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医療法人 おいだ産婦人科 種田征四郎院長

読了時間:約 4分58秒  2010年09月07日 AM10:55
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医療法人 おいだ産婦人科
種田 征四郎院長

児童虐待問題にも産婦人科医としてできることを模索
オリコンメディカルランキング1位獲得医院

一番の苦労

病院勤務医時代の診療態度を本気で改めさせられた


送られてきたハガキ。頂いた指摘に赤線と青線を引いて、今も保管。

 医院経営について、スタッフ確保や患者とのトラブルなど一通りの苦労はあるが、とても印象に残っている反省すべき出来事がある。もう10年以上も過去のことだが、患者さんから匿名でハガキが送られてきた。そこには、日ごろの私の診療態度に対する不満が書かれていた。大学病院で時間に追われるように診察をすることに慣れていた私は、医院での診察でも、同じような雰囲気を醸し出していたのであろう。そこには「せめて座って話を聞いてほしい」と検診を受ける妊婦の心情が訴えられていた。
 私は猛省した。分娩という非常にデリケートな局面を扱う医師として、患者さんへの配慮が欠けていたのだ。結局ハガキの主がどの患者さんだったのか今でもわからないままであるが、以後そのハガキは、「患者への配慮は十分だったか」と自問するツールとして、今でもデスクの上に置き、定期的に読み直している。
 この出来事から、患者さんの「納得・満足」につながる診療姿勢について改めて考え直し、診察時の言葉づかいやその内容などに徹底的に注意した。
 2003年オリコンメディカルランキング「患者が決めた!いい病院」で産婦人科部門、近畿版第1位をいただけたのも、この出来事があったからこそだと、今では思う。

一番の秘訣

受診前から退院後まで、患者心理の変遷を先取りしてケア


退院後に送る手紙。その時々の時事ネタを盛り込み、そのつど内容も変えている。

 産婦人科では、患者さんが少しでも「不安・不満」を感じてしまうと、その後の診療に与える影響は計り知れない。「患者さんとの信頼関係を築く」という月並みな言葉では表現しきれないほど、しっかりと心の声に耳を傾け、語りかけ、不安をクリアにしていくことを心がけている。
 まず、来院までの入口となるホームページには、妊婦検診・分娩・産後サポートの詳細内容を細かく掲載し、患者さんが知りたい情報を余すことなく公開している。電話によるサポートは24時間体制を実施。妊娠中の安産教室は、進行をスタッフ任せにせず、自ら妊婦に「納得できる出産」について語る。出産後には、「お茶会」と称し、授乳室に、ケーキとお茶を準備し、一緒に世間話をするふりをして、「アタッチメント」「マザーリング」などの重要性について伝え、産後の児童虐待予防に努めている。この時、敢えて初産婦、経産婦を同じ場に集めることが非常に有効だ。アタッチメントの形成が十分発達している経産婦の姿を見て、初産婦に「今は子どもをかわいく思えなくても、徐々に愛情がわいてくる」と安心感を与えることができるからだ。
 また産後のサポート体制にも力を注いでおり、退院時に病院スタッフと患者家族で撮影した写真を、育児ストレスが溜まると思われる退院後3~5ヶ月後に手紙をつけて郵送。出産直後の新鮮な気持ちを思い出してもらい、弱々しかった乳児が、たくましく成長している姿を実感し、母親のストレス解消に役立つように、工夫をしている。

一番の自慢

当院で出産した人は子どもの数が多い

 当院には、自慢の品がある。授乳室の棚に飾られた大量のアルバムだ。その中身は、過去に当院で出産された方の退院時の写真、退院された方から届いた手紙や大きく成長した子どもの写真がはさんである。毎年年賀状もたくさん届くので、年賀状専用のアルバムもある。
 当院で出産を経験した方は、子どもを持つ数が多いように思う。第2子、第3子と出産する医院として、繰り返し当院を選んでくださる方が非常に多いのは嬉しい限りだ。なかには8人もの子どもを出産された方もいる。非常にインテリジェンスのある方で、子ども一人ひとりの状況を俳句にし、今でも近況報告の手紙を下さる。子育てを非常に楽しんでいらっしゃる姿を目の当たりにすると、この仕事を選んでよかったと思う。

一番の工夫

患者さんの気持ちに寄り添うために、細かい工夫を積み重ねる

 小さいことだが、設備や装飾に関してもできる限り患者さんがリラックスできるように工夫をしている。例えば、診察室の椅子は、妊婦とそのパートナーやご家族が一緒に話を聞けるように、赤い2人がけのソファを使っているが、これがなかなか好評だ。病院の診察室らしくない点が、私自身も気に入っている。また新生児用のベッドで使用している布団は、無味乾燥な白いものでなく、かわいらしい柄の入ったものを使用し、母親が少しでも和やかな気分になれるようにしている。ベッドの側面には、出産直後に撮影した新生児とその家族の写真を張り、名札もイラスト入りの手書きのものを使用。大学病院のようにスケールメリットがない分、細かなことで、患者さんの心情に寄り添い、安心してもらえるように配慮している。

一番の夢

産婦人科医の役割は分娩だけでない。愛情豊かな家庭を育んでもらうよりどころに


ここで「父親のカンガルーケア」を行っている

 昨今、頻発している児童虐待のニュースには、心を痛めている。産婦人科医としてできることは何かと考え、母親だけでなく、父親の親性を育てることを意識している。
 例えば、立会い出産のおぜん立て。私は、本人の意思を尊重した上で、原則的に夫に立会い出産を勧めている。特に準備をせずに当日そのままぶつけ本番で立会いに臨む父親が多いが、その際一言「あなたのためにあれだけの痛い思いをしてくれているのは世界中でただひとり、あなたの奥さんしかいない。しっかり包んであげてください」と声かけをし、夫として妻を支える役割を意識するよう促している。
 更には、ここ半年くらい「父親のカンガルーケア」を実践している。私の好きなエンヤの音楽をBGMに、出産後、子どもの様子に配慮しながら、分娩室横で、父親に上半身裸になってもらい、産まれたての我が子をその胸に抱いてもらうのだ。その場での感想は「緊張した」「不思議な感じがした」など心許ないものだが、後からボディブローのようにアタッチメント形成に効いてくることを期待している。当院では、産後1ヶ月検診の他、2ヶ月検診、3ヶ月検診も実施しているのだが、立会いをした父親は、検診に一緒についてくることが多いよう感じる。
 産婦人科で経験してもらったことは、その後の育児の手助けになったり、家族の愛情醸成にも影響を与えられるはずだ。「父親のカンガルーケア」の他にも、家族愛にあふれる家庭を築いていってもらいやすくなる工夫に、いろいろ取り組んでいきたい。

医院プロフィール

医療法人 おいだ産婦人科

京都府京都市下京区万寿寺通烏丸西入 御供石町357
TEL:075‐351‐5786
医院ホームページ:http://oida-hp.com/


地下鉄五条駅、西北出口より北一筋上る西入る徒歩2分。
詳しい道案内は、医院ホームページから。

診療科目

産科・婦人科 特殊外来(不妊外来・更年期外来・避妊相談)

理念

母と子の絆が高まるように、リプロダクティブプロセスは大きな喜びのうちになされるのが当たり前。
そんな出産が出来ますように前向きで、positiveな、感動できる出産のお手伝いがしたい。

院長プロフィール

種田 征四郎(おいだ・せいしろう)院長略歴

1966年 岐阜大学卒業
1966年 岐阜大学付属病院 勤務 
1976年 京都第一日赤病院勤務
1977年 日本バプテスト病院勤務
1988年 おいだ産婦人科 院長就任

資格・所属学会他

日本産婦人科学会専門医、日本産婦人科学会認定医

取材者にも、妊婦さんたちに振舞うものと同じ、お茶とケーキをご馳走してくださり、大変あたたかく迎えていただいた。