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肺NTM症の新規診断法を開発、3日以内で高精度に菌種同定・薬剤感受性検査-阪大ほか

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2023年03月31日 AM11:17

罹患率が増加する肺NTM症、診断の培養検査には時間と手間がかかることが課題

大阪大学は3月27日、クラウドコンピューティングを利用した新しい非結核性抗酸菌(NTM)診断手法(MGIT-seq法)を開発したと発表した。この研究は、同大免疫学フロンティア研究センター自然免疫学の福島清春特任助教(兼 微生物病研究所)、微生物病研究所感染症メタゲノム研究分野の松本悠希特任助教、中村昇太准教授、大阪刀根山医療センターの木田博呼吸器内科部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Jounal of Clinical Microbiology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肺NTM症は、日本において2007年から2014年の7年間において人口10万人あたりの罹患率が2.6倍増加した。現在では肺結核をしのぐ罹患者数となっており、迅速な診断手法の開発が求められている。診断における課題には、1)培養検査に時間と手間がかかること、2)日常臨床で同定できる菌種が少ないこと、が挙げられる。従来汎用されている培養検査においては、喀痰などの臨床検体はセミアルカリプロテアーゼ(SAP)処理による溶解・均質、雑菌処理[N-アセチル-L-システイン(NALC)-NaOH、酸処理]を行った上で培養検査へと進む。培養検査は液体培養であるmycobacterial growth indicator tube(MGIT)培地、もしくは固形培地である小川培地を用いて行われる。培養確認までMGIT法で2〜4週間、小川培地で4〜8週間を要する。さらに、NTM症の治療方針を立てる上で重要なことは原因菌種・亜種の同定だが、従来の手法では亜種レベルまでの正確な同定はできないのが問題となっていた。

近年特に増加している肺アブセッサス症の治療に当たっては亜種を個別に同定し、亜種ごとに治療を進めることが各種ガイドラインでも推奨されているが、通常の施設では個々の症例に対して亜種同定を行うことは容易ではない。加えて、種同定において現在検査室で汎用されている質量分析法(MALDI-TOF-MS法)などでは、亜種を正確に鑑別することができず、種レベルの同定後に種ごとに異なる亜種同定検査を行う必要があった。また治療薬の反応性も2次培養後に7〜14日間の薬剤感受性検査を行うか、または薬剤感受性遺伝子配列を個別に調べなければならず、時間や手間、費用がかかっていた。さらに、これらの機材・装置を有しない多数の病院では培養陽性確認後、治療選択に必要な同定・薬剤感受性の結果を得るまでに1か月程度の日数を要することがしばしばあった。

ナノポアシーケンスにより3日以内に亜種同定・薬剤耐性変異予測が可能な手法を確立

研究グループは、NTM175種を網羅した大規模ゲノムデータベースと既知の薬剤耐性遺伝子を応用した薬剤耐性予測アルゴリズムを併用することで、ナノポアシーケンスとコアゲノム解析により培養検体において最長で3日以内に亜種同定・薬剤耐性変異予測が可能な手法を確立し、クラウドコンピューティングの手法により離れた医療機関であってもタイムリーに結果を受け取る体制の構築を行った。

通常の臨床検査では検出できない菌の同定に成功、設備面コスト面共に実用化に近い手法

この手法を用いて喀痰より繰り返し同定不能菌が検出された肺NTM症患者を解析し、通常臨床検査では検出できない菌(M. shinjukuense、M. shimoideiなど)を同定した結果、治療を開始できた症例を経験するとともに3つの新種を発見した。確立した手法による抗酸菌同定は迅速性、菌の網羅性において随一の技術であるという。ナノポアシーケンスは、必要な機材が小型のドライインキュベーターと卓上遠心器のみであり、病院の検査室に導入可能である。計算機資源はインターネット経由のクラウドシステムで担当するため臨床現場で大型計算機を置く必要がなく、コスト面でも低価格化が進んでいるなど、設備面、コスト面共に実用化に近い点も重要な点である。

肺NTM症に対する実臨床、特に迅速検査の中への位置づけを行うことを目的に、MGIT陽性検体から超小型次世代シーケンサーMiniONを用いて亜種レベルの菌種同定検査と薬剤耐性検査を同時に行うMGIT-seq法の有効性を検証する前向き試験を大阪刀根山医療センターにおいて実施した。116例の新規/既診断NTM症症例において前向きに検討した結果、種レベルの正診率は99.1%、亜種レベルの同定率は84.5%、マクロライド耐性およびアミカシン耐性はそれぞれ特異度97.6%および100%で検出可能であることが示され、この手法が従来法、質量分析による同定法および薬剤感受性検査と比較し迅速性・網羅性において優位であることを確かめることができた。

亜種や株レベルの情報が得られ、薬剤感受性の把握など治療法や病態の解明に寄与できる手法

今回の研究成果により、NTMの同定・薬剤感受性が正確に把握できることで、NTM症患者は病原体に応じた適切な治療を速やかに受けられるようになることが期待される。開発された解析手法が広く臨床現場で利用されるようになれば、これまでの検査では得られないNTM亜種や株レベルの高精度情報が得られ、薬剤感受性の把握や伝播経路の推定など治療法や病態の解明の発展に寄与できると考えられる。

また、この手法を応用することによりNTM症患者の喀痰などに含まれるわずかなゲノムDNAから、培養なしに直接NTMの同定を成し得る可能性があり、同定にかかる時間が劇的に短縮されると考えられる。これによりNTM症の早期発見による予防や新たな治療方法の確立へ貢献することが期待される。感染症においては現在でも培養法による同定・感受性検査が治療方針決定のゴールドスタンダードである。しかしながら、原因は多岐にわたり時に急速な経過を辿りえるが、迅速な原因の同定・診断は困難な場合をしばしば経験する。

「次世代シーケンサーの開発・進歩により、リアルタイムにシーケンスが可能なMinIONが台頭し、病原体の迅速同定が可能となりつつある。多様な菌種を持つNTM症に対して開発された本手法を他の感染症に応用することで、臨床検査の現場において、感染症の病原体・薬剤感受性を迅速に、かつ正確・網羅的に検出することが可能となれば感染症診療に大きな変容をもたらすことができると考えられる」と、研究グループは述べている。

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