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耳鼻咽喉科医師600人調査(3)舌下免疫療法の治療実態

読了時間:約 4分53秒  2019年06月28日 AM10:00
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スギ舌下免疫療法、保険適用から4シーズン目の2018年春

2014年よりスギ花粉症で、2015年よりダニ通年性アレルギー性鼻炎で保険適用となった舌下免疫療法。2018年春、スギ花粉症の保険適用から4シーズン目を迎え、臨床での使用はどの程度広まっているのだろうか。舌下免疫療法を含むアレルゲン免疫療法は、継続治療が可能な患者においてひとつの選択肢であり、長期寛解も期待できる1)。実際に処方している医師は、舌下免疫療法をどう評価しているのだろう。

花粉の飛散シーズンに特に忙しくなる耳鼻咽喉科医は、自身のアレルギー性疾患についてどのように対処しているのだろうか。また、その家族を含めたアレルギー性疾患罹患状況、治療選択の実態はどうなっているのか。株式会社QLifeはエムスリー株式会社と共同で、全国の耳鼻咽喉科標榜医師600人に対するインターネットアンケート調査を実施し、回答者自身及び回答者の家族の年齢、性別、居住地、アレルギー性疾患罹患状況、治療実態などに関する聞き取りを行った。同調査の結果を報告する本シリーズ第3回目では、舌下免疫療法に焦点を当て、治療実施状況や医師の評価についてまとめた。

今回の調査では、集計にあたり、性別×年代×エリアの構成比を実態に近づけるため、「総務省平成27年国勢調査」の人口構成比に補正する形でウェイトバック集計を実施。回答医師のみに聴取した項目(診療実態)に関しては、 「厚生労働省平成28年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」の人口構成比に補正する形でウェイトバックエリア(8区分)別にウェイトバック集計を実施した。

実施経験のある医師 スギ舌下免疫療法45.6%、ダニ舌下免疫療法34.9%

医師の舌下免疫療法実施率


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スギ舌下免疫療法を「実施したことがある」と回答した医師は全国で45.6%、ダニ舌下免疫療法では34.9%となり、先に承認されたスギ舌下免疫療法の方が実施率が高い傾向を示した。プレスリリースで報告したが、スギ・ダニ舌下免疫療法実施患者を年代別にみると、最も多く実施しているのはともに「30~39歳」(スギ舌下免疫療法73.1%、ダニ舌下免疫療法64.7%)であった。

一方で、ダニ舌下免疫療法は、スギ舌下免疫療法と比べて5~9歳、10・20代での実施率が多い傾向がみられた。これは、5~9歳、10・20代において、スギ花粉症より通年性アレルギー性鼻炎の有病率が高いこと2)が要因のひとつと考えられる。また、若年患者においてはひとつのアレルギー性疾患をきっかけとして別のアレルギー性疾患が誘導される「アレルギーマーチ」の進行も懸念されることから、早期介入が浸透していることも予想される。

また、舌下免疫療法を実施している医師の割合をエリア別にみてみると、通年性アレルギー性鼻炎患者の多い北海道ではダニ舌下免疫療法を実施している医師が多く、九州においてはスギ・ダニ舌下免疫療法ともに実施率が高く、続いて東海、首都圏で2種の舌下免疫療法を取り入れる割合が多かった。

エリア別 舌下免疫療法を実施している医師の割合


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【スギ舌下免疫療法】治療中断は6.5%、「有効性」に高評価

次に、医師が施設でこれまでに舌下免疫療法を実施した患者を100%とした場合における、スギ舌下免疫療法の治療継続状況をまとめた。3年以上の治療継続は14.7%、2年以上3年未満の治療継続は22.6%、1年以上2年未満の治療継続は26.2%、1年未満の治療継続は30.0%、治療中断は6.5%であった。

スギ舌下免疫療法の継続状況


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医師がスギ舌下免疫療法を実施した患者数ごとにスギ舌下免疫療法の治療継続年数を見てみると、3年以上治療継続の患者割合は患者数51人以上の医師で28.8%であった。患者数1人以上10人以下(11.3%)、11人以上20人以下(17.8%)、21人以上30人以下(15.9%)、31人以上40人以下(5.4%)、41人以上50人以下(10.3%)と比べ、3年以上継続の患者の割合が最も多い結果となった。

スギ舌下免疫療法を中断した患者の割合では、患者数51人以上の医師において3.0%となり、患者数1人以上10人以下(6.5%)、11人以上20人以下(9.8%)、21人以上30人以下(5.4%)、31人以上40人以下(5.2%)、41人以上50人以下(4.5%)と比べて、最も少ないことが明らかとなった。

スギ舌下免疫療法実施患者数と治療継続年数


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舌下免疫療法に対する評価について、「有効性」、「安全性」、「治療の継続性」、「QOLの改善性」、「経済性」、「患者さんの満足度」の項目を5段階で医師に聞いたところ、スギ舌下免疫療法では「有効性」が最も評価されている(「評価している」「やや評価している」の合計割合が最も高い)ことがわかった。上述のように、医師の舌下免疫療法実施率は半数に届かない結果であったが、スギ舌下免疫療法を実施する医師は「有効性」をはじめ「QOLの改善性」、「安全性」の項目で、とくに評価しているようだ。

スギ舌下免疫療法の評価


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【ダニ舌下免疫療法】「有効性」「安全性」「QOLの改善性」に評価集まる

ダニ舌下免疫療法の治療継続状況は、3年以上の治療継続が6.2%、2年以上3年未満の治療継続は15.0%、1年以上2年未満は27.0%、1年未満は45.7%。治療中断は6.1%だった。

ダニ舌下免疫療法の継続状況


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ダニ舌下免疫療法を中断した患者の割合は、患者数51人以上の医師(n=12)で最も少なく(2.5%)、患者数1人以上10人以下(n=147)が7.1%、11人以上20人以下(n=27)が4.3%、21人以上30人以下(n=13)が3.1%、31人以上40人以下(n=4)が5.0%、41人以上50人以下(n=6)が4.8%であった。

ダニ舌下免疫療法に関する医師の評価をみると、「評価している」「やや評価している」の合計では「有効性」が最も多かった。「評価している」単独での割合では、「安全性」(26.0%)が最も多く、次いで「有効性」(24.8%)、「QOLの改善性」(19.0%)が挙がった。

ダニ舌下免疫療法の評価


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日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・代議員でゆたクリニック院長の湯田厚司氏は、舌下免疫療法の実施状況について「若手の医師を中心に舌下免疫療法を導入する医師が増えている実感があり、半数弱がスギ舌下免疫療法の導入経験があると回答しているのは納得できます。2018年には小児への使用が可能なものも発売されましたので、今後はさらに小児に多く治療されることを期待しています」と述べた。治療継続状況については「治療中断の割合が予想以上に少なく、良い結果。耳鼻咽喉科医の治療に対する熱意が窺えます」とコメントし、「舌下免疫療法の継続のカギは、患者とコミュニケーションを取り、モチベーションを保つことだと思います。患者とのコミュニケーションが良好な施設では、治療継続率が高い印象があります」とした。

本調査の概要は以下の通り。

  1. 調査対象:耳鼻咽喉科標榜医師
  2. 有効回答数:600人
  3. 調査方法:インターネット調査
  4. 調査時期:2018/10/4~2018/11/1

また、詳細な調査報告書はhttp://www.qlife.co.jp/news/181226qlife_research.pdfからダウンロードできる。(QLifePro編集部)

参考文献
  1. 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年版(改訂第8版)第5章 治療.(株)ライフ・サイエンス, 35-82, 2015
  2. 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-2016年版(改訂第8版)第2章 疫学.(株)ライフ・サイエンス, 7-13, 2015