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瞳孔は運動負荷の増加に伴い「非線形的」に拡大、心拍などと異なるパターン-筑波大

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2022年10月04日 AM10:51

運動中の瞳孔の変化を追跡し、有酸素運動中の脳の覚醒状態を推定

筑波大学は9月28日、線形的(直線的)な運動負荷の増加に対する瞳孔の特徴的な(非線形的)応答パターンを明らかにしたと発表した。この研究は、同大体育系/ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP) 征矢英昭教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Physiological Sciences」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

近年の研究で、運動が脳を刺激し認知機能を高めることが明らかにされつつある。研究グループはこれまで、中〜高強度運動に限らず、ヨガやウォーキングに相当する非常に軽い強度の運動(=超低強度運動、最高酸素摂取量の30%の運動負荷)であっても、海馬や前頭前野を刺激し、その機能を高めることを報告してきた。しかし、全身運動中のヒト脳の活動を計測することは技術的に難しく、有酸素運動中に脳がどのように応答しているのか、いまだにその全貌は解かれていない。

そこで、研究グループは「心の窓」と言われる瞳孔(瞳)に着目した。明るさが安定した環境では、瞳孔は脳の覚醒や注意、精神活動を反映することが古くから知られている。瞳孔の拡大・縮小の変化は、交感神経と副交感神経の両方から神経支配を受ける。その源は、脳全体にノルアドレナリンを放出し、覚醒や注意をもたらす青斑核だ。最近では、瞳孔の拡大・縮小は青斑核の活動を含む脳の覚醒状態の変化を秒単位で反映するとして、神経科学分野で再注目されている。運動も瞳孔を拡大させることが報告されているが、運動強度に対する詳細な応答は不明だった。そこで研究グループは今回、安静状態から疲労困憊に至るまでの運動中の瞳孔の変化を追跡し、有酸素運動中の脳の覚醒状態を推定した。

運動時の瞳孔拡大が脳の覚醒を示しているという仮説を支持する結果に

研究では、26人の健常若齢男性の大学生、大学院生(平均22.4歳)を実験の対象とした。被験者には、明るさが安定した部屋で自転車ペダリング運動を行ってもらった。座位安静状態を保った後、徐々にペダルを漕ぐ重さ(運動負荷)を上げていき、疲労困憊に至るまで運動する、漸増負荷運動試験を実施した。この間、被験者に呼気ガスマスクと心拍計を装着し、呼吸循環器に関わる生理応答を計測した。また、被験者の前に置かれたスクリーンにアイトラッカーを取り付け、被験者の瞳孔径をモニターした。また、「イキイキした」といった覚醒状態に関わる気分を、二次元気分尺度という気分聴取を用いて計測した。

その結果、個人が取り込める最高酸素摂取量を基準にしながら、負荷の増加に対応する変化を調べたところ、瞳孔は酸素摂取量の増加に対して非線形的に拡大していくことが判明した。

まず、非常に軽い強度(超低強度、<37%の酸素摂取水準)では、安静状態よりも瞳孔が拡大した。さらに、この時に瞳孔の拡大が大きかった人ほど、覚醒気分のスコアが高まっていたことが明らかになった。これは、この時の瞳孔拡大が脳の覚醒を示しているという仮説を支持している。その後の低〜中強度運動(37~63%の酸素摂取水準)においては、酸素摂取量の増大に対して拡大の程度は大きくなかったが、中強度を超えた付近から最大運動に至るまで再び急激な拡大を示した。

乳酸閾値や換気閾値に満たない軽い運動でも瞳孔が拡大

この特徴的な瞳孔拡大パターンは、安静状態〜疲労困憊に至るまで線形的に増加する心拍数や、中強度運動付近で初めて増加し始める血中乳酸濃度(この上昇点は乳酸閾値と呼ばれる)などの生理生化学的指標とは異なるものだという。乳酸閾値や換気閾値に満たない運動強度では、ストレス反応も起きず血中ノルアドレナリン・アドレナリンも増加がみられないため、脳の覚醒作用はほとんどないという仮説もあった。しかし、乳酸閾値や換気閾値に満たない軽い運動でも瞳孔が拡大するという同研究結果は、そのような従来の仮説を覆すものだとしている。

瞳孔測定を運動で高まる覚醒状態の生理学的評価指標として応用できる可能性

今回の研究では、運動負荷の増加に対応する瞳孔拡大パターンが検証された。その結果、非常に軽い運動でも瞳孔が覚醒気分の高まりと相関して拡大することが判明し、この強度の運動でも脳の覚醒状態が高まることが示唆された。同研究グループは過去に、非常に軽い運動によって海馬や前頭前野の機能が促進されることを報告している。今回明らかになった覚醒作用は、そのような効果をもたらすメカニズムとして作用している可能性が高く、この点については現在、検証中だとしている。一方、中強度から疲労困憊運動にかけてみられる急激な瞳孔拡大も乳酸閾値や換気閾値と対応する可能性が高く、運動生理学的な示唆に富む。今後、ストレス反応などと併せて詳細な検討が望まれる。

心拍数は、腕時計型デバイスによって今や誰もが簡単に測れる生理学的指標として利用されている。血中乳酸による乳酸閾値測定や呼気ガス分析による換気閾値測定も、運動処方のための強度設定やアスリートのコンディショニングに欠かせない評価指標として、医療やスポーツ現場など幅広く用いられている。「心の窓」である瞳孔測定もまた、運動で高まる覚醒状態の生理学的評価指標として応用できるかもしれず、さらなる研究が期待される。

「そのためには、子どもや高齢者、・メンタルヘルス低下者など本研究とは異なったさまざまな母集団で検証していく必要がある」と、研究グループは述べている。

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