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「LUX-Lung7」の結果から読み解く、患者状況に応じた投与量マネジメントの重要性

読了時間:約 6分15秒  2016年11月14日 PM01:00
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提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺がん患者を対象に、第二世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)「アファチニブ(製品名:ジオトリフ)」と第一世代の「ゲフィチニブ」を評価したランダム化非盲検第IIb相試験「LUX-Lung7(LL7)」。同試験から、ジオトリフについて、無増悪生存期間(PFS)の延長が示されたことに加え、これまで多いとされていた有害事象による治療中断も、差が認められないとの結果が示された。

この結果を、日頃の診療における有害事象の管理とアドヒアランスの向上にどうつなげれば良いのか。北海道大学病院 内科Iの水柿秀紀先生に、副作用マネジメントの観点からの用量調整、そしてその対策についてお話しを伺った。(2016年9月取材)

適切な休薬・減量を行うことで治療継続は可能

-今回のLux Lung7(LL7)、結果をどのように捉えていますか?

北海道大学病院 内科I 水柿秀紀先生
北海道大学病院 内科I 水柿秀紀先生

第II相試験ですが、アジア圏を含めた300例以上のグローバルスタディであり、ファーストラインでジオトリフとゲフィチニブをhead to headで比較しています。そして、ジオトリフがゲフィチニブと比較しPFSと治療成功期間(TTF)を延長していたことの意義は大きいと思います。

とりわけ興味深いのは、通常、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)では治療開始1年前後からT790M変異を含めた耐性メカニズムにより、薬剤の効果は減弱する傾向にあります。LL7ではPFSのカプランマイヤー曲線が開始1年後くらいからジオトリフが優位を保ったまま、差が開いていったことが目を引きます。ここから、第二世代のTKIであるジオトリフは第一世代のTKIとはやや異なる効果が期待できるとの印象を受けます。

-その他に注目した点は?

一般的には第一世代のTKIと比較して毒性が強いと考えられていたジオトリフですが、今回の結果ではゲフィチニブとの間で有害事象による治療中断では差がありませんでした。ジオトリフ群の42%が投与量を減量しており、患者ごとの有害事象のレベルに応じて適切な減量を行うことで治療継続は可能であることが分かります。

また、今回の有害事象を一覧すると、ジオトリフは下痢、皮疹、爪囲炎、ゲフィチニブでは肝機能障害、薬剤性間質性肺炎という形でプロファイルが異なることが改めて確認されたことも大きな意味を持っていると考えています。下痢や皮疹は投与量の減量に加えて対症療法で管理可能であり、この点も有害事象による治療中断率に両群で差がなかった原因だと考えています。

-ジオトリフ導入時の注意点は?

まず、当院ではジオトリフ導入時は標準用量の40mgを2週間入院で開始します。入院後には医師、薬剤師のそれぞれから、初期には下痢、皮疹、口内炎の副作用が、中長期的には爪囲炎などの副作用が出やすいことなどを説明しています。同時に患者さんには「副作用により減量しても十分な効果を得られることが報告されています。あなたにとっての適切な投与量を知ることが重要ですので、副作用は我慢しないでお知らせ下さい」とお伝えします。

入院中は初期の副作用管理を常に意識します。8日目と15日目に採血による肝機能検査を行います。特に問題がないと判断すれば退院していただき、以後は外来で対応します。

-LL7の結果から副作用の管理が重要とのこと。実臨床ではどのように管理を?

LL7ではGrade3以上の有害事象、あるいはGrade2で2日以上継続する下痢、7日間以上継続する悪心・嘔吐の場合にGrade1以下に回復するまで最大14日間休薬後に10mgごとの減量という規定ですが、実臨床では患者さんが苦痛を感じずに服薬継続が行えるよう、より早期の休薬・減量を心掛けています。

例えば下痢では、通勤中や接客中にトイレに行きにくいという不安を抱える方、爪囲炎では手先を使う作業が多い方などでは軽度でも苦痛を訴えることは少なくありません。このためGrade2に近いGrade1の症状でも患者さんの生活状況などを考慮して、早めに減量に踏み切ることもあります。

前述したように、治療開始1年以降でPFS上はジオトリフが優勢であるため、長期の治療継続が期待できます。実際、LL7に先立って行われたLux Lung3(LL3)の結果からは日本人症例の76%で減量されていても長期に治療を継続できていること、また、ドイツのCompassionate use programでは、減量した群でも効果が減弱しなかったことが既に報告されています。

いずれにせよ40mgを継続することに主眼を置き、患者さんが副作用により辛い思いをして服薬アドヒアランスの低下に至るのは、得策ではありません。私はジオトリフを使用する先生方には、減量することに抵抗感を持たないよう訴えています。

皮膚科・口腔外科との連携で、服薬アドヒアランスを維持

-実際の減量プロセスについて

Grade3レベルの激しい症状が出てしまった場合には、一旦休薬を行い、Grade1レベルまで回復したことを確認し、10mg単位で段階的に減量して経過観察します。特に肝機能障害など検査値で確認できるものは、Grade1への改善を確認することが必要です。

また、ジオトリフでは倦怠感を訴える患者さんが比較的多く、食欲不振の訴えなどもあります。この場合は検査値では確認できませんので、「通勤が辛い」、「食欲が出ない」など日常生活に影響を及ぼしている場合は、同様に一旦休薬し、症状の改善を確認してから10mg単位の段階的減量で再開します。

下痢や皮疹でGrade2あるいはGrade2に近いGrade1などでは、休薬期間は置かずに10mg単位の段階的な減量で対応します。減量時はまず1~2週間後に再診し、経過を観察するように心がけています。

【ジオトリフの用法・用量】
通常、成人にはアファチニブとして1日1回40mgを空腹時に経口投与する。
なお、患者の状態により適宜増減するが、1日1回50mgまで増量できる。
<用法・用量に関連する使用上の注意>(抜粋)
(1)副作用が発現した場合は、症状、重症度等に応じて、以下の基準を考慮し、休薬、減量又は中止すること。
[「重大な副作用」の項参照]

副作用のグレード注1) 休薬及び減量基準
グレード1又は2 同一投与量を継続
グレード2(症状が持続的 注2)又は忍容できない場合)若しくはグレード3以上 症状がグレード1以下に回復するまで休薬する。回復後は休薬前の投与量から10mg減量して再開する注3)、4)
注1)グレードはNCI-CTCAE 3.0版による。
注2)48時間を超える下痢又は7日間を超える皮膚障害
注3)1日1回20mg投与で忍容性が認められない場合は、投与中止を考慮すること。
注4)一旦減量した後は、増量を行わないこと。

-その他に副作用管理で気を付けるべきことは?

初期に発症する皮疹は、特に女性では美容的な面から強い懸念を示しますし、中長期的には皮膚症状の爪囲炎の発症が認められますので、ジオトリフ処方時には皮膚科との連携を密にして症状改善に努めることが賢明です。ここでの連携の遅れも皮膚症状の副作用を危惧する患者さんの服薬アドヒアランス低下を招きます。

口内炎に関しては初期、中長期とも、また投与量の減量を行った患者さんでも時折発症しますが、そのような患者さんでは日常の口腔ケアが不十分な方も少なくありません。私はジオトリフに限らず化学療法開始前に全ての患者さんに口腔外科受診を勧め、齲歯が有る場合は化学療法開始前に口腔外科での治療を行います。口内炎の症状があるときは、軟膏の塗布やうがいの励行などを指導しています。

既にお話した対策を行えば、概ね処方から半年程度で下痢や皮疹で悩む患者さんは、ほとんどいなくなります。逆にこの時期でも下痢や皮疹に悩む患者さんがいる場合は、投与量管理や副作用対策が不十分であると考えていただきたいです。

-ジオトリフの投与が望ましい患者像は?

75歳未満でPS 0-1の患者さんでは第一選択薬と考えています。75歳以上での安全性、有効性のエビデンスは乏しく、実臨床での適応はないと個人的には考えています。

また、LL3とLL6の統合解析結果は、エクソン19欠失変異症例では、ジオトリフがより有効であることを示唆する結果でした。しかし、この2つの試験結果はあくまでジオトリフと化学療法を比較した結果です。一方、第II相試験とはいえTKI同士を比較したLL7では、エクソン19欠失変異とエクソン21のL858R点突然変異の効果に差がないことが判明しました。そのため、どちらの変異であってもジオトリフが第一選択薬になると解釈しています。

また、ジオトリフが第二世代TKIとして登場したことで、第一世代無効後の投与を検討する声も時にありますが、過去の報告からはこの場合の奏効割合は10%前後にすぎません。このようなことを総合しても、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺がんで75歳未満、PS0-1の患者さんではジオトリフが第一選択薬であり、そのカギを握るのが副作用に合わせた適切な投与量減量と考えます。

水柿秀紀先生(北海道大学病院 内科I)
日本内科学会 内科認定医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
日本呼吸器学会 呼吸器専門医

ジオトリフ 医薬品情報はこちら(PDF)

提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社