虐待による外陰部の損傷、偶発的な事故との鑑別が必要
山口大学は10月21日、虐待事例と動物による偶発的な損傷事例とを客観的に識別する知見を提示したと発表した。この研究は、大学院医学系研究科法医学講座の髙瀬泉教授と、四国こどもとおとなの医療センターの今井剛成育がん診療部長との研究グループによるもの。研究成果は、「Cureus」に掲載されている。
児童の性虐待は世界的な問題となっている。日本では、性虐待は子ども虐待全体の1.1%(2023年)とされているが、より多くの潜在的な事例が示唆されている。
虐待による外陰部の損傷については、保護者が「犬が噛んだ」などと、偶発的な事故を装って主張することがある。そこで研究グループは今回、飼い犬を用いた実験で咬傷の特徴を明らかにし、虐待による損傷との鑑別方法を検討した。
「両親の不在時に飼い犬に外陰部を噛まれた」という1歳半男児の症例で検証
今回検討した症例は、1歳半の男児の両親が「飼い犬が男児のオムツを剝がして外陰部を噛んだ。自分たちは不在だった」と主張したというもの。診察の結果、陰茎の包皮が完全に剝離していており、背中全体および左右大腿内側に新旧の皮下出血群を認めた。犬の歯の痕跡は身体のいずれの部分にも認められず、治療は抗生物質の投与などが行われた。
犬が噛み砕いた骨の辺縁は不整、ソーセージも包装の表面に歯の痕跡が残る
研究グループは、事例と同程度の体格および歯列弓をもつ飼い犬を用いて、咬傷の性質と状態を検討した。茹でた手羽先を犬に与えると、最初はそっと噛み始めたが、最終的に骨まで噛み砕き、皮、筋肉および骨の辺縁はいずれも不整(ギザギザ)になった。プラスチックフィルムで包まれたソーセージでは、その表面に歯の痕跡が残されていた。
男児は「皮膚表面に歯の痕跡無し・外陰部損傷の辺縁が整」、刃器の傷と判断
以上より、犬が噛んだ場合は、その他の部にいかなる損傷も生じさせることなく包皮のみを剥離すること、あるいは身体の皮膚表面に歯の痕跡を全く残さないことは極めて困難であると結論づけた。また、症例の男児の外陰部は損傷の辺縁が整であったことから、犬の咬傷ではなく、何らかの刃器が使用されたものと判断した。
動物による偶発的な損傷と虐待との鑑別に貢献する重要な知見
今回の報告では、何らかの刃物によって虐待された1歳半の男児の症例が提示されたが、研究グループは「本結果は、犬による咬傷と主張される同様の虐待事例と動物による偶発的な損傷事例とを客観的に鑑別する上で、重要な知見となり得るものである」と、述べている。
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・山口大学 プレスリリース


