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医療現場を救う「標準化」は、へき地でも有効 国際標準で職員応募者が3倍増になった病院の事例

読了時間:約 6分20秒  2011年09月20日 PM12:01
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 医療現場は、保険(診療報酬制度)によって細かく標準化されている面がありつつも、医師の裁量が大きいために、もっとも標準化が遅れている分野のひとつでした。
 ところが近年では、経営改善のメスが入るようになったほか、電子カルテなどIT化や、各学会が策定する診療ガイドラインの浸透により、標準化の波が押し寄せています。
 今回紹介する事例は、医師・看護師の研修面で標準化を推進している病院です。しかも、現在は大規模な施設ではないのに、先進的な「国際」標準を採用しており、それが人材採用面でも奏功しているといいます。その背景や内情について、東京ベイ・浦安市川医療センター長の神山先生に伺いました。

「赤ひげ」ではダメだ。へき地こそ「標準化」のメリットがある

QLife:
大病院ならともかく、中小病院や診療所では、「標準化」なんてあまり意味がないのではありませんか?
神山先生:
施設規模に関係なく、標準化は重要ですし有効です。そもそも当院の運営母体は、地域医療振興協会という公益社団法人。ここは、へき地医療に安定して医師を派遣する仕組みづくりを進めている団体です。ある意味、へき地の診療所・病院でこそ、標準化は最も必要とされています。
QLife:
どういうことですか?
神山先生:
へき地医療というと、「赤ひげ」をイメージすると思いますが、日本のへき地医療の発展を止めてしまっていた原因は、「赤ひげ」先生にあります。「○○先生が、人生を犠牲にして我々のために田舎に来てくれた。とてもありがたい」と、日本にはそれを歓迎する土壌があります。しかし、彼らのもとでは若い人が育ちませんし、人生を犠牲にする新たな医師も滅多にいません。果たして、「赤ひげ」先生に何かあると、その支援者や後釜を見つけるのが大変になってしまい、結果的にその地域の医療を危うくするのです。
QLife:
それがへき地医療の現状なのですね?
神山先生:
へき地に限りません。最近では、東日本大震災という未曽有の災害がありましたが、そこでも医師不足が発生し、私達の仲間が大勢応援に駆けつけました。その暫く前にも、ある病院で急遽医師スタッフ不足に陥った際、私達は医師や看護師をはじめとする派遣を実施しました。このような事態は、どんな医療機関にも起こりえることであり、そこを頼りにしている患者さんがいる限りは、地域医療が存続のリスクにさらされます。
QLife:
標準化されていれば、テンポラリの医師派遣が容易になる?
神山先生:
日本の医療従事者は偏在しています。これは、日本の医療が俗人的なノウハウで積み上げられてきた部分が多く、医局ごとの流儀が存在することと、けして無関係ではありません。
QLife:
それが人材流動化の障害だ、と?
神山先生:
このままでは、地方の医師不足はいつまでたっても解消できません。もっと、現場の需給状況に応じて機敏にスタッフが動いたり、赴任後スムーズに稼働できるような環境になれば、1週間だけ、1か月だけ、1年だけという仕事の仕方が容易になります。短期間でも現地に貢献できて、医師自身にとってもトレーニングの場、キャリアの一環としやすくなります。人生を犠牲にして悲壮な覚悟で赴任しなくても良いのです。
QLife:
具体的な方法は?
神山先生:
私たち地域医療振興協会では、これを仕組みで解決しようとしています。つまり、地域ごとに病院を設立して、そこに医師をプールする。そこを基地として、必要なところに安定的に医師を派遣し続ける。若い医師を育て、彼らを各地に派遣しても、常に同一水準の医療を提供し続けることで、その地域に対しても、そして派遣された医師にとってのレベルアップ面にも、コミットできるようになります。この仕組みを動かすために絶対に必要不可欠なのが、「標準化」なのです。

標準化は、研修から始めるのが一番

QLife:
標準化は、どのように進めているのですか?
神山先生:
現場の作業面を標準化していくことはもちろんですが、そのレベルを標準化しなければなりません。そのためには、やはり研修生をどう教えていくかという教育面の標準化が重要です。実は、こういった取り組みは、今の若い人達から見て期待が大きいようです。今までの徒弟制度のような教育に対する不満もあったのでしょう。
QLife:
「標準化」の教科書やマニュアルは、何を使っているのですか?
神山先生:
先ほど述べた通り、日本には「標準」がありませんから、「国際標準」を採りいれています。
QLife:
小さな病院が、いきなり「国際」標準化ですか?
神山先生:
当院の場合は、野口医学研究所という団体に協力してもらっています。ここは、日本人医師を海外に派遣し、医学交流を図ることに取り組んでいるので、海外経験を積んだ日本人医師を多数抱えています。ところが海外で働いた医師は、日本のムラ社会ではうまくいかないことが多いのです。常識が違いますから。そこで当院で、彼らに国際標準化に取り組んでもらうことになりました。
QLife:
いきなり海外のやり方が入ってくると、溝が出来るのでは?
神山先生:
米国などには「屋根瓦方式」という教育システムがあります。これは、一つ上の者が一つ下の者を教えるという仕組みです。少しづつ教え教わり続けることが染みついているので、もともと、教えることが好きだし上手な人達なんです。
QLife:
「俺の背中から、技を盗め」なんてことはないのですね?
神山先生:
こうしたやり方は、今の日本の若い人たちにも合っています。「習う」よりも「教わる」という思考の人がとても多いですから。野口医学研究所の医師たちのような海外経験者を活用するということと、研修のカリキュラムさえしっかりしていれば、日本医療の標準化はうまくいくはずです。
QLife:
どんなカリキュラムですか?
神山先生:
ACGME(米国の卒後医学教育認定評議会)方式の研修です。たとえば、現在募集中の後期臨床研修医の研修においては、次のような特徴で実施しています。
  • ACGMEのスタンダードに即した研修
  • 一定期間内に一人前のジェネラリストを育成(診療だけでなく、教育、管理も)
  • 北米式救急をマスターでき、更に日本式救命救急も取得
  • 国際標準の指導医(国際的に通用する医師を目指す)
  • ジェネラリスト習得の上に、専門家研修も可能

※以下から詳しい資料をダウンロードできます
http://www.noguchi-net.com/img/topics/JADECOM-NKP/JADECOM-NKP.pdf(pdfファイル)

院内のカルチャーを変えるのは、苦心の連続

QLife:
職員の国際化にも取り組んでいるとか?
神山先生:
あうんの呼吸が通じない外国人が院内にいれば、おのずと標準化が加速しますからね。
QLife:
でも、国策で行っているインドネシア看護師受け入れは、難航していますね。
神山先生:
漢字の壁が大きいと聞いています。外国人といっても、中国や韓国のような漢字圏の国でないと、国家試験に合格することも難しいでしょう。うちは、韓国に行って看護師面接を実施しました。
QLife:
韓国から看護師を採用?
神山先生:
これは私自身がおおいに反省したのですが、正直に言うと、「出稼ぎ」感覚で応募してくる人もいるかもという猜疑心が心の片隅にありました。ところが、実際に現地でお会いしてみると、そんな風に考えていたことが恥ずかしいくらい、皆さん、純粋なのです。純粋に好きな日本で仕事をしたいと思い、純粋に医療の世界で貢献したいと考える、想いが強い人ばかりでした。驚いて、結果的には協会全体で8人もの方に内定を出すことになりました。
QLife:
看護師採用で苦しんでいる医療機関にとって、耳よりなニュースですね。
神山先生:
一方で、日本人の看護師に、「国際標準に則った世界へ通用するリーダーナース」になってもらいたいとも考えています。そこで、国内の看護師に向けたワークショップも行っています。
QLife:
そのような国際標準化についていけない職員もいるのでは?
神山先生:
院内カルチャーを変えることは、大変です。古くから勤務しているスタッフは、次々と新しいことが起きるので、戸惑っている人もいるでしょう。内心は反発しているかもしれません。やはり、元からあった文化を変えるのは大変なことです。たとえば、日本人は議論をすることに慣れていない人が多いですよね。なので、「意見をぶつける」ということを、「人間関係が壊れる、和が乱れる」と思ってしまう人がほとんどなのです。そうではなくて、「患者さんにとって望ましいことは何か」ということを真摯に考え、皆で建設的に議論を積み上げていなかいといけないのです。

QLife:
まだまだ変革途上?
神山先生:
ただ、継続は力なりで、手ごたえは感じ始めています。主体的な人が増えてきたからです。今までは、「この病院」と言っていた人が多かったんですが、最近は「ウチの病院」に変わりましたからね。最近では少し強引な手法も取っています。全職員に対して「夏休みの宿題」を出しました。「自分を変える」というテーマで作文を提出してもらいます。自分を見つめ直して、前向きな具体論を考えてもらう、良い機会になればと思っています。
QLife:
「夏休みの宿題」ですか!?
神山先生:
びっくりした職員もいると思います(笑)。でも、これらの新しい取り組みが功を奏して、うちで働きたいと応募してくる人が増えてきました。新しい人達がどんどん入ってきますので、これからが楽しみです。

神山 潤(こうやま じゅん)先生のプロフィール

1981年 東京医科歯科大学卒業
2000年 東京医科歯科大学大学院助教授
2004年 東京北社会保険病院副院長
2008年 東京北社会保険病院院長
2009年 東京ベイ・浦安市川医療センターセンター長

主な資格、所属など

日本小児神経学会専門医・評議員、日本小児科学会専門医、日本睡眠学会理事・睡眠医療認定医、日本臨床神経生理学会認定医・評議員、日本てんかん学会認定医・臨床専門医・評議員、子どもの心・体と環境を考える会(日本子ども健康科学会)理事

公益社団法人地域医療振興協会 東京ベイ・浦安市川医療センター

千葉県浦安市当代島3-4-32
TEL:047-351-3101
ホームページ:http://www.tokyobay-mc.jp/
現在は48床だが、2012年に新病院(フルオープン時344床)が完成する予定