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EGFR-TKI初の直接比較試験「LUX-Lung7」の意義、臨床医はどう評価するか

読了時間:約 5分41秒  2016年10月05日 PM01:00
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提供:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺がん」を適応とする第二世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)「アファチニブ(製品名:ジオトリフ)」と第一世代の「ゲフィチニブ(製品名:イレッサ)」。EGFR遺伝子陽性の切除不能な非小細胞肺がん患者を対象に両剤を評価した無作為非盲検第IIb相試験「LUX-Lung7(LL7)」の結果が、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)Asia 2015を皮切りに次々と発表され、2016年3月にはThe Lancet Oncologyに掲載された。同試験は、EGFR-TKIに分類される分子標的治療薬を初めて直接比較した世界規模の無作為非盲検第IIb相試験であり、肺がん治療に携わる多くの医療従事者から注目を集めている。

今回は、このLL7自体が持つ意義、「Patient Reported Outcomes(PRO)」の解析結果とPROそのもの役割や課題について、国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科の後藤悌先生にお話しを伺った。(2016年7月取材)

直接比較の結果「臨床医にとって重要な意義を持つ」

-EGFR遺伝子陽性の切除不能な非小細胞肺がん患者に対してアファチニブとゲフィチニブの効果を直接比較したLL7の結果が示されました。この試験の意義はどう捉えていますか?

国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 後藤悌先生
国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科 後藤悌先生

まず、製薬企業にとって最終結果が不利に働くかもしれない直接比較試験を実施したという点に大きな意義があると感じています。同時に医師側にとっては、この結果をアファチニブとゲフィチニブの選択を迫られた患者さんに説明ができることにも意味があります。これ以前は2つの薬剤に関わる複数の試験の組み合わせでその差を説明することもあったでしょうが、これは科学的な厳密さを考慮すれば正確とは言い切れません。

-結果そのものについてはどのようなご評価ですか?

この試験から分かったことを端的にまとめるなら、アファチニブがゲフィチニブよりも無増悪生存期間(PFS)を延長するが、アファチニブの方が副作用はシビアということです。このことを受けて、私は患者さんに副作用は少々厳しくともより長い有効な期間を得たいならばアファチニブ、副作用をかなり懸念するというのであればゲフィチニブで治療してはいかがですか、とお伝えしています。繰り返しになりますが、LL7の結果によって、この説明が自信を持って行えるようになったのは我々臨床医にとって重要な意義を持つと思います。

また、今回我々がこの薬剤について誤解があったことも明らかになっています。従来から、アファチニブはEGFR陽性でもとりわけエクソン19欠失変異を有する患者さんで有効性が高いと考えられ、この情報がやや独り歩きし始めていました。また、エクソン21のL858R点突然変異の患者さんには、アファチニブは勧められないという考えもありました。しかし、LL7では、EGFR陽性でエクソン21のL858R点突然変異を有する患者さんでも有効であることが判明したのです。

-LL7ではアファチニブの投与を受けた患者さんの4割弱が試験開始後、副作用により減量を強いられています

実際、アファチニブを標準用量で投与をすると、口内炎や下痢が酷いという理由で、減量ではなく薬剤そのものの変更を要望される患者さんがいることが大きなネックでした。LL7の結果を見る限りでは、20~30mgへ減量しても概ねゲフィチニブよりも治療成績は良好であるとの示唆が得られ、この点はアファチニブ投与を勧めたい患者さんへの説明では有用であると感じています。実際、個人差もありますが、副作用、とりわけ爪囲炎では減量により大きく症状が改善する例を私自身も経験しています。

患者自身による治療評価「PRO」 精度の向上、信頼性や妥当性の証明が必要

-今回のLL7では、患者さん自身が治療効果を評価する
「Patient Reported Outcomes(PRO)」も測定されています。
まず、このPROについて、現状ではどのような位置づけを占めているのでしょうか?

以前からあらゆる疾患で患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の調査は行われており、治療介入を受けて患者さんの日常生活に治療がどのような影響を与えているかを考えることは非常に重要なことと考えています。

PROというのはこのQOL評価の一部が組み込まれていますが、これに加えて薬剤の副作用を患者さんの目線で評価する内容などが含まれています。このような指標が取り入れられるようになった背景は、臨床試験の質が向上し、その測定を可能にする手法も向上してきたことや単なる医学的な効果のみにとらわれない薬剤評価を行うべきという社会的な要請もあったと思います。

-PRO自体はどのように利用すべきものなのでしょうか?

例えば、がんの治療薬における副作用の1つに下痢があります。患者さんの辛さを下痢の回数で推し量ることは可能ですが、倦怠感といった副作用では患者さんの主観的な要素が多くなり、医師側は具体的な把握がやや難しくなります。この点を一般的なQOL評価などで評価を試みると、大まかな改善・悪化を把握できる程度に過ぎません。その意味でPROは、副作用評価に特化したPRO-CTCAEといった指標もありますので、これを利用することで医師が感じていた副作用の深刻度と、患者さんが実際に感じている辛さは異なるとの認識を得ることもできます。これを副作用のサポートに生かし、かつ患者さんへの改善状況の説明のために使用することも可能かと思われます。

-LL7ではPROを測定した結果、アファチニブとゲフィチニブの2群間で有意差はなかったと報告されています

私自身はこの点がPROの限界・課題を明示したと思っています。この2薬剤を処方している医師ならば、アファチニブの方が副作用は厳しいという点を患者さんの声も含め実感しているはずです。患者さんと接している看護師、薬剤師も私たちと同様、あるいはそれ以上にアファチニブがゲフィチニブよりも副作用が厳しいことを感じているのではないでしょうか。それゆえLL7で示されたPROで両群間に有意差がないという点は評価が難しいと考えます。

逆に解釈を進めるならば、今回のLL7のPRO測定で用いられたEQ-5DやEQ-VASという指標は、こと薬剤の副作用評価では適切な指標ではないとも解釈できます。

また、患者さんの日常生活を取り巻く環境によっても副作用の評価は違います。例えばアファチニブで代表的な下痢の副作用は、1日3~4回ならば副作用評価のグレード分類では、グレード1ですが、外勤の患者さんではそれでも大きな苦痛を感じます。この点はPROでは評価不能です。

-今後PROの利用はより進展していくのでしょうか?

今、お話ししたように患者さんの主観が関係する副作用の評価では、ある意味有効で将来的には個々の患者さんへの説明で利便性を発揮するシーンは増えてくる可能性はあります。

しかし、PROの利用はまだ課題が多いのが現状です。まず、患者さん毎に感じ方が異なるものをより客観的に理解するために数値化などを行うことが、そもそも可能かという問題があり、この点をクリアしても算出される数値の差が真に意味のあるものかとの解釈は恐らく時間をかけても解決しきれない問題点でしょう。

また、がん患者さんでは、症状の改善・悪化などは経時的に流動的、波状的に変化します。にもかかわらずPROは患者さんが比較的良好な状態の時しか聴取できず、病勢進行(PD)となったら聴取はされなくなることがほとんどです。その良好な時期だけのPROを数値化しても、医師が行う従来の客観的臨床評価との相関も考慮して、平均値をどのように算出するか、どの時点のPROを最低値と考えるかなど、現時点では確立した手法は存在しません。

さらに、患者さんも医師も多くは生存期間を重視し、その延長に心血を注いでいます。臨床に携わってきた者の実感として、極端な言い方ですが、PROは良好だが生存期間は短い、多少PROは悪くとも生存期間は長いというもののどちらが良いかと患者さんに問えば、恐らく多くの患者さんが生存期間を選択するだろうと思います。このような状況では医師だけでなく患者さんもPROのようなものを重視することには消極的になります。

-ではPROの利用が進展していくためにはどのようなファクターが必要なのでしょうか?

まず、もう少しPROの精度が向上し、定量化したものの信頼性、妥当性が証明されることが必要です。同時にPROの測定では、患者さんが簡便に回答できるかも極めて重要な点です。印刷物で患者さんに書き込みをお願いする場合、患者さんの状態が良好な時ですら継続的に回答を得ることはかなり困難であることも少なくありません。その意味ではスマートフォンのアプリケーションなどで簡便に聴取できるなどの手法が採用できれば、利用進展の一助となる可能性はあります。

後藤悌先生(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)
日本内科学会 総合内科専門医
日本内科学会 指導医
日本呼吸器学会 呼吸器専門医
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医

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