早期治療開始が重要なアルポート症候群、初期無症状のため診断遅れが課題
神戸大学は10月7日、遺伝学的に確定された小児アルポート症候群患者を対象に、診断に結びついた最初の契機を調査し、最も多い発見契機は3歳児健診での検尿(3歳検尿)であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の北角英晶医師、石森真吾特命准教授、堀之内智子講師、山村智彦助教、榊原菜々研究員、長野智那助教、野津寛大教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International Reports」に掲載されている。

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アルポート症候群は遺伝性腎疾患の中で高頻度かつ重症化し得る疾患で、腎症に加え難聴や眼症状を伴うことがある。遺伝形式によっては若年で末期腎不全に至り、透析や腎移植が必要となる。従来は症状の進行後に腎生検で診断することが多かったものの、近年は遺伝学的検査により非侵襲的に確定診断が可能になった。
これまでに蓄積された臨床研究により、アルポート症候群では早期にレニン・アンギオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)を開始することで腎不全到達を遅延できることが示され、近年の国内外ガイドラインでも治療開始時期が示された。しかし、アルポート症候群は初期に無症状かつ尿異常のみで進行することが多く、症状が出てから受診してもすでに治療が間に合わないケースや、軽症で精密検査に至らず診断が遅れるケースが問題となっていた。
自治体で実施されてきた3歳検尿、コスト面理由に廃止されるケースも
日本では多くの自治体で3歳検尿が行われ、小学校以降は毎年の学校検尿も実施されている。そのため、早期診断につながる可能性が期待されている。しかし、3歳検尿で血尿などが指摘されてもタンパク尿がない場合は良性と判断され見過ごされることもある。さらに、近年はコスト面を理由に3歳検尿を廃止する自治体も出てきている。
アルポート症候群患者356人対象、3歳検尿時点での治療開始基準の充足状況を解析
今回の研究は、遺伝学的に確定された18歳以下の国内アルポート症候群患者356人を対象に、発見契機、症状、遺伝形式の内訳および3歳検尿時点での「アルポート症候群診療ガイドライン2017」に基づく治療開始基準の充足状況を解析した。
発見契機の最多は3歳検尿、次いで肉眼的血尿
その結果、発見契機として最も多かったのは3歳検尿(113人)、次いで肉眼的血尿(81人)であった。3歳検尿で発見された113人の遺伝形式内訳は、X連鎖女性43.3%、X連鎖男性30.1%、常染色体優性19.5%、常染色体劣性6.2%であった。
3歳検尿で発見の患者約60%、RAS阻害薬開始基準を満たす
さらに、3歳検尿で発見された患者の約60%が、発見時点ですでにRAS阻害薬開始基準を満たしていた。今回の研究により、3歳検尿はすべての遺伝形式のアルポート症候群の早期発見・早期治療導入に資する重要なスクリーニングであることが示された。
3歳検尿で尿異常指摘、速やかに遺伝学的検査を含む検査実施が重要
同研究は、3歳検尿によって多くの小児アルポート症候群患者を早期に発見できる可能性を示した。加えて、3歳検尿で尿異常を指摘された場合には、速やかに遺伝学的検査を含む検査を行うことが重要である。全国で3歳検尿が広く実施されれば、患者個人の予後改善だけでなく、末期腎不全に係る医療コストの抑制にも寄与する可能性がある、と研究グループは述べている。
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・神戸大学 プレスリリース


