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vol.02 「地域に必要とされるクリニック」目指して、患者さんに手を差し伸べ続ける

読了時間:約 9分23秒  2020年11月05日 PM06:01
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「地域に必要とされるクリニック」目指して、<br />
患者さんに手を差し伸べ続ける ハレノテラス すこやか内科クリニック 院長 渡邉 健 先生

提供:ノバルティス ファーマ株式会社
オンライン取材:2020年6月

「患者さんが我慢してくれている」
地域医療の破綻を防ぐための役割分担

 いま、血液内科は多忙を極めています。高齢化や予後改善により患者さんが増え続ける中、かつて私も大学病院で朝から夕方遅くまで患者さんを診療し、食事を摂れないときがありました。大学病院というのは医療機関であり研究・教育機関でもあります。患者さんの診療に時間をかけるほど、思うように研究へ時間を費やせないときに、ふと病院の待合所を覗くと長時間待ちながら「我慢してくれている」患者さんが数多く目に留まりました。また、外勤先の“1人血液内科医”の先生が疲弊している様子を見て、「この先生に“もしも”のことがあったら、この地域にいる多くの患者さんはどうなってしまうのだろう?」と考えると、役割分担がきちんとできなければ地域医療がいずれ破綻することが容易に想像できました(図1)。

 これらの問題に対して、私自らが地域の受け皿の役割を担うべく、全く土地勘のないエリアではありましたが、クリニックを開院することを思い立ちました。

図1 血液内科診療の問題点

「検査結果はメールやオンライン診療でも」
患者さんの体験を変えるクリニックでの取り組み

 クリニックでは、来院から診察・会計までをスムーズに行えます。特に血液疾患の患者さんにとっては、仕事や家事を丸一日休む必要がなくなり、メリットが大きいと思います。

 また、患者さんとのコミュニケーションの取り方も工夫しています。実際に、薬の影響で調子が悪いと思い込んでしまった患者さんがいましたが、すぐに連絡を取って再受診を勧め、採血の結果から薬との関連は心配しなくてよいことを説明すると、安心して服薬を継続してもらえアドヒアランス向上につながりました。

 検査結果についても、メールやオンライン診療中に伝えられるよう工夫しています。慢性骨髄性白血病のBCR-ABL1ISを例にとると、病院では検査を実施した来院日から3か月後の次回来院時まで結果をお伝えできないこともありますが、当クリニックでは結果が出たらメールやメッセージ機能を利用してすぐにお伝えして、患者さんに安心していただきます。

 当院では移植後の患者さんのワクチン接種も積極的に受け入れています。大学病院などでは血液内科でワクチンの用意が難しいところもあり、患者さんは近くのクリニックでの接種を勧められることもありますが、打ち方が特殊(図2)なために不安になる方もいると聞いています。その点、当院では安心して全てのワクチンを接種していただけるように取り組んでいます。

図2 造血細胞移植後のワクチン接種の時期

「病院は地域のかけがえのないインフラ」
水平連携でそれぞれの強みを活かし地域の医療を守る

 近隣クリニックからの紹介では、患者さんをお返しする前提で診療します。近隣のクリニックとネットワークをつくって各先生の専門領域やお考えを知り、紹介したほうが患者さんにメリットがありそうだと思う場合は積極的に紹介するようにしています。そうすることで、血液疾患の疑いのある方や症状のある患者さんが私のところに紹介されるようになり、お互いがそれぞれの専門性を活かして地域の方々へ貢献できます(図3)。

図3 各医療機関それぞれの役割と地域医療連携

 大きな病院はその地域の中のかけがえのないインフラです。それぞれの立場でそれぞれの役割を果たす水平連携によって力を結集していくことが、医療のインフラを守ることにつながっていくと考えています。

「こういう手ができたと知ってほしい」
連携の仕組みを全国へ

 私は「地域に必要とされなければ、クリニックの存在意義はない」と考えています。ですから、近隣の患者さんのために一般内科の診療も行っています。現在は、来院患者の中で血液内科の患者さんは10%弱です。一般内科の診療は、血液内科と違ったやりがいがあります。小児の喘息患者さんに治療を行って、患者さんが幸せそうに帰っていく姿を見るのは、とてもうれしいものです。

 地域医療連携構築に関する私の取り組みは、近隣の血液内科医師だけでなく、地域住民からの信頼を得て、血液疾患の患者さんが地域で診られることを理解してもらって初めて成り立ちますので、まだ始まったばかりです。いま一番の願いは、多忙を極める病院の先生方にこういう手ができたと知っていただき、このような取り組みが全国に広がることです。

 2020年には、血液内科専門医のいる施設の所在地を掲載したマップを作成しました。病院とクリニックとの連携を進め、いわゆる2人主治医制を実現することで、新型コロナウイルス感染症の流行が拡大して患者さんが受診を控えるような事態となっても、必要な医療を届けることができるのではないかと考えています。

 また、患者さんは好んで病気を患ったわけではありません。罹患という不幸の上に医師の仕事があることを忘れずに、患者さんに手を差し伸べられるようにしたいと思っています。

血液内科専門医マップ

URLhttps://sukoyaka-naika.com/blog/2020/04/21/血液内科専門医がいる施設/

渡邉先生が作成したマップのリンク集です。一都三県の血液内科専門医がいる施設の所在地が一目でわかります。
今後、全国に拡充する予定です。(2020年8月末時点での情報を掲載しています)

血液内科専門医マップ

CROSS TALK血液内科の空白地帯を、病診連携のネットワークでカバー。
患者さんにとってメリットのある医療の提供を目指して

自治医科大学 内科学講座 血液学部門 教授 神田善伸先生/ハレノテラス すこやか内科クリニック 院長 渡邉健先生

患者さんが地元で受診できるクリニックの増加に期待

神田 私が東京から埼玉へ移ってきた約13年前の埼玉は人口当たり血液内科医数が全国で下から3番目で、現在でも人口1万人当たりの血液内科医数は全国平均が0.33人であるのに対し埼玉は0.18人と、とても少ない状況が続いています。
 そのため、県内の血液内科で全ての血液疾患患者さんを治療することができず、患者さんは東京へ行かなければならないこともあり、また、地元の一般内科クリニックに戻って血液疾患の治療を継続することも難しく、そのまま東京に通い続けることも多いです。
 患者さんが地元で受診でき、病院の負担軽減にもつながる血液疾患を診られるクリニックの増加は私の希望でもあり、渡邉先生の開院をうれしく思います。
 血液疾患疑いのスクリーニングは血液内科の知識がないと難しいものです。また、一般内科のクリニックでは血液疾患治療薬による急性症状(発熱等)や感染症等の対応に苦慮するでしょう。移植後や慢性期患者さんの診療も含め、血液疾患を診られるクリニックの役割は大きいと思います。

渡邉 大きな病院に行く患者さんは高度な医療を必要とする血液疾患であるべきですので、私も初診時のスクリーニングに力を入れています。

クリニック勤務の医師が不利にならない仕組みの整備を

渡邉 血液内科医として基礎と臨床の双方を極めるのは困難な時代です。若い先生方が大学病院で研究に勤しんでいるところを、クリニックという形で側面から支援していきたいですね。また、クリニックは女性医師のキャリア維持に寄与する場にもなりうると考えます。

神田 私が研修医の頃、血液内科でクリニックという選択肢はほぼありませんでした。ただ、海外では腫瘍内科医がクリニックで活躍していますし、今後はそうした選択肢も考えていくことができるようになるでしょう。現在クリニック勤務のみでは専門医資格を更新できないのですが、クリニックの先生が不利にならない仕組みを学会等でも考え、変えていく必要があります。

顔が見える関係づくりが大切。積極的な連携を模索したい

神田 日本では血液内科の施設が散在していて、医師不足の中で各施設が頑張っている状況です。合理的な診療を進めるために、今後は地元の血液疾患が診られるクリニックが日常診療を担当し、病状が安定している患者さんは大きな病院には半年~1年に一度通院、というような役割分担が望ましいと考えます。

渡邉 患者さんにとっては、慣れ親しんだ病院主治医や施設を離れるのは辛いものでしょうし、捨てられた気持ちになることもあります。病院とクリニックを上手に併用してもらうとよいと思います。いわゆる“1人血液内科医”の先生も、当クリニックのような開業医を頼っていただくことで、その負担軽減も図れると思います。

神田 まずはその状況をなくす必要がありますね。1人では、その先生に何かあったときに地域の診療ができなくなってしまいます。栃木県の自治医科大学関連施設では“1人血液内科医”をなくしました。それでも、新型コロナウイルス感染症のような未知の感染症が流行した場合には、担当医がウイルスに感染して診療が破綻してしまうおそれもあります。その意味でも、別の施設にもう1人主治医がいるというのは安心材料です。

渡邉 不安になったらすぐに受診できるクリニックがあると、患者さんにとってもメリットです。なお、病院との連携では、顔が見える関係になるよう心掛けています。

神田 顔が見える関係は大事だと思います。渡邉先生のようなクリニックの増加を考えると、合同カンファレンス等で積極的な連携を模索していきたいと思います。

今後注目される病診連携、推進には課題も

渡邉 埼玉では神田先生が移植を始められ、若い先生も増え、血液内科のネットワークができてきた、というのが2010年代の経過だと思います。そのうえで当クリニックは、血液疾患患者さんが地元でいつでも診療を受けられる役割を担っていく所存です。ただ、クリニックで血液疾患診療を行ううえでは課題もあります。例えば抗がん剤の調剤に関する診療報酬点数です。病院と同じレベルの対応を薬剤師が適切に行ったとしても、病院なら算定できてもクリニックでは算定できない項目があったり、輸血用製剤が急に使えなくなってしまう場合の金銭面でのリスク等もあるようです。

神田 埼玉~栃木は病病連携が機能している地域ですが、新幹線の駅と駅との間は血液内科の空白地帯が多いです。病診連携が加わることでそのような空白地帯を埋めることができるかもしれません。患者さんにより良い医療を提供するために、病病連携・病診連携の重要性は、今後ますます注目を浴びるでしょう。そのためにも、制度が改善されていく必要もあると思います。