医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 日本人のメンタルヘルス、パンデミック前後で二極化の傾向-東大

日本人のメンタルヘルス、パンデミック前後で二極化の傾向-東大

読了時間:約 2分49秒
2025年10月31日 AM09:10

心理的苦痛とメンタルヘルス医療の利用、日本における10年の動向を解析

東京大学は10月21日、全国の大規模データを解析し、日本人のメンタルヘルスと医療の利用について過去10年の変化を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の佐々木那津講師と、西大輔教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

これまでの先行研究では、日本人の代表的な大規模データを用いてパンデミック前後でのメンタルヘルスの動向を調査したものはなかった。そこで今回の研究では、厚生労働省「国民生活基礎調査」の、延べ約176万人データを用いて、日本における心理的苦痛とメンタルヘルス医療の利用の10年の動向を解析した。

パンデミック前後の心理的苦痛、中等度は減少傾向だが重度は4.7%から5.0%へ上昇

それぞれの調査年ごとに、性別の割合や年齢構成による影響を統計学的な方法で調整して解析した結果、パンデミック前後において、中等度の心理的苦痛のある人の割合は2019年の24.9%から2022年には21.8%に減少していた。一方で、重度の心理的苦痛は2019年の4.7%から2022年の5.0%に上昇した。2022年時点では、中等度と重度をあわせて、約27%の人が心理的苦痛を抱えていることがわかった。

18~25歳で中等度の心理的苦痛が最も大きく減少

年齢別の中等度の心理的苦痛の割合を調べると、すべての年齢で減少していたが、最も減少幅が大きかったのは18~25歳であった。この傾向は英国や米国でも報告されており、パンデミックにおける対人ストレスの軽減、日常生活のコントロールのしやすさ、オンラインでの支援が受けやすくなったことなどを反映している可能性が指摘されている。

若年女性と中年男性で特に重度の心理的苦痛が増加と判明

男女別・年齢別に重度の心理的苦痛の割合を調べると、2022年時点で26~34歳女性における重度の心理的苦痛の割合が最も高く、7.6%に達した。2019年から2022年のパンデミック前後での増加が目立ったのは、若年(18~25歳)の女性と中年(35~49歳)の男性であった。2013年からの約10年間の経過では、女性は65歳未満の年齢すべて、男性では26歳~64歳の年齢で、重度の心理的苦痛の割合が増加する傾向が見られた。

「良好」と「重度の苦痛」の二極化、パンデミックを機に進んだ可能性

中等度の心理的苦痛が減少し、重度の者と苦痛のない者の割合が増えていることを踏まえると、重度の心理的苦痛を抱える層とメンタルヘルスが比較的良好な層との「二極化」がパンデミックを機に進んだ可能性があると考えられる。

全体でのメンタルヘルス医療の利用は上昇傾向、特に18~25歳では大きく増

全体でのメンタルヘルス医療の利用は、2013年(3.1%)、2016年(3.2%)、2019年(3.7%)と経過しており、パンデミック以前からやや上昇傾向が見られていたが、2022年には4.6%にまで上昇した。2022年時点では、心理的苦痛のない人の利用は1.0%、中等度の心理的苦痛のある人は4.9%、重度の心理的苦痛のある人では17.8%が利用していた。

重度の心理的苦痛のある人がメンタルヘルス医療を利用しているかどうかは重要な公衆衛生の指標である。年齢別に利用割合をみると、65歳未満ではこの10年で利用割合が上昇していた。特に、18~25歳ではパンデミックの前後で利用割合が大きく増加しており、受診への意識の高まりやアクセスの容易化などの変化があった可能性が考えられる。

一方で、65歳以上では利用割合が減少傾向にある。65歳以上で重度の心理的苦痛のある人の割合は他の年齢層よりも少ないが、日本の人口の約30%は65歳以上であり、今後も増加すると考えられているため、絶対数としては苦痛を抱えた人が多い年齢層である。よって、65歳以上でメンタルヘルス医療の利用が少ないことは今後の課題と言える。

日本全体でのメンタルヘルス改善のための対策立案などに期待

過去10年にわたる大規模データを解析した結果、パンデミックを機に日本人のメンタルヘルスが「二極化」し始めている可能性が示された。パンデミックを経て、特に若年女性や中年男性で重度の心理的苦痛のある人の割合が増加している。同研究が、日本全体でのメンタルヘルスの改善のための対策の立案や実践の発展に寄与することが期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 重症心不全の回復予測因子を同定、IDH2/POSTN比が新たな指標に-東大ほか
  • 急変する環境での集団意思決定パフォーマンスを改善する仕組みを解明-東大ほか
  • コーヒーと腎機能の関係、遺伝的多型が影響の可能性-徳島大ほか
  • リンチ症候群、日本人の病的バリアント大規模解析で臨床的特徴が判明-理研ほか
  • 変形性膝関節症の高齢者、身体回転のイメージ形成が困難に-大阪公立大