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コロナ禍の心理的健康に「正義・公正」が影響、格差の解消が重要-千葉大

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2023年01月19日 AM09:54

コロナ禍における日本人の心理的な健康格差を調査、要因を分析

千葉大学は1月13日、2020年と2021年に国内で実施された3回のインターネット調査に基づき、パンデミックに見舞われた日本における人々の心理的健康格差について分析した結果を発表した。この研究は、同大大学院社会科学研究院の小林正弥教授、水島治郎教授、同大学院国際学術研究院の石戸光教授、同大学院人文公共学府博士後期課程3年生の石川裕貴氏の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

先行研究で、貧富の格差などの社会・経済的要因が身体的な健康の格差に影響していることが国際的に明らかになっている。そこで研究グループは今回、「心理的な健康格差」という概念を提起し、これに関するインターネット調査(調査1〜3:ウェルビーイングと社会に関する調査)を行い、生物学的・社会的要因を分析した(調査1:回答人数4,698人、調査期間2020年6月2日〜4日、調査2:回答人数6,855人、調査期間2021年3月24日〜25日、調査3:回答人数2,472人、調査期間2021年10月26日〜28日)。

経済的な格差に対応し「心理的健康格差」が生じていた

幸福度については、PERMA指標の一つである一般的ウェルビーイングと、ICOPPE指標における心理的ウェルビーイングを用いてさらに心理的健康を測定するため、この2つの指標から「心理的健康の指標」を作成した。調査1~3まで、これらの指標は継続的な低下を示した。

収入との関係では、心理的健康とクラス分けした世帯ごとの客観的収入を分析。その結果、経済的な格差に対応して、心理的健康の格差が生じていることが明らかになった。

心理的健康や気分の明暗に影響するのは「生物学的要因」と「社会・コミュニティ要因」

心理的健康の格差への影響を考えるため、6種類の要因を設定し、それらと心理的健康、気分の明暗の増減との関係を分析した。要因は、性別などの「基本属性要因」、食事・健康・医療環境などの「生物学的要因」、自然環境や文化などの「自然・文化的要因」、収入・資産などの「経済的要因」、階層への満足や一般的信頼などの「社会・コミュニティ的要因」、正義/公正や人権など「政治的要因」の6種類。この分析を概念として示し、心理的健康に対する各要因の大きさについて、2回の調査の平均値を示した。

その結果、「基本属性要因」が9.2%、「生物学的要因」が25.4%、「自然・文化的要因」が17.6%、「経済的要因」が6.9%、「社会・コミュニティ的要因」が30.5%、「政治的要因」が10.4%だった。この数値が大きいほど心理的健康や気分の明暗と関係しているという。

これまでの分析で明らかになった要因の相対的な重要性をまとめ、心理的健康や感情的変化に対する要因の重要性を数値(縦軸に示されている回帰分析の係数)で表した。その結果、生物学的要因と、社会・コミュニティ要因が高い値を示したのに対し、経済的要因は低い値を示した。注目すべき点としては、「政治的要因」が急浮上していることが挙げられた。これにより、心理的健康は生物学的、自然的、文化的、社会的要因と関連しており、社会的要因においては経済的要因だけではなく、社会コミュニティ要因と政治的要因が大きく関係していることが判明した。

コロナ禍を乗り越えるには、経済的な対処に加え「正義/公正」を増大させる公共政策が重要

今回の研究結果により、健康格差における新しい知見が明らかにされた。健康格差の先行研究では、生物学的要因とともに経済的要因が注目され、弱者への経済的支援という政策的示唆が導かれているが、同研究では、自然・文化・社会コミュニティ・政治という諸要因が明らかになり、文化に関する教育や社会コミュニティにおける階層満足や一般的信頼の向上などにより、不平等を多次元的に、格差の全範囲で減らしていくことが重要だと考えられる。

分析では政治的要因、特に「正義/公正」が心理的健康と関係していることが判明。さらに危機的状況における幸福度の低下を和らげるために、大きく寄与していることが明らかになった。このことから、コロナ禍のような危機を乗り越えるために、経済的問題への対処とともに、主観的に感じられる正義/公正を増大させるような公共政策が望ましいという示唆が得られた。このように、多次元的・多層的に格差を解消し、倫理的・政治的な正義/公正の実現を図ることが、心理的健康格差の減少のために求められる。

なお、正義/公正を倫理的な視点も含める政治哲学は「コミュニタリアニズム(善い生き方や、多様な人々が共に生きることを重視する思想)」であり、今回の調査結果は、社会コミュニティや正義/公正の要因の重要性を明らかにした点で、コミュニタリアニズムと親和的と言える。「本研究は、思想的に論じられてきた政治哲学の論点を、実証的にも研究する可能性を提示したという点でも重要だ」と、研究グループは述べている。

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