュラーバイオシステム研究部門の戸井田力上級主任研究員、徳島大学大学院医歯薬学研究部歯学域口腔科学部門口腔外科学分野の福田直志助教、徳島大学病院歯科口腔外科の髙丸菜都美講師、国立循環器病研究センター研究所の姜貞勲室長らの研究によるもの。研究成果は、「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載されている。


画像はリリースより
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世界的に高齢化が進み、平均寿命が延びるにつれ、加齢に伴う疾患の発生率の増加と治癒機能の低下によって直面する医療・経済上の課題が深刻化している。特に、骨は老化によりもろくなるため、高齢者がひとたび骨折すると、それがきっかけで寝たきり状態に陥るケースが多く見られる。寝たきり状態が長引くと、筋力や認知機能の低下が進み、認知症の発症リスクが高まる。

生体組織は本来「適度な炎症・修復・細胞更新」のバランスで維持されている。しかし、加齢によって臓器に蓄積する老化細胞が分泌する因子はこのバランスを乱し、過度で慢性的な炎症を引き起こす。その結果、組織再生能力が低下してしまう。そこで、老化細胞を標的とした薬物の開発が進められている。それらのうちいくつかは有望視されているものの、いずれも効果は限定的であるため、老化組織の再生治療研究はいまだ発展途上といえる。

一方、組織再生プロセスで重要な役割を果たすマクロファージという免疫細胞を標的とした薬物の開発も行われている。マクロファージは、炎症性のM1型と抗炎症性/治癒促進性のM2型の相反した表現型を示し、傷害組織において適切なタイミングで表現型をM1からM2にスイッチングすること(M1-M2スイッチング)で傷が正常に回復する。ところが、加齢に伴いM1-M2スイッチングが遅延あるいは破綻してしまうため、治癒プロセスが正常に起こらない。このため、M1-M2スイッチングを促進する薬理学的アプローチの検討が進められているが、高齢マクロファージは、若齢マクロファージと比べて薬物に対する応答性が著しく減弱し、スイッチングの誘導が困難である。また、対象となる個体の性別によりマクロファージの応答が異なるとの報告もあり、汎用的な再生治療への有効性は示されていない。

PSLによるM2型誘導効果、月齢や性別の異なるマウスで汎用性の検証へ

同研究所はこれまで、組織治癒や疾患の進展に関わるマクロファージの表現型を操作する技術を開発し、医療への応用に取り組んできた。その中で、PSLが、M1型マクロファージに高い親和性を有すること、表現型を炎症性(M1型)から抗炎症性/組織治癒(M2型)にスイッチングすることを見いだした。そして、PSLによるM1型からM2型へのスイッチングが、再生治療や疾患治療に有効であることを報告した。しかし、これまでの研究はいずれも若い動物を使用しており、また動物の性別に着目したものではなかった。

今回、月齢や性別の異なるマウスからマクロファージを調製し、PSLに対する応答性の違いを比較した。また、PSLを老化組織の再生治療に応用し、高齢マウスの骨治癒を早めることができるか検討した。

PSLは月齢や性別によらずマクロファージをM2型へスイッチ

研究グループははじめに、月齢(若齢(3~4か月齢、ヒト10~12歳に相当)および高齢(22~26か月齢、ヒト76~90歳に相当))・性別の異なるマウスから採取した骨髄由来マクロファージ(BMM)について、6種類の分泌因子(IL-1β、IL-6、TNFα、CCL-2、NO、TGF-β1)の産生量を評価した。これらの分泌因子のうち、IL-1β、IL-6、TNFα、CCL-2、NOは炎症性因子、TGF-β1は非炎症性因子として知られており、炎症性因子はM1型マクロファージのマーカーとして使用できる。

まず、未刺激のBMM(Control群)は、CCL-2を除く因子の分泌は限定的であった。BMMにリポ多糖(LPS)という、細菌の表面にある体の免疫を刺激する成分を添加すると炎症性M1型へ分化する。BMMをLPS刺激したLPS群では、雌雄ともに若齢BMMより高齢BMMの方が、M1型マーカーである炎症性因子の産生量が高く、高齢BMMはM1型の性質が顕著であることがわかった。次に、M1型BMMにPSLを添加し分泌因子のプロファイルが変化するか評価した(LPS+PSL群)。その結果、いずれのBMMにおいても炎症性因子の産生量の著しい減少と抗炎症性因子の増加が認められ、M2型にスイッチングされることが明らかとなった。さらに、IL-6、TNFα、NO産生に対するPSLの50%阻害濃度(IC50)は月齢や性別によらず一定であったことから、PSLは既存のM2型誘導剤とは異なり、汎用的なM2型誘導剤として機能することが実証された。

高齢マウスで骨芽細胞が2倍に増加、M1-M2スイッチング促進で治癒を加速

研究グループは次に、高齢マウスを用いて、PSL投与が骨治癒の促進に寄与するか評価した。マウスの頭蓋骨に欠損(直径4mm)を作製し、欠損部に炭酸アパタイト顆粒を埋植後、PSL(あるいは生理食塩水)を1回投与し、2週間後および4週間後に評価を行った。なお、炭酸アパタイト顆粒は、近年製品化された骨補填材であり、徳島大学口腔外科学分野は、この製品化にあたり動物実験の評価や治験を実施してきた。組織切片を作製し骨再生量を比較したところ、生理食塩水を投与した陰性対照群と比較して、PSL投与群では約2倍速い骨治癒が認められた。次に、2週間後のマウスにおける、骨形成する骨芽細胞(OB)と骨吸収する破骨細胞(OC)を計数したところ、OC数は両群で同数であった一方でOB数はPSL群で2倍多く観察された。さらに、同時期のマクロファージ表現型の評価では、両実験群で傷害部位における全マクロファージの数は同レベルであったものの、PSL群ではM1型の減少とM2型の増加が認められ、結果としてM2/M1の比率は2.7倍となった。

以上のことから、PSLはM1-M2スイッチングを促進することで、骨治癒が促進されることが実証された。ほとんどすべての臓器において、老化組織におけるマクロファージ表現型スイッチングの異常が報告される。したがって、今回の技術を含むマクロファージ表現型の標的治療は、さまざまな老化臓器の治癒促進に有用である可能性がある。

高齢者の寝たきり連鎖を断つ可能性、健康長寿社会への貢献に期待

今回、PSLによるマクロファージの表現型の操作が、老化骨の再生の促進に有効であることを実証した。高齢者は骨がもろいため転倒などによる骨折のリスクが高く、それがきっかけで寝たきり状態に陥り、その結果、筋力低下や認知症発症のリスクが高まる。今回の技術は、高齢者の骨治癒を促進することで、この連鎖を断ち切れる可能性があり、健康長寿社会の実現や医療費コストの削減の後押しになると考えられる。

「今後、開発したPSLを含む製剤について前臨床試験や生物学的安全性試験を行い、実用化に向けた研究開発を進めていく予定である」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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