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丸山耳鼻咽喉科医院 丸山晋院長

読了時間:約 6分37秒  2010年10月05日 AM11:05
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丸山耳鼻咽喉科医院
丸山 晋院長

「耳鼻科創始時代の先駆者の子孫」としての責任感と
「一人の人間」としての診療哲学

一番の苦労

握ったメスは捨てるな


六甲・摩耶山系が医院のすぐ近くに。院長の趣味の一つは、そんな近くの山を歩くこと。

 「もうメスを振るうことができない。」それが、地域の一開業医になることを決意した時に、一番辛かったことだ。私の場合、自ら進んで勤務医を辞めたわけではない。同じ耳鼻科医で、この医院を経営していた父が体調を崩したため、手伝うことにしたのがきっかけであった。12時間以上におよぶ手術もこなし、緊張の連続のなかにも勤務医としてのやり甲斐や手ごたえを感じていたので、そうした充実感を失う寂しさもあったが、それ以上に、「先達の積み上げた医術を必要とする患者さんへ橋渡しするメッセンジャーとしての役割の一部」を放棄する罪悪感に、私は苛まれた。
 医術や医学というものは、それを学び習得した医師個人のものではなく、それを必要としている人々のものだ。その意味で、開業医になって手術を止めることは、その技術を必要としている人たちと、その技術を積み上げてきた太古からの先達、その技術を伝えてくださった先達に対する裏切り行為であるような気がしたのだ。
 だが、悩んでも後戻りできるわけではない。「せめて、この地域で一番役に立つ耳鼻科医になろう」と発想を切り替えた。その為には、ただ一生懸命に勉強し、ただ一生懸命に仕事をするしかない。そう考えて今までやってきたし、現在も気持は変わっていない。
 しかし、これから開業する人には言っておきたい。もし、あなたがメスをもって仕事をしてきた医師なら、開業してもそのメスは捨てるなと。あなたのクリニックに、勤務していた病院のような設備は用意できないかもしれないが、小規模な設備でもできる手術はあるし、いわゆるオープンシステムの手術室を利用すれば自分のクリニックに設備がなくても手術は続けられる。患者さんのためにも、医学界の先達に報いるためにも、もちろん自分自身のためにも、メスは捨てるべきではないと、進言したい。

一番の秘訣

医術の専門家である前に「一人の人間」であれ

 開業医として働き始めて新鮮だったのは、勤務医には見えない「人の暮らし」が見えること。勤務医時代にくらべ、はるかに近い場所で患者さんと向き合い続けるうち、私自身も喜怒哀楽の感情や生々しい人としての暮らしを取り戻せるようになった。
 開業医の忙しさは、勤務医のそれとは質が違う。勤務医のころは、診療だけでなく常に最新情報を取り入れる勉強をしなければならず、目が回るほど忙しかったが、どんなに忙しくても医師の仕事だけに専心していればよかった。けれど開業医には、医師の仕事のほかに経営者としての仕事や雑用があり、いつも仕事に追いかけられてオンオフがない。そこで意識的に気持ちを切り替えるようにした。
 忙しい中でも、大好きな音楽や読書を楽しんだり、猫のヴィクターや犬の颯と過ごしたり、気心の知れた友人たちとの食べ歩きや飲み歩きの時間を、積極的に作るようになった。また、お茶をたしなんだり、香を焚きながら、静かな時を過ごすこともある。地元に帰ってきてから始めた山歩きは、これからもずっと続けていきたい趣味になった。こうした時間は、気分転換として大切なだけでなく、情報交換の機会にもなる。
 なぜオフの時間を作るかというと、開業医にとっては「患者さんの思いを受け止め、“治すだけ”ではなく、その人の幸せを考える」ことが大事で、そのためには自身も「一人の人間」でなければならないからだ。もちろん勤務医時代も、そう思って治療してきたつもりだが、開業医になって「医術の専門家というだけでは駄目だ」と強く意識するようになった。
 治療とは、「幸せに一歩でも近づく、あるいは少しでも不幸から遠ざかる」ためのもの。本気でそう考えたら、病気が見つからないが訴えがある患者さんや、治しようがないと思われる患者さんに対しても、「どこも悪くない」とか「どうしようもない」とか「仕方ない」とは言えない。何か困ることがあってそれを取り除いて欲しいから、患者さんは来てくださるのだ。我々はプロとして、その期待に応える義務がある。そのためには、「人の幸せ」に敏感で、患者さんに「安心と、心の平和と、満足」を提供できる開業医であらねばならない。

一番の配慮

機嫌よく仕事ができる環境づくりを


午後の診療の前に準備をするスタッフ

 「一人の人間として、一人の人間に接する」のが大切なのは、院内マネジメントでも同様だ。開業医の多くが一番苦労しているのは優れたスタッフの確保だろうが、スタッフに対しても人と人との付き合いをすることが重要と思う。私はスタッフに対して、「誠実に、真面目に働いて欲しいのは当然だけれど、あなたたちは当院のスタッフである前に人であるのだから、自分自身や家族を犠牲にしてまで頑張るようなことはしてくれるな」と言っている。自分や家族が病気にかかっているのに仕事を優先させても、良い仕事ができるはずがない。また、それは人の姿勢として尊敬できない。
 私自身も楽しく機嫌よく仕事をしていきたいと思っている。人生の中で仕事をしている時間の割合は相当なものなのだから、その時間を機嫌よく過ごせなければ、生きていること自体が虚しくなってしまうではないか。
 私やスタッフが機嫌よく働いていれば、それは患者さんにも伝わる。多少経済効率が悪くなろうとも働く人たちが機嫌よく仕事ができる環境づくりをすることが、大局的には医院運営に良い影響を及ぼすに違いない。
 一方で、私がスタッフに対して言っていることの一つに「院内の会話は、ですます調で」というものがある。ですます調で話すと、偉そうな印象を与えないからというのが一番の理由だが、同時に適度な距離感を保てるというメリットがあるからだ。人と人との関わりにおいて、親しく交わることと同様に、適度な距離をおいてお互いを尊重しあうことが大切と私は考えている。それは快適な職場作りにもつながると思っている。

一番の工夫

患者を喜ばせられれば、経営は自ずと上向く

 耳鼻科で開業しようと考えている人に、是非とも導入を勧めたいのが、電子カルテだ。電子カルテは医師の負担を増やすし、医師の目の前に患者さんがいる時間を増やすが、確実に患者さんの院内滞在時間を減らすことができる。耳鼻科では、患者さんは診察を受けた後にネブライザーなどをしてから待合室にもどるわけだが、電子カルテだと患者さんが診察椅子から離れたと同時に情報が受付に飛び、ボタン一つで処方箋・明細書・領収書が発行され、患者さんが待合室に戻ったときには清算の準備が整っている。診療の後には待ち時間がない。これは、患者さんにとって大変好ましいことだ。アンケートによる患者の不満のトップには常に「待ち時間の長さ」があることを重視すべきだ。
 また数年前のリフォームで、院内をバリアフリーにし、靴を脱がずに土足で診察を受けられるようにしたが、これも患者さんにはとても喜ばれた。新規開業を考える方には大いにお勧めしたい。
 それから、私は患者さんへの説明のために、症状の解説や治療の説明などを分かりやすく表示した自作のパンフレットを病気ごとに作成しているのだか、これがなかなか役に立ってくれている。医師にとっても説明時間の効率化メリットがあるが、患者さんからも理解しやすいと好評だ。よかったら試してみて欲しい。私の場合は診療机の脇に、自作のパンフレットや業者などが預けていく図版類を、病名ごとに整理して置いている。
 このように患者さんが喜ぶものを、一つひとつ導入していくと良い。患者さんは、喜べばまた来てくれるし、他の患者さんを連れてきてくれる。患者さんが喜ぶことをしている限り、そして患者さんが満足する結果を出し続ける限り、医院の運営は上向きをキープできるはずだ。
 その時に他の医院を参考にするのも良いが、「自分がかかりたい医院。こんな医院があったらいいなという医院。自分の家族を行かせたい医院」をイメージすると、いろいろと具体的なアイディアが湧いてきやすいかもしれない。

一番の夢

常に何かしら前に進んでいる医院でありたい

 医療に限ったことではないが「これでいい」「現状を維持しよう」と思ったときには、すでに後退が始まっていると考えるべきだろう。だから、いつも何かしら前に進んでいくように、心掛けている。
 耳鼻科の場合は、夏場が多少なりとも閑散期となるので、その夏場に毎年何か新しいことをすることを自らに課している。電子カルテ導入も、医院改装も夏に行った。それは、ある意味、暇つぶしでもあるのだが、新たなチャレンジや変化は医院に刺激をもたらし、私自身の進化にも繋がっていくと考えている。今後も、少しずつでも着実に前進するように、定期的に不連続の手を打っていこうと思う。

医院プロフィール

丸山耳鼻咽喉科医院

〒651-0078兵庫県神戸市中央区八雲通3丁目3-15八雲ビル115.116
TEL:078-221-1303
医院ホームページ:http://www.myclinic.ne.jp/maruyama_iin/pc/index.html


阪急・阪神電車「春日野道駅」から徒歩5分、三宮駅バスターミナルより市バス101系統乗車「東雲通2丁目」バス停下車徒歩約6分。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

耳鼻咽喉科、気管食道科、頭頸部外科

理念

“自分がかかりたいような”“自分の家族を診て欲しいような”、そんな耳鼻科医となり、そういう医院をつくろう

院長プロフィール

丸山 晋(まるやま・すすむ)院長略歴

1990年 国立高知医科大学(現高知大学医学部)卒業
1990年 京都府立医科大学・耳鼻咽喉科学教室入局
1994年 京都府立医科大学・耳鼻咽喉科学教室・助手
1997年 近江八幡市立病院・耳鼻咽喉科・医長
2000年 京都府立与謝の海病院・耳鼻咽喉科・部長
2002年 丸山耳鼻咽喉科医院(2006年より同院・院長)

資格

日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本気管食道科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、身体障害者福祉法認定医(耳鼻咽喉科)

所属学会

日本耳鼻咽喉科学会、日本気管食道科学会、日本聴覚医学会、日本甲状腺学会、耳鼻咽喉科臨床学会

日本の耳鼻科創始時代を支えた一人であり、今も現役で使われている手術器具を考案した丸山忍氏の曾孫にあたる丸山先生。
院内にはその曽祖父と祖父のお写真が飾られ、言葉のはしばしからも脈々と受け継がれる“耳鼻科魂”が感じられた。