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LLMの新たな手法、異分野融合的な解決策や「ひらめき」創出-横浜市大ほか

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2025年10月17日 AM09:30

従来のLLM手法、「本質的に解決が困難な課題」に対し知識選定における限界があった

横浜市立大学は10月7日、解決が困難な課題に対し、大規模言語モデル(以降、LLM)を用いて異分野融合による効果的な解決策を生み出す手法SELLM(Solution Enumeration via comprehensive List and LLM)を提案したと発表した。この研究は同大大学院生命医科学研究科 生命情報科学研究室の富田ひかり氏(博士前期課程1年)、石田祥一客員講師、寺山慧准教授、東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDX研究センターの神谷利夫教授、AGC株式会社 材料融合研究所の中村伸宏マネージャーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Material」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年、LLMを用いて研究アイデアや科学的仮説を生み出す研究が数多く行われている。その一方で、「本質的に解決が困難な課題」に対して、効果的な解決策やアイデアを生成するための方法論の開発は発展途上である。ここでいう「本質的に解決が困難な課題」とは、一見無関係な分野の知識や技術を用いらなければ解決できない課題のことを指しており、産学を問わず大きなブレイクスルーを産む解決策は異分野融合的・学際的であることがしばしばある。このような課題に対しては、LLMに単純な尋ね方をするだけでは効果的な解決策が得られにくいという傾向がある。実際に、特別な工夫をせずにLLMに問いかけると、入力した文章に応じて新たな文章が生成されるという性質上、投げかけた質問の中で登場した単語に影響を受けた解答が生成されやすくなっている。また、有効とされるアプローチの1つとして、RAG(Retrieval-Augmented Generation)や知識グラフを活用して課題と異なる分野の知識を活用する手法が提案されている。しかし、このような方法は、知識の検索・選定方法によっては、解決のための重要な知識が選ばれず、効果的な解決策が生成できない可能性がある。つまり、解決に不可欠な知識や分野の見落としという観点においては、まだ十分に対応されていないと言える。

知識の網羅的リストから「専門家」LLMを生成する新手法を開発

今回の研究では、網羅的に知識横断的な解決策を生成する手法SELLMを提案した。SELLMは、知識や技術を網羅するリストから、「専門家」の網羅的なリストを作成することで解決策を生成する。具体的には、リストの知識を1つずつ取り出して、その知識に関する専門家としてLLMに振る舞うよう、テキストベースで指示する。「専門家」LLMのそれぞれから解決策を提案させることで、他分野の目線から考えた、さまざまな解決策を生成させることが可能になる。

網羅的なリストとして、国際特許分類(IPC)や周期表(元素のリスト)などが利用可能である。例えば、IPCは古今東西の既存技術を網羅しており、多様な観点から漏れなく課題に対する解決策を提案できる。また、このリストは研究室の薬品リストや企業の社内技術リストなど自由に設定可能である。

材料科学分野の解決困難な課題に対し、SELLMを適用して検証

研究グループは次に、提案手法の有効性を検証するため、「本質的に解決が困難な課題」を解決した先行研究を例に取り、これに対してSELLMを用いて有効な解決策を出力することを目的とした実験を2つ行った。

1つは有機EL照明の開発において最重要課題となっていた光取り出し効率を大幅に改善した研究開発事例である。もう1つは、次世代半導体メモリとして期待されている薄膜トランジスタ(IGZO-TFT)の実用化において課題になっている接触抵抗を解決した事例である。

研究では、「専門家」を作成するリストとして、有機EL光取り出し基板開発の例では国際特許分類のリストを、IGZO-TFTの接触抵抗の例ではさらに元素のリストを使用し、「専門家」を作成した。これらの「専門家」に各課題に対する解決策を10個ずつ生成させ、多様な解決策を得た。なお、解決策の生成には比較のためGPT-4o、Llama 3.3 70B、DeepSeek V3を用いた。

生成された解決策の評価を行うために、3種類の方法で採点を行った。1つ目は、先行研究で提案された解決策をあらかじめ「正解」として設定し、これに対する類似度をLLMに評価させることで評価(Similarity-Based Evaluation:SBE)を行った。2つ目は、解決策のテキストの中に重要なキーワードがいくつ入っているのかをカウントすることで評価(Keyword-Based Evaluation:KBE)を行った。3つ目として、人間の専門家が直接解決策の中身を確認して、解決策の実現可能性や課題を解決できているかどうかで評価(Human-Based Evaluation:HBE)を行った。

課題の分野外のアイデアを活用し、「コロンブスの卵」的解決策が生成

その結果、先行研究の例において、何も工夫を行わずに解決策を生成する場合(Standard)では生成できなかった高得点の解決策を、SELLMを用いて生成できたことが確認された。どちらの検証例においても、Standardでは出せていない高スコアの解決策が、SELLMを用いた条件下で生成された。

光取り出し課題では、有機ELあるいはその周辺部材技術者が通常は思いつかないガラスフリットペーストを用いることが解決策のポイントで、高得点の解決策はこの点を満たしていた。

IGZO-TFTの接触抵抗課題では、通常電極として利用することのないパラジウムを用いることで原子状水素を接触面まで輸送し接触抵抗を下げるという「コロンブスの卵」的なアイデアが重要であった。SELLMはこの課題でもパラジウムを用いた解決策の生成に成功した。加えて、SBEが3点であるがHBEが7点である解決策も見られた。これはSBEで設定した「正解」とは違う別解であるが、効果のある解決策であった。

これらの結果は、SELLMが先行研究に記載されていない有望な解決策も生成できる能力を持っていることを示唆している。さらに、LLMの種類によらずSELLMで有効な解決策が生成できることも確認した。

研究室・企業特有の技術リストも適用可能、柔軟な応用性で課題解決へ

今回の研究で開発されたSELLMの主要な利点の1つとして、研究室や企業の特有の技術や知識がまとめられたリストを選ぶことで、解決策の生成を制御できることが挙げられる。この柔軟性から、アイデアを得る分野の幅を自由に調整することが可能となる。「柔軟に制御できるSELLMによって生成される異分野融合的な解決策は、産学を問わない幅広い課題や問題に対して適用することができることから、さまざまな現場の研究者や開発者のインスピレーションを刺激すると期待される」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

 

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