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CKD-SHPTの骨病態、カルシウム受容体作動薬が骨強度の低下を改善-北大ほか

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2023年03月23日 AM09:02

慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症、皮質骨多孔化の発症メカニズムは?

北海道大学は3月20日、カルシウム受容体作動薬エボカルセトが、慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症(CKD-SHPT)モデル動物で生じる骨病態を改善させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究院の長谷川智香准教授、網塚憲生教授、協和キリン株式会社らの研究グループによるもの。研究成果は、「Endocrinology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

腎臓は、血液をろ過し、尿を産生することで、体から老廃物を除去する臓器である。一方で、血液中のカルシウムやリンなどのミネラル濃度の調節も行っている。そのため、腎臓が悪くなると、血液中のカルシウムやリン濃度の調節機能も障害を受け、血中のミネラルバランスが崩れてしまう(慢性腎不全に伴う骨・ミネラル代謝異常)。すると、この状態を改善するために、副甲状腺細胞が肥大・増殖して、血中カルシウム・リン濃度を調節するホルモン(:PTH)を大量に産生しはじめる(:SHPT)。過剰に産生されたPTHは、リン酸カルシウム結晶を含む硬い骨を壊して、そこから多量のカルシウム・リンを遊離させることで、血中のカルシウム・リン濃度を維持する。一方で、壊された骨は脆くなってしまう(骨強度が低下する)ため、寝たきりにもつながる骨折リスクが上昇してしまう。

SHPTで生じる骨の異常は、単純に骨の量や骨密度が減少するのではなく、1)細い梁状の骨(海綿骨)が活発に骨改造(骨の吸収と形成による作り替え)を受け、増加すること(線維性骨症)、2)体を支える厚い骨(皮質骨)が孔だらけになること()がわかっている。しかし、主に骨強度低下に起因する皮質骨多孔化の発症メカニズムは解明されておらず、その治療法も不明なままである。

カルシウム受容体作動薬の骨病態に対する改善効果をCKD-SHPTラットで解析

現在、腎機能が著しく低下し、人工透析に移行したSHPT患者には、過剰なPTH分泌を抑制するカルシウム受容体作動薬が用いられている。カルシウム受容体作動薬であるエボカルセトは、血中PTH濃度を低下させるが、骨病態に対する改善効果はよくわかっていない。このことから、今回の研究では、慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症(CKD-SHPT)における骨の異常、特に、皮質骨多孔化の発症メカニズム解明と、骨病態に対するエボカルセトの効果を明らかにすることを目的として、CKD-SHPTモデル動物を用いた解析を行った。

ラットの腎臓を部分的に切除し、高リン濃度の餌を与えて飼育することで、CKD-SHPTを誘導した。そのCKD-SHPTラットに、エボカルセトまたは溶媒(比較対象となる溶液)を6週間投与した後、血液や大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)を採取して、血中カルシウムやリン、PTH濃度の変化や骨病態への影響を比較検証した。骨病態は、X線マイクロCTや各種組織化学的手法を用いた微細構造解析や二重エネルギーX線吸収測定法による骨密度測定、骨力学強度測定のほか、real-timePCR法・RNA-seqを用いた遺伝子発現変動解析を行った。

エボカルセト投与で皮質骨多孔化や骨強度の低下を抑制

研究の結果、溶媒を投与したCKD-SHPTラットでは、血液中のPTHやリン濃度の上昇とカルシウム濃度の低下が生じるとともに、大腿骨海綿骨量の増加や皮質骨多孔化が認められ、骨強度が著しく低下していた。一方、これらの病態は、エボカルセトを投与したCKD-SHPTラットでは、明らかに抑制されていた。

CKD-SHPTでは骨細胞の機能異常や細胞死により周囲骨基質の溶解や再石灰化が抑制

皮質骨に注目すると、正常ラットでは骨の中に多数の生きた細胞(骨細胞)が埋め込まれており、骨細胞の周囲にはリン酸カルシウム結晶が沈着し硬くなった骨基質が存在していた。骨細胞は、タンパク質分解酵素であるPhexやSIBLING familyタンパク質を発現し、周囲骨基質の石灰化(骨にリン酸カルシウム結晶が沈着して硬くなる現象)を調節している。ところが、溶媒を投与したCKD-SHPTラットでは、骨細胞が酸分泌関連因子を産生しており、骨細胞周囲の骨が溶かされていた(骨細胞性骨溶解)。また、PhexやSIBLING familyの発現変化が生じ、骨の再石灰化が抑制されているほか、死んだ骨細胞の数も増加していた。このことから、CKD-SHPTでは、骨細胞の機能異常や骨細胞死により、周囲骨基質の溶解が生じる一方、再石灰化は抑制されること、また、これが起点となり、皮質骨の多孔化が進行すると考えられた。

、血中PTH濃度を低下させPTHとリンの相加作用による骨細胞への影響を断ち切る

一方、エボカルセトをCKD-SHPTラットに投与すると、骨細胞の機能異常や骨細胞死、骨の石灰化が改善され、皮質骨多孔化が抑制された。このような骨細胞の機能異常や骨細胞死を誘導する原因を突き止めるため、骨細胞のみを培養皿に取り出し、リンやPTHなどを添加して育てるin vitro実験を行ったところ、骨細胞の機能異常は、PTHやリン単独でも誘導されたが、PTHとリンを両方添加するパターンでは、異常がより増悪していた。以上のことから、今回の研究により、慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症では、血液中の過剰に存在するPTHとリンが相加的に作用することで骨細胞の機能や生存に影響を及ぼし、皮質骨多孔化が誘導される可能性が示された。また、カルシウム受容体作動薬であるエボカルセトは、血中PTH濃度を低下させることで、PTHとリンの相加作用を断ち切り、皮質骨多孔化を抑制する可能性が明らかになった。

今回の病態モデル動物を用いた研究結果から、慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症における骨病態の発症メカニズムが明らかになるとともに、カルシウム受容体作動薬であるエボカルセトが骨病態の改善にも寄与することがわかった。「今後、二次性副甲状腺機能亢進症患者を対象とした本薬剤の作用検証が期待される」と、研究グループは述べている。

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