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プライマリケア医におけるアレルギー疾患の治療アプローチ

読了時間:約 5分20秒  2013年11月15日 AM10:30
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聖路加国際病院アレルギー膠原病科 部長
岡田正人先生

厚生労働省によると、現在日本では全人口の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患していると推定され、このうち最も多いのが人口の40%以上と言われる、花粉症を含むアレルギー性鼻炎である。

一方、日本のアレルギー疾患の診療水準は欧米と格差はないとは言われているが、課題も多いとされる。

今回、アレルギー疾患診療の内外格差と、現在「国民病」となりつつあるアレルギー性鼻炎への対応について、アメリカ、フランスでの診療経験も持ち、アメリカのアレルギー臨床免疫科専門医の資格を持つ聖路加国際病院・アレルギー膠原病科部長の岡田正人先生にお話を伺った。

■日米で異なるアレルギー専門医制度

アメリカと日本を比較した場合、アレルギー疾患の診療体制は大きく異なります。アメリカでは内科での3年間の研修修了後、各専門分野の教育を受けますが、アレルギー専門医だけは小児科研修、内科研修のいずれを終えた医師も同じプログラムに入り、専門教育を終えた後はいずれの診療科出身でも成人も小児ともに臓器横断的にアレルギー疾患の診察を行います。もちろん軽症の場合は、プライマリケア医で診療はしますが、例えば耳鼻科ならば関連する手術を行うのが診療の主体で、薬剤の処方はアレルギー専門医が行い、プライマリケア医にフィードバックする形です。

日本でもアレルギー専門医制度はありますが、各診療科の医師がその診療科に関わるアレルギー疾患を学んで取得する形です。

アレルギー疾患では例えば喘息の患者さんでは約8割がアレルギー性鼻炎を有し、鼻炎が改善すれば喘息も改善することが知られており、one airway one diseaseという考え方からすればアメリカのようなアレルギー専門医制度のメリットは大きいと言えます。ただ、アメリカの場合、アレルギー専門医の研修病院はすべての州にあるわけではなく、医師の専門性が高い反面、患者さんのアクセスは悪くなります。

日本ではアレルギー専門医の専門性は対応する診療科が中心となりますが、一方で耳鼻科医は手術もアレルギー性鼻炎も対応でき、アクセスも容易であるというメリットも存在します。

■難しく考えず、症状抑制を優先に

日本ではプライマリケア医や耳鼻科医がアレルギー疾患の診療の最前線にいます。ここでの診療の基本はまずアレルギー疾患を難しく考え過ぎないことです。アレルギー性鼻炎では原因となるアレルゲンがスギ花粉でもブタクサでも症状は同じで、アレルゲンそのものを完全に避けることは不可能です。患者さんの症状を抑えることが何よりも先決です。

また、標準的治療でほとんどの患者さんは満足度が得られる改善を示します。ですから、あまり症状の改善が認められない場合でも、医師側がこの程度が限界だろうと予断を挟まないことです。

■複雑ではないアレルギー性鼻炎の薬物治療

実際のアレルギー性鼻炎の治療ですが、アメリカのガイドラインでは、軽症では抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬の内服、それで改善しない場合は点鼻ステロイド、より重症の場合には短期の経口ステロイドの内服という3段階です。この治療原則は日本も同様ですが、短期の経口ステロイドまで必要になることは極めて少ないと言えるでしょう。

注意すべきは、アレルギー性鼻炎治療の開始の際に薬剤を間違えないことです、鼻漏と鼻閉では処方すべき薬剤が違います。抗ヒスタミン薬は鼻漏には有効性を示す一方で、鼻閉を有する患者さんに漫然と抗ヒスタミン薬のみを処方しても症状の改善は期待できません。鼻閉がある場合は血管収縮作用を有する薬剤や、ロイコトリエン拮抗薬などの抗アレルギー薬が必要になります。アレルギー性鼻炎の3主徴はくしゃみ、鼻漏、鼻閉であり、鼻漏と鼻閉の両方の症状が出ていることも多く、最初は「ディレグラ」のような鼻漏と鼻閉に効果のある配合剤を処方するなど、両方の症状の改善を図っていくことも良いでしょう。

■服用開始のタイミングは?

スギ花粉などによるアレルギー性鼻炎をなるべく軽症向けの抗ヒスタミン薬などで抑制したい場合はやはり予防的服用が必要になります。その開始時期は、過去には花粉飛散開始日の2~3週間前からという形で行われていましたが、現在では症状が出現したらすぐ開始するという形で十分と考えられています。

そもそも体内のヒスタミン受容体は、常時、半数がオン、半数がオフで、互いに交流電源のように常に入れ換わり、オンの状態の受容体が半数以上になるとバランスが崩れて症状が出ます。例えば受容体が100個あるとした場合、20個にヒスタミンが結合すると、残る受容体の半数がオン、半数がオフになり、オンの受容体が半数超となるので症状が出ます。抗ヒスタミン薬を服用して30個の受容体がオフになった場合、残る受容体の半数がオフ、半数がオンになり、合計半数以上の受容体がオフとなり症状は出ません。この場合、もし最初に60個の受容体にヒスタミンが結合してしまえば、抗ヒスタミン薬を服用しても症状は当面継続し、既に受容体に結合したヒスタミンが時間経過とともに外れていくのを待つしかありません。

この理論を考えれば、症状が始まったらすぐに抗ヒスタミン薬の服用を開始し、シーズン中は定期的な服用を続けることが重要です。

■服薬アドヒアランス向上のため 患者さんのライフスタイルに合わせ自己決定権を尊重する

抗ヒスタミン薬では、眠気の副作用があり、現在ではこれを改善した第二世代の抗ヒスタミン薬が存在しますが、その薬剤間においても眠気の副作用の発現頻度には違いがあります。

日中仕事を持つ患者さんに眠気の副作用が強めの薬剤を選択すれば、長期には服用を継続しなくなる可能性が高まります。同時に医師側が一方的に薬剤を決めることは、患者さんの主体性を削ぎ、これも服薬アドヒアランスを低下させる可能性があります。

抗ヒスタミン薬などは、症状の程度、患者さんのライフスタイルに合わせて複数の選択肢は提示できますので、そのうえで最後は患者さんに選択してもらうことで治療に対する自覚を高めることは服薬アドヒアランスの向上にもつながります。

また、明らかに服薬アドヒアランスが悪いと疑われる場合、「どれくらい飲めました?」と一定のアドヒアランス低下を前提とした尋ね方をすることで、患者さんも正直に状況を話すことができます。そのうえで症状がまだ出現しているのであれば、服薬アドヒアランスに起因する可能性があること、さらに現在の処方薬に代わるよりアドヒアランスを上げやすい選択肢を提示することなども容易になるでしょう。

■治療の手順も丁寧に説明を

また、軽度の薬剤から処方を始める場合、既に話した薬物治療のステップアップの仕方を患者さんにお伝えすることは、極めて重要です。これをせずに治療を開始すると、最初に処方された抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬で症状が改善しないと、患者さんは別の医療機関を受診して名前だけが違う同類の薬を処方されることを繰り返す、いわゆる「ドクターショッピング」状態に陥ります。それでもなお症状が改善しなければ、ドラッグストアなどで血管収縮作用のある点鼻薬の購入に行きつく場合もあります。こうした点鼻薬は一瞬、鼻の通りがよくなりますが、使い続けて薬剤性の肥厚性鼻炎になり難治化するという最悪のパターンもあり得えるので注意しなければなりません。

まずは、毎年の花粉症に悩まされる患者さんがシーズンを通して快適に過ごすためには、急な症状の悪化などの治療が後手にならないことが重要です。そのような場合には、予め症状抑制に必要となる充分量の薬剤で症状の改善を目指し、配合薬などを処方するなどして、経過観察を行い、症状が改善しなければ薬剤の切替や追加併用を、症状が軽減すればステップダウンするやり方も良いでしょう。ただし、患者さんにはそれとなく「今の薬剤を数日服用して、改善しなければ、次の治療ステップに移れます」ということを伝えておくことが望ましいと考えます。

また、スギ花粉を原因とするアレルギー性鼻炎では、完全に暴露を避けることはできませんが、点鼻薬を使う際には事前に鼻腔内を洗浄する、入浴時に鼻をかむなどして鼻腔内の花粉を除くこと、朝外出する前に予め抗ヒスタミン薬を服用するなどといった日常生活上いくつかの注意も必要です。

またアレルギー性鼻炎と喘息は併発していることも少なくないため、アレルギー性鼻炎の治療の際にも喘息症状の有無やその治療状況の確認、喘息治療医との連携も念頭に置くべきだと思います。

岡田正人先生(聖路加国際病院アレルギー膠原病科 部長)
米国内科専門医/米国リウマチ膠原病内科専門医/米国アレルギー臨床免疫科専門医(成人、小児)/日本リウマチ学会専門医、指導医/日本アレルギー学会専門医、指導医/日本内科学会総合内科専門医