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眼球運動と瞳孔径を組み合わせた「成人ADHD」の識別モデルを開発-千葉工大ほか

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2025年10月22日 AM09:20

ADHDの識別に有効な「客観的・定量的」補助指標は未確立

千葉工業大学は10月15日、眼球運動の時間的複雑性と瞳孔径を統合した客観的・定量的評価が、成人注意欠如・多動性障害(ADHD)の識別に有効であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大情報科学専攻 修士課程1年の上野歩氏、同大情報工学科 信川創教授、名古屋市立大学 データサイエンス研究科の白間綾准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Mental Health」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
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ADHDは不注意・多動性・衝動性を特徴とし、成人期まで学業・就労・社会生活に影響が及ぶことがある。診断は問診や行動観察に依存しており、客観的・定量的な補助指標の確立が期待されている。

アイトラッキングは非侵襲・短時間・低コストで眼球運動と瞳孔径を同時計測でき、臨床導入しやすい計測法だ。中でも、眼球運動の時間的複雑性(時系列パターンの不規則性・予測不能性)は、速度・振幅・固視の持続時間といった従来指標では捉えにくい、眼球運動制御ネットワークのダイナミクスを反映し得る。しかし、ADHDにおけるその意義や時間スケール依存性は十分に検証されていなかった。

また、瞳孔径は覚醒や注意機能を担う青斑核-ノルアドレナリン(LC-NE)系に関連し、眼球運動とは異なる神経基盤を反映する。両者を統合すれば相補的な情報が得られ、客観的評価の精度向上が期待される。

ADHD群は薬物治療の有無に関わらず「眼球運動の時間的複雑性低下・瞳孔径拡大」

そこで研究グループは今回、成人の固視課題データを用いて「眼球運動の時間的複雑性の群間比較」と「眼球運動の時間的複雑性と瞳孔径の統合による分類精度の検証」を行った。

研究では、成人の定型発達20人とADHD16人(うち薬物未治療11人)を対象に、2分間の固視課題中の眼球運動(水平・垂直)と瞳孔径を同時計測。眼球運動はマルチスケール・エントロピー解析で時間的複雑性を評価し、瞳孔径は時間平均で定量化した。さらに、得られた特徴量を用いて、L1(Lasso)ロジスティック回帰で定型発達とADHDの分類性能を検証した。

主要な結果として、ADHD群・薬物未治療ADHD群では眼球運動の時間的複雑性が低下していることが示された。さらに、ADHD群・薬物未治療ADHD群では瞳孔径も拡大していた。

「眼球運動の複雑性+瞳孔径」は、単独より高い識別精度を示すと判明

次に、解析結果に基づいて分類精度を検証した。その結果、統合モデル(眼球運動の複雑性+瞳孔径)は各単独指標より高い分類性能を示した。加えて、決定境界(P=0.5)が軸に平行ではなく「傾き」をもつことから、両指標が相補的に寄与していることが示された。

異なる神経基盤に基づく相補的情報の統合で、成人ADHDの客観的評価が高精度化

同研究の所見から、ADHDでは固視中の眼球運動が、より規則的・予測可能な振る舞い(時間的複雑性の低下)を示し、この特徴がADHD全体では垂直成分、薬物未治療群では水平・垂直成分で顕在化することを示した。さらに、ADHDでは平均瞳孔径が拡大しており、LC-NE系の機能変化を反映している可能性があることもわかった。

加えて、主に皮質・皮質下・小脳にまたがる広域ネットワークに由来する指標(眼球運動)と、LC-NE系に由来する指標(瞳孔径)を統合することで、単独指標を上回る分類性能が得られた。つまり、異なる神経基盤に基づく相補的情報の統合が、成人ADHDの客観的評価を高精度化する有望なアプローチであることが示された。

引き続き、「一般化可能性の検証」と「運用体制の整備」が必要

今後は、大規模データに基づく外部妥当化が鍵となり、年齢・薬物治療の有無・ADHDサブタイプ(不注意/多動・衝動/混合)を含めた一般化可能性の検証が求められる。併せて、照度・測定時間・機器設定・ノイズ対策などの計測条件と解析手順の標準化により、施設間で同等品質を担保できる運用体制の整備が重要だ。「眼球運動・瞳孔径とEEG/fMRIを組み合わせたマルチモーダル解析によって、神経基盤との対応付けが進み、解釈可能性と分類精度の向上、臨床実装の促進が期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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