糖尿病専門医の在籍は、糖尿病患者の周術期合併症リスクに影響するか?
富山大学は10月15日、糖尿病専門医が在籍する施設で大腸がん手術を受けた糖尿病患者は、周術期合併症リスクが低いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院博士課程の四方雅隆大学院生(横浜市立大学共同研究員)と横浜市立大学の後藤温教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」に掲載されている。

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急性期病院において入院患者の多くが糖尿病を有しており、その血糖マネジメントは重要な臨床的課題である。しかし、施設ごとの糖尿病専門医の在籍の有無が周術期合併症リスクに与える影響については、検討が十分ではなかった。
全国887施設を対象に、大腸がんの周術期合併症リスクとの関連を検討
そこで、今回の研究では糖尿病専門医の在籍の有無と、大腸がん手術の周術期合併症リスクの関連性を検討した。大腸がん手術を対象としたのは、糖尿病患者において合併症リスクが高いことが既に報告されているためである。
日本糖尿病学会が保有する各施設の糖尿病専門医数の情報の提供を受け、日本全国の急性期医療施設から収集されたDPCデータベースと組み合わせた。潜在的な交絡因子となる患者要因と施設要因を調整し、施設ごとの糖尿病専門医の有無と周術期合併症リスクとの関連を推定した。同研究では、887の医療施設を対象とした。
糖尿病専門医の在籍ありでは周術期合併症リスク0.86倍
評価対象施設のうち、約3割には糖尿病専門医が在籍していなかった。周術期合併症は3,165例(13%)で発生した。交絡因子を調整後、糖尿病専門医が在籍する施設では、糖尿病専門医が不在の施設と比較して周術期合併症リスクが低いことが示された(リスク比 0.86[0.77 – 0.96]、リスク差 -2.5%[-4.4 – -0.60])。
専門医在籍施設では、より適切な血糖管理を実施
また、プロセス指標の評価として、入院中のHbA1c測定は糖尿病専門医在籍施設で0.88倍(0.80?0.96)と少なく、グリコアルブミン測定は3.01倍(2.01?4.51)と多かった。7日あたりの血糖測定回数は1.29回(0.16?2.43)増加していた。この結果から、糖尿病専門医が在籍する施設では、周術期の短期的な血糖変動を評価するために、より適切な血糖管理指標が用いられていると考えられた。
急性期病院における糖尿病専門医の重要性が明らかに
今回の研究は、日本全国を対象とした大規模な研究であり、糖尿病を有し、大腸がん手術を受けた患者において、施設ごとの糖尿病専門医の在籍の有無が周術期合併症のリスク低下と関連することを明らかにした。さらに、糖尿病専門医が在籍する施設では、短期的な血糖コントロールを反映する指標であるグリコアルブミン測定の頻度も高い傾向がみられた。これは、糖尿病専門医が在籍する施設で手術を受けた患者は、より適切な糖代謝評価により周術期合併症が減少する可能性を示唆している。
「本研究では大腸がん手術を対象とした。今後は大腸がん以外の手術に関しても、同様の検討が必要と考えている。また、医療費にも着目し、検討を続けていく」と、研究グループは述べている。
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