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非小細胞肺がん、ジオトリフ治療継続のための皮膚障害管理とは-チーム医療の実践が促す患者意識の向上と副作用マネジメント

読了時間:約 8分7秒  2017年07月10日 PM12:00
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提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

非小細胞肺がん(NSCLC)に対する上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による薬物治療では、高い割合で皮膚障害の副作用が報告されている。LUX-Lung7(LL7)におけるジオトリフの有害事象報告では、下痢に次いで発疹/ざ瘡様皮疹が報告され、その発現割合は8割超にもおよび、その管理は治療継続の大きなカギを握っている。EGFR-TKIの皮膚障害に対する対策チームを始動させている国立病院機構四国がんセンター呼吸器内科の野上尚之先生と同センター薬剤部の小暮友毅先生にNSCLCに対するジオトリフ治療継続のための皮膚障害対策の実際と重要性について伺った。(2017年4月取材)

医師とコメディカルの連携による皮膚障害サポート

-四国がんセンターではかなり早い時期にEGFR-TKIに関する皮膚障害対策チームがスタートしていたと伺いましたが

小暮:そもそも当センターはがんに特化した医療機関であるため、大学病院や大規模総合病院と異なり皮膚科がありません。そのため、皮膚科関連は週1回の非常勤医師による診療となっています。

皮膚障害対策チームは、大腸がんを適応とするセツキシマブの副作用であるざ瘡様皮疹や爪囲炎に対応するため発足しました。院内で消化器内科専門医による抗EGFR抗体薬、呼吸器内科医によるEGFR-TKIの投与時に、医師や薬剤師、看護師が皮膚障害に対応していくための手法を整備することが目的でした。

-実際ジオトリフなどのEGFR-TKIの投与開始時は、皮膚障害に対して予防対策も含めどのような対応を行っていますか


独立行政法人国立病院機構四国がんセンター
外来部長 呼吸器内科医長 野上尚之先生

野上:当センターでは、EGFR-TKIを導入する場合、重篤な副作用である間質性肺炎への警戒監視、患者さんへの副作用の説明や自己管理などの教育も兼ねて2週間入院で行います。

これまでの臨床試験から、ざ瘡様皮疹は早ければ投与開始1~2週間目以降、爪囲炎は4週間目以降に出現すると言われていますが1)、これは実臨床の実感でも同様です。もっとも入院導入期間中は、ざ瘡様皮疹が出現したとしても数個の小さな皮疹が認められる程度で本格的な症状が出るのは多くが退院後です。

当初の皮膚障害対策は、症状発現後から開始していましたが、ジオトリフでは臨床試験の成績を見ても、実臨床での経験からも約9割の患者さんで症状が認められるため、ジオトリフを服用する全患者さんには、投与開始前からスキンケアを行うように看護師、薬剤師などメディカルスタッフとともに指導しています。

―副作用に対する患者さんへの説明はどのように行っていますか

野上:最初のインフォームド・コンセントで、患者さんに3種類のEGFR-TKIの有効性や副作用などを医師が説明します。そのうえでジオトリフ投与が決定すれば、再度有効性や副作用を説明し、患者さんに同意書にご署名いただきます。同意書はA4版数ページで構成され、文書内にはジオトリフと化学療法の比較試験であるLUX-Lung3やLUX-Lung6で示された有効性や各副作用の出現頻度も明記しています。

患者さんにとってはEGFR-TKIの治療自体が初めてのことですから、医師が説明を尽くしたとしても全ての内容を一度に覚えきれないことがほとんどです。そのため、同意書は原本をスキャンして電子カルテに取り込み、原本を患者さんにお返ししています。治療経過中に再度その見直しができるなどの利点があります。

-教育入院時の皮膚障害に関して、メディカルスタッフの対応や役割分担はどのようなものですか

野上:教育入院期間中の医師の役割は、主に副作用が発現した場合の診断などです。より詳細な薬剤の説明や患者指導は、主にメディカルスタッフが担当しています。

小暮:まず、投与開始前に薬剤師が患者さん向けのパンフレットを使用して皮膚障害に関する説明をします。ざ瘡様皮疹、爪囲炎とも病変の実例写真も提示します。特にざ瘡様皮疹は、発現率も高いため詳しくお話し、出現時の対処方法も説明します。

また、皮膚障害は人目に付きやすく、女性では容貌面から特に気にされることが多い副作用です。患者さんの理解が不十分なままだと、治療自体への不満だけでなく、治療意欲の喪失につながりかねないことが懸念されます。

しかし、説明を行うことで患者さんはある程度の皮膚障害を容認できるようになり、予防対策のスキンケアにも真剣に取り組んでいただけることが多くなります。
予防対策のスキンケア指導は、保湿対策が中心で患者さん向けのパンフレットを用いて看護師が説明します。指導内容は、洗顔、入浴、メイク、衣服、爪の切り方、日射が強い際の日焼け止めの使用など注意事項も多岐にわたり、入院期間中に患者さんがこれらを理解し実行できているかも看護師が確認しています。これらの保湿対策は、必ず毎日実行することが大切です。その点からも副作用に関する説明が、患者さんの意識向上につながると現場では感じています。

また、患者さんへのご説明の際に気を付けているのは患者さんの生活状況、特に独居か否かです。同居家族の有無によりスキンケア、服薬アドヒアランスの維持はやはり異なってしまいます。そのため、同居する家族や時々でも訪問してくれる家族がいらっしゃる場合は、薬剤やスキンケアの説明をご家族にもしています。特に、独居患者さんの場合は、同居家族がいらっしゃる患者さんよりもさらに丁寧な説明を心がけています。

ざ瘡様皮疹、爪囲炎といった皮膚障害の対応と治療継続の可能性

-皮膚障害に対する管理とNSCLC治療の継続への影響はありますか

野上:EGFR-TKIによる皮膚障害によって、患者さんから治療中断を求められることもあります。特に容貌面の変化を気にする患者さんや、人と接することの多い仕事をされている患者さんでは、薬剤変更を余儀なくされたケースもありました。

-EGFR-TKIによる皮膚障害が出現した場合の対処法はどのようなものですか

野上:最近公開されたEGFR阻害薬に起因する皮膚障害の治療手引きでは、症状出現前からのスキンケア+テトラサイクリン系もしくはマクロライド系抗菌薬の使用が推奨されています。なお、四国がんセンターを含む国立病院機構の複数の医療機関においては、現在、EGFR-TKI投与患者のざ瘡様皮疹に対する、ミノサイクリンの内服による予防効果を確認する前向き試験を実施しています。

症状出現時の治療は外用ステロイド剤の塗布とミノサイクリンの内服です。

ざ瘡様皮疹が出現するのは顔、胸部、背部、頭部で、それぞれステロイドの吸収度合いが違うため、薬効強度の違う外用ステロイド剤を部位ごとに塗り分けます。この際は塗布の仕方も重要なので、その点は薬剤師に塗布方法の指導も行ってもらっています。

ミノサイクリンは、従来から抗菌作用と抗炎症作用により尋常性ざ瘡(ニキビ)に使われていますが、抗炎症作用がEGFR-TKIによるざ瘡様皮疹にも効果があります。そのため、抗菌作用と抗炎症作用の両方を期待する場合は1日200mgの投与が必要ですが、EGFR-TKIによるざ瘡様皮疹の場合は、1日100mgを投与しています。

Fig.1 ざ瘡様皮疹に対する治療アルゴリズム

-外用ステロイド剤塗布の注意点はどのようなものでしょう


独立行政法人国立病院機構四国がんセンター
薬剤部 調剤主任 小暮友毅先生

小暮:外用ステロイド剤の塗布は、適量をあまりすり込まずに薄くさらっと塗ることです。予め予防対策として保湿剤を使用しているケースでは、最初に保湿剤を使用し、その上からステロイド剤を塗布するように指導しています。

なかには高齢などの理由で保湿剤と外用ステロイド剤の塗布順序などを間違えやすい患者さんもいらっしゃいますので、その際は保湿剤と外用ステロイド剤の混合処方という対策を行う場合もあります

-ジオトリフで皮膚障害が起こった場合の対応は、休薬・減量でしょうか

野上:ジオトリフでは副作用発現時の減量によって抗腫瘍効果は減弱しないことが最近の臨床研究で確認されました2)。従来の薬剤を含め、減量により効果も減弱することが一般的ですが、これはジオトリフの作用がその機序から考えても不可逆的なためだと考えられます。そのため、私自身は患者さんが「副作用がつらい」と訴えた場合には、躊躇することなく早期の減量をおこなえるようになりました。

当センターでは、ジオトリフ投与開始時の2週間の教育入院後、4週間ごとの来院を設定しており、概ね次の来院(投与開始から6週目前後)で下痢やざ瘡様皮疹の訴えがあります。ざ瘡様皮疹が発現した際には、先にお話したように外用ステロイド塗布とミノサイクリンの内服で治療を行い、症状の改善状況を見ながら場合によっては一旦休薬し、その後は標準用量、減量のいずれの用量で継続するかを患者さんと話し合いをしながら決定しています。下痢やざ瘡様皮疹という早期に出現する副作用を理由に減量に踏み切っていることもあってか、出現時期が遅い爪囲炎などを理由に減量に至ることは少ないのが実際です。

-爪囲炎対策については患者さんにどのような対応を指導されていますか

小暮:患者さん向けの冊子では爪切りの際には爪を少し長めに残して、両角をヤスリで丸めるスクエアオフカットを推奨し、症状が認められた場合には爪と隣接する炎症部位の皮膚とを離す、スパイラルテープ法を指導することもあります。ただし、このどちらも一般的には馴染みがなく、高齢者などでは覚えにくい処置でもあるので、看護師が後の外来で患者さんに直接、処置方法を実演することもしばしばあります。

NSCLC治療と副作用対策におけるチーム医療と地域連携

-四国がんセンターは皮膚科がないというお話でしたが、周辺の皮膚科医との連携などはどのように行っていますか

野上:かつては皮膚科医の中にも、EGFR-TKIの副作用としての皮膚障害そのものを知らないケースもありましたが、現在はその点に関する理解は進んでいるため、院外の皮膚科と連携して皮膚障害の管理を依頼することは比較的多いと思われます。特に当センターの場合は四国内の遠隔地から受診する患者さんも少なくないので、ご自宅近傍の皮膚科に紹介状を出して日常的な管理をお願いすることもあります。

また、中にはジオトリフの導入から2、3か月目までは当センターが担当し、その後は患者さんの自宅近傍の総合病院にジオトリフの処方から皮膚障害の管理までお願いし、時折効果判定で当センターに来院していただくという形をとっているケースもあります。

-四国がんセンターの場合は院外処方が中心とのことですが、皮膚障害に関して保険薬局との連携はなさっていますか

小暮:当センターの薬剤部と近傍の薬局との間で、3か月に1回程度、がん全般に関する研究会を開催しています。また、センター内の研修会に参加していただく薬局には、当センターでの皮膚障害の取り組みもお伝えし、薬局側からの相談にも応じています。このため部位別に塗り分けなければならない外用ステロイド剤の処方時には、チューブごとに塗布部位を書き記したシールを貼るなどの対応をしていただいているケースもあります。

すべての科が揃っている総合病院と、当院のようにがんに特化していて皮膚科がない専門病院では、自ずと皮膚障害に対する取り組み方が違います。総合病院なら皮膚科で対応できますが、皮膚科がない専門病院では、医師、薬剤師、看護師がある程度自分たちでケアしなければなりません。

野上:免疫チェックポイント阻害剤など多岐にわたる副作用が認められる薬剤も登場し、殺細胞性抗がん剤の限られた副作用を診ていればいい時代ではなくなっています。副作用が多様化している今、理想論としては、がんセンターも総合病院化していかなければいけない時代です。現状、自分たちでなんとかするため、当院では早い段階からチーム医療に取り組んでいたわけです。チーム医療を少し進んだ考え方として、地域連携ができるようになり、患者さんが遠くの病院までいかなくても最良の治療が受けられるようになってほしいという気持ちで取り組んでいます。

野上尚之先生
独立行政法人国立病院機構四国がんセンター外来部長 呼吸器内科医長

1993年 三重大学医学部卒業
1993年 岡山大学医学部第2内科
1997年 岡山大学医学部第2内科大学院、学位取得
2003年 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター

小暮友毅先生
独立行政法人国立病院機構四国がんセンター薬剤部 調剤主任

1999年 広島大学医学部総合薬学科卒業
2001年 広島大学大学院医歯薬総合研究科医療薬学選好博士課程前期終了
2003年 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター薬剤科薬剤師
2007年 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター薬剤科調剤主任
1) Kato T. et al.: Cancer Sci 106(9), 1202, 2015※
2) Yang J.C. et al.:Ann Oncol. 2016 Nov;27(11) :2103-2110 ※
※本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された

ジオトリフ 医薬品情報はこちら(PDF)

提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社