網膜神経節細胞に現れる「病的振動」の根本的な原因特定は困難だった
立命館大学は10月20日、網膜疾患モデルの神経節細胞に生じる周期性自発発火(病的振動)の発症要因として、網膜ON型双極細胞のカチオンチャネルTRPM1の欠損/低下が関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学研究科4年制博士課程大学院生の堀江翔氏、薬学部の小池千恵子教授、総合科学技術研究機構の立花政夫教授、情報理工学部の北野勝則教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of General Physiology」にオンライン掲載されている。
網膜神経節細胞(RGC)は視覚情報を脳へ伝える重要な役割を担っている。網膜色素変性症などの失明疾患では、このRGCに病的振動と呼ばれる異常な電気活動が現れることが知られており、これが視覚ノイズとして情報処理を妨げ、光がなくてもチラツキを感じる「光視症」などの症状を引き起こす。これらの症状は、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる要因となっている。しかし従来の研究では、網膜色素変性症モデルにおいて視細胞の変性や神経回路の再編が並行して進行するため、病的振動の根本的な原因特定が困難だった。
病的振動、Trpm1欠損マウスは「あり」/mGluR6欠損マウスは「なし」
TRPM1チャネルは温度感受性チャネルで知られるTRPチャネルファミリーに属するカチオンチャネルで、網膜ON型双極細胞の樹状突起に局在し視覚情報伝達チャネルとして働く。研究グループは今回、先天性停止性夜盲症(CSNB)の原因遺伝子であるTRPM1チャネルと、これを制御するmGluR6に着目した。
まず、両者の欠損マウスを比較したところ、Trpm1欠損マウスでは病的振動が観察されたが、mGluR6欠損マウスでは観察されないという明確な差異が確認された。さらに電気生理学的解析により、病的振動の発振源がAIIアマクリン細胞を介する回路である可能性が示された。
CSNBの病的振動の性質や発振機構が網膜色素変性症モデルマウス網膜の病的振動と一致
TRPM1はCSNBの原因遺伝子であり、その遺伝子欠損網膜では網膜色素変性症のように視細胞の脱落などは見られない。しかし、明らかとなった病的振動の性質や発振機構は、網膜色素変性症モデルマウス網膜で報告されてきた病的振動と一致していた。
そこで両者の共通点について解析を行ったところ、共に杆体双極細胞の樹状突起先端のTRPM1が欠損ないし局在が失われており、軸索終末が縮小するという構造異常が確認された。さらにシミュレーション解析により、TRPM1欠損に由来する最小限の特徴のみで、病的発振を再現することが確認された。
また、病的振動が検出されないmGluR6欠損網膜では、TRPM1の消失や構造異常といった変化は観察されなかった。Trpm1欠損やmGluR6欠損以外の夜盲症のモデルマウスについての報告も横断的に精査することにより、病的振動が観察されているモデルマウスではTRPM1の局在が低下ないし消失しているという共通点があることを確認した。
疾患横断的な標的治療の設計への貢献に期待
光視症は、光がない状況でも視界にチラつきが現れる症状で、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる。近年、先進的な網膜疾患治療法が進み、視力回復の可能性が開かれるが、視覚ノイズが残ると本来の視覚体験が妨げられ、QOLの向上に限界が生じてしまう。
「本研究は、長年不明だった病的振動の発生機構を明らかにし、原因の異なる網膜疾患の病態の進行に従って発生する病的発振のメカニズムが共通している可能性を示した。得られた知見は、疾患横断的な標的治療の設計への貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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・立命館大学 プレスリリース


