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医師は「地域の放射能の健康影響」をどう考え、一個人として行動しているか?(関東1都6県)調査報告書

読了時間:約 4分36秒  2011年07月27日 AM08:50
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 福島原発の事故発生以来、放射能に関する報道が繰り返されている。人々にとってこれは「地域別」「健康上」の問題でもあり、各地域の医療を担う医師にとって避けては通れないテーマである。
 ところが現状では、医師が医学的・科学的判断をするために充分な情報が揃っているとは言い難い。「放射性物質の拡散度合いや、放射線量に関する数値」「内部被ばくなどが中長期的に人体に与える影響」「それを予防・軽減するノウハウ」に関して、確かな情報が入手できない点は、医師も一般市民と同じである。
 正解が誰にも分からない状況下で、地域の健康を守る立場にある医師は、どう対処しているのだろうか。あるいは一市民として、どのように考え、自己の家族を守ろうとしているのであろうか。その実態を関東1都6県下に限定して、緊急調査した。

1.「放射能が人体に与える影響とその程度」について、大震災が発生して以降に、改めて確認をしましたか。

「放射能が人体に与える影響」について、震災後に改めて勉強しなおした医師は、75%にのぼった。職業柄、患者からの問い合わせにきちんと答える必要性が、この背景にあるだろう。都県別にみると、福島原発からの影響が比較的大きいとされる栃木、茨城で比率が高く、逆に群馬は低い。
なお、「いいえ」回答者には元々知識が十分にアップデートされていると思われる放射線科医が含まれる。

※『大震災の全国の医療現場への影響」実態調査』(2011年4月、QLife)でも、大震災以降の診療現場における「不安」として、「放射能に関する問い合わせが増加」を挙げる医師が8%もいた。

2.ご自身の地域における、屋外の放射線量(具体的な数値)を把握していますか。

60%の医師が、「自分の地域の放射線量」の具体的数値を知っていた。26%は時々チェックして「変動」確認している。都県別では、やはり福島原発への距離が近いほど高くなり、茨城、栃木県では8割近くに達した。

3.ご自身の家族に、原発からの放射能に関する健康上の影響が及ぶ不安を感じますか。

自分の家族の放射能健康被害について不安を感じている医師が、55.6%と過半数であった。都県別の傾向は、地元の放射線量チェック度合い(前出)と類似だが、茨城と栃木はそれほど高くはない(チェック度合いの高さに比べると、健康不安度合いは高くない)。両県の医師は、他県の医師よりも実践的・現実的になっているということだろうか。

4.ご自身の家族に、「外部/内部被ばくによる健康被害(またはそれを不安に思うこと)」に関して、具体的な注意を与えていますか。

41%の医師が、自分の家族に対して「被ばくによる健康被害(またはそれを不安に思うこと)」に対する注意を、具体的にしていた。

5.ご自身の地元で、「幼児の親が、日々の放射線量を確認して、子供の屋外での外出具合を決める」ことは、適切だと思いますか。

幼い子供を外で遊ばせる場合にはガイガーカウンターなどで放射線量を確認してから判断することを、44%の医師が「適切」な行為だとした。特に埼玉、千葉にその比率が高く、過半数の医師が賛成している。

6.「被ばく可能性」を考えて、ご自身が注意していることは何ですか。あてはまるものをすべて選んでください。

前々問では、「家族への指示内容」を自由記入形式で訊いたが、ここでは「被ばく対策」に限定して、「自身の注意事項」を選択回答してもらった。
すると回答傾向は前々問と似て、「食品の産地選び」は半数近くの医師が実践しており、「雨を避ける」も4割以上が注意していることがわかった。

7.今はどちらの人が多いと思いますか。近いものを選んでください。

半数以上の医師が、「放射能に神経質になり過ぎている人の方が多い」とした。ただし、「関心が低過ぎる人の方が多い」とする医師も2割近かった。
前問までの回答傾向もあわせて医師の考えの大勢を読み取ると…「幼児の親が、日々放射線量を測ってから遊ばせる」(半数以上が賛成)、「食品は、市場に出回っているものでも産地を選ぶ」(ほぼ半数が自身で実践)などは適切な行動と考えているが、「それ以上の過剰な行動の人」または「行動は適切だが(あるいはむしろ不足、筋違いだが)、心理面で不安を持ち過ぎている人」が、患者さんや身の回りに見られる、ということであろう。
(注:回答選択肢において、社会問題としての原発・放射能問題ではなく、「地域での日常生活において」と回答幅を限定した)

8.放射能に敏感になり過ぎることの「地域の健康問題としてのデメリット」で、実際に見聞きしている内容があれば教えてください。

幼児教育や精神面での悪影響、および診療現場における混乱などが、多く挙げられた。例を以下に抽出する。

  • あまりに外出を控えすぎると子供達はストレスがたまってしまう。外出はせざるを得ないとおもうが工夫も必要と思う。また、子供に給食を食べさせず、お弁当をつくって持たせる親もいるというがやり過ぎではないかと思う。(茨城/女性/30歳)
  • 乳幼児の精神衛生面では、過度の制限はデメリットとなるであろうが、内部被ばくによる危険性/影響が不透明~何十年先までの安全性のデータがない~を考慮すると、デメリットより、危険回避を優先させるべきである。(栃木/男性/42歳)
  • 不妊症治療の患者が減っていると聞く。このご時勢にあえて出産を望まないということのようです。 (千葉/女性/45歳)
  • 個人で放射能を測定したりするのはやり過ぎな気もする。マスクや肌を露出しないというのはどこまで有効なのか、証拠がない。それよりも、家に帰ったらすぐシャワーを浴びて体をよく洗い、服も着替える方が有効ではないかと思う。(東京/男性/43歳)
  • 医療従事者は放射線に被曝しやすい。こんなに騒ぐのであれば、我々の健康を普段から気遣って欲しい。患者が具合悪ければ、一緒にレントゲン室に入り浴びなくてもよい放射能を浴びる。防護服は着ているが、100%ではない。お茶の値も、前値がわからなければ比較できないはずなのに、マスコミも騒ぎすぎ。(東京/女性/46歳)
  • 小生は放射線科医ですが、特定の地域での幼小児は多少、注意をする必要がありますが、他は現在のところ実際上の問題はありません。(東京/男性/57歳)
  • デメリットはない。もっと敏感になるべき。しかし、結局は自己責任だとも思う。気にならない人や高齢者は気にする必要ないし、注意も特にしない。(神奈川/女性/32歳)
  • パニック障害のようになる人が多い。また、放射能の問題に敏感になっていることから、他の健康問題にも敏感になり、いらぬ心配をしてクリニックに受診してくる人が多く、いくら大丈夫であることを説明しても納得しないので、非常に困る。(神奈川/男性/48歳)

(注:各医師の個人的見解も含まれる。文章の一部改変。また「風評被害」や「経済の停滞」なども挙げられたが、「地域の健康」問題ではないので除外。)