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医療法人みずほ会 高橋内科 高橋啓文院長

読了時間:約 7分2秒  2010年03月23日 PM02:09
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あなたは医療者ですか?

 「経営に悩む医療人の役に立つならば」・・・軌道に乗るまでの失敗談や苦労、成功の秘訣やノウハウ、そして“次の一手”など、「他では開示されない貴重なノウハウ」を、教えてくれます。
 有力院長が次々と登場するので、月に2回はアクセスして、「自院の方向性チェック&考察」の機会にご利用ください。
takahashi_clinic_01医療法人みずほ会 高橋内科
高橋啓文 院長

診療所とグループホームを
ほぼ同時に開業し、
8年目で7施設を運営するまでに。

一番の苦労

開業して2-3年目、精神的余裕がなくなる危機感

takahashi_clinic_01_1 やはり最も辛かったのは、2-3年目あたりの労務管理。まず私自身の労務状況が限界に達した。余裕がなくなってしまい「勤務医時代の方がまだマシだ」(笑)と思った。このままでは「自分の目指す診療はできない」「趣味の時間もなく人として疲弊する」と危機感を持った。さらにはスタッフの労務管理も行き届かず、優秀な人に辞められてしまった。患者さんが増えてもスタッフが辞めては意味がない。スタッフ補充したところでまた同じことが繰り返されるだけだと考えた。
 解決策は、「企業的な組織づくり」だった。まず外部から事務長を採用し、労務管理を任せた。そして主任制にして中間管理職を設けて組織の形を作った。さらには勤務医を採用して、複数人ドクター体制にした。これで精神的余裕ができて、目の前に道が拓けた。
 もう一つ大きな転機となったのは、3年前に「理念」を明文化したこと。強いメッセージを出せるので採用がやりやすくなった。また、理念に共鳴した人しか集まらないので、ミスマッチが減ったし、何より現場に方向性が出るようになって皆の努力がかみ合う好循環が生まれた。

一番の秘訣

「異業種との交友」で感覚磨き、「業者」にも上手く助けてもらう

takahashi_clinic_02 開業してもうすぐ8年になるが、今では5施設を運営して地域の医療・介護に一定の貢献ができる規模になった。今年はさらに業容拡大予定(後述)。資産家の生まれでもなく奨学金で大学に通った私だが、全事業で黒字を出していたから銀行もきちんと融資してくれた。経営の秘訣は?と聞かれることはあるが、「常識的な感覚を持つこと」と「業者人脈に助けてもらうこと」、あとは「優秀な人材」がすべてだ。
 「常識的な感覚を持つこと」とは、「医師(自分)は特殊な感覚を持ちがち」と自戒すること。良く言えば個性的、悪く言えば他人の意見を聞かない人が、医師には多い。センセイと呼ばれ、面と向かって怒られることもないので、裸の王様になってしまう。特に都市圏では医師密度が高いから、医療仲間だけで狭い交友関係が成立するし、日本全部が東京・大阪と同じと勘違いしてしまいがち。私は他業種の経営者とも頻繁に話すように心掛け、また高知の「井の中の蛙」にならないように気をつけている。
 これには、世の中の動向把握や事業感覚を磨くという目的もあるが、そもそも私は「患者さんと対等な立場で治療にあたりたい」と思っている。自分の仕事は世の中の全業種の一つ、と客観的に構えていないと、実態が見えなくなるし、患者さん本位の治療もできない。

高橋先生の運営施設一覧

  • 高橋内科
  • シルバーホームおおの郷(グループホーム)
  • ケアビレッジすさき(グループホーム、通所リハビリテーション(デイケア)、ヘルパーステーション、居宅介護支援事業所の介護複合施設)
  • ケアハウスすさき(ケアハウス)
  • 近隣自治体の上ノ加江診療所を、指定管理者として運営

※さらに現在、有料老人ホーム1施設、グループホーム1施設を建設中
※そしてこの春、本拠診療所の全面建て直しを着工予定


写真は左から、高橋内科、シルバーホームおおの郷、ケアビレッジすさき、ケアハウスすさき。

一番の工夫

人材採用の鍵はタイミング、困ってから募集するから失敗する

takahashi_clinic_03 医療も介護も、優秀な人材で成立する。だから採用には力を入れている。特に重要ポストの紹介や人物照会には、業者人脈にもおおいに助けてもらって、少しでも良い人材を雇用できるよう腐心している。医師の採用にあたっては、福利厚生待遇を強化している。週休2日制だし、今年からは年2-3回は1週間休暇を取らせる予定。それくらいでないと優秀な人は来てくれない時代だ。
 スタッフの採用にあたっては、必ず実技試験を行い、資格よりも実践力を重視している。履歴書をよく読んで、「なぜ前職を辞めたのか」が納得できる理由か吟味する。接遇商売なので「第一印象」も重要だ。そして3か月の試用期間を置いてミスマッチを防いでいる。その代り、定期的に勉強会を院内開催したり、外部のセミナーにも積極出席させているし、看護学校に通う支援をすることさえある。意欲ある人へのサポートは惜しまない。
 最近わかってきたのは、医療と介護では適性が違うこと。医療は「探究心」、介護は「奉仕の精神」の持ち主の方が上手くいく。だから診療所で活躍するスタッフを介護施設に異動しても機能しない。逆も真なり。
 人材調達に関して大事なことは、後手後手にならないこと。困った時に採用すると、たいてい失敗する。順調な時の方が良い人が応募してくれるし、こちらも判断ミスしない。少し余剰にして投資的に人材配置するくらいがちょうどよい。その方が、新規取り組みに踏み出しやすいというメリットもある。

一番の特徴

診療の効率化と高質化を両立するには、ITが必須の時代

takahashi_clinic_04 IT活用しないのを、患者さんや従業員の年齢層のせいにする人がいるが、そんなことはない。私のところは介護施設と連携しているくらいなので、高齢者の比率が高いが、ITが非常に上手く機能している。受診予約や介護サービス予約の受付管理はもちろん、スタッフの労務管理やスケジュールもネット経由で権限者が共有閲覧できるようになっている。私は月に2-3回はセミナー出席などで県外出張するので、ITがなければとても複数の施設運営はできない。
 さらに、「病状や診療方針などについて、どうしたら患者さんに十分な説明ができるか」を考えた結果、自作したイラストや動画を診察室のパソコン画面で見せるようになった。この“パソコン画面での説明”(※)は高齢の患者さんにも「わかりやすい」と好評で、中身もかなり充実してきた。今ではコンテンツ数は1000枚におよび、滑南病院や伊与クリニックなど外部でも30の施設で利用いただいている。プライマリケアはカバー領域が広いので、真剣に勉強したり説明しようとすると膨大な資料点数が必要で、診察室がペーパーの山で埋もれてしまう。これをパソコンに収めれば素早く取り出せるし、医師の代わりにコメディカルが説明できるようにもなる。いいことづくめだ。
※「eドクター」という名称で、希望する病医院には提供を始めたそうです。
案内はこちらをご覧ください。⇒http://www.emed.co.jp/edocter.html

一番の拘り

もはや、介護の受け皿なき医療は考えられない時代

takahashi_clinic_05 私は、勤務医時代に救急診療に携わっていた。そこで気付いたことは、病気の予防や早期発見の重要さ。つまり地域の診療所で、もう少し日頃から血圧やコレステロ-ルなど基本指標を管理していれば、救急に担ぎ込まれることはないのに・・・という想いを持った。プライマリケアの実践だ。ただ現実を見ると、高齢者には頻繁に通院できない人も多い。「急性期以外の入院はできない時代」には、別の受け皿が必要なことは自明で、もはや介護施設なしでは適切な医療は提供できないと考えている。
 私がグループホームを開設した当時は「グループホーム」と言っても誰も知らなかった。補助金が出るのに誰も手を挙げなかった。ところが今や、介護の役割、社会的地位が上がってきた。「きっとそういう時代になる」と予想はしていたが、わずか5年だった。大きかったのは、2006年の報酬制度改定。在宅支援療養診療所に在宅の高い点数がつくようになり、収益面でも強い追い風になった。もともと介護事業は、収益性が高くはないが赤字になる可能性は低く、特に入居系は安定経営しやすい。今後も私の事業展開は、医療と介護のセットになる。
 患者さん視点でみても、高齢者が安心して来院できるシステムが重要だ。介護施設を運営して、患者さんが継続的に医療を受けられる環境を作らなければ、「一生かかわる」ことなどできない。今後の地域医療は、医療だけ、では成立しない。

一番のゆめ

新たなチャレンジも全てCSから。患者満足から発想し、そこに戻る

takahashi_clinic_06 「ゆめ」ではなく、既に取り組んでいるものが2つある。「関東進出」と「本拠診療所の刷新」。
 前者は、本当は「進出」などという気持ちはなく、あくまで「たまたま良い人材のご縁があった」ので、高知で培ってきた仕組みを千葉の方々にも提供しようと思っているだけだ。「医療と介護の相乗効果」や「IT活用」といったフレームワーク・ノウハウに加えて、必要に応じて高知から人材補給できる体制を取り、立ち上げリスクを抑える。競争が激しい千葉でブラッシュアップされれば、高知に逆移管できるノウハウも生まれるはずだから、楽しみにしている。
 もう一つのチャレンジは、本拠である高橋内科の全面リニューアル。春に着工して、1年後にオープンする予定で、間取り設計も現場に任せている。「大病院に匹敵する外来」がコンセプトで、最新の医療機器を導入し、それらを扱う技師も大病院に匹敵する人材を配置し、地域No.1の医療を実現する。名称も、高橋内科ではなく、地名を取って「須崎医療センター」とするつもり。もちろんITをフル活用してチーム医療を実現する。病院の買収案件をもちかけられることも多いが、全く興味はない。今後の患者さんニーズがどう変化していくかを見据えて、合致するモデルを作っていく。

医院プロフィール

医療法人みずほ会 高橋内科

高知県須崎市多ノ郷甲5748-1
TEL:0889-43-1001(代表)
医院ホームページ:http://takahashi_clinic-naika.org/

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JR土讃線大間駅から徒歩で5分。複合介護施設の「ケアビレッジすさき」と隣接した、モダンな造りの診療所。待合室はガラス面が多く、とても明るい。患者層は高齢者中心かと思いきや、若い人も多い。「院長は新しいことを採り入れるのが早い。医療機器や新薬も、一歩先んじて導入する。それが若い患者さんを惹きつけている一つの要因では。」とスタッフが分析。

診療科目

内科・呼吸器内科・消化器内科・循環器内科

理念

「患者さんの為に医療を実践し、地域に貢献できる医療機関を目指します」
1.親切な医療
2.わかりやすい医療
3.高機能病院との連携
4.心の通い合う医療を行います。
5.介護で日常生活の支援を行います。

院長プロフィール

高橋啓文(たかはし・ひろふみ)院長略歴

1990年 高知医科大学卒
1990年 高知医科大学附属病院内科
1995年 近森病院
1997年 田野病院 内科医長
2000年 須崎くろしお病院 内科医長
2002年 高橋内科消化器科(現・高橋内科)開業

所属学会ほか

日本内科学会総合内科専門医
日本消化器内視鏡学会内視鏡専門医
日本肝臓学会肝臓専門医
日本糖尿病学会指導医
日本医師会産業医
高知病診連携研究会代表世話人
須崎市医師会会長

高橋啓文(たかはし・ひろふみ)院長「口ベタですから」と言いつつ、笑みを絶やさず常に自然体の高橋院長。セミナーでは「分からないことがあったら、恥ずかしがらずにちゃんと質問する」ようにしているそうだ。ゴルフはシングルの腕前で「高知は車で30分も走ればコースがあるからね」と笑う。土佐っ子らしく、酒は「ほとんど酔わない」。