一部の鎮痛薬が2型糖尿病患者の心不全リスクを高める可能性
NSAIDsと呼ばれ、いわゆる“痛み止め”として広く使われている一部の薬が、2型糖尿病患者の心不全リスクを高めてしまう可能性が報告された。コペンハーゲン大学病院(デンマーク)のAnders Holt氏らが、欧州心臓病学会(ESC2022、8月26~29日、スペイン)で発表した。Holt氏は、「短期間のNSAIDs使用でも心不全入院リスクとの関連が認められた。NSAIDsは臨床で非常に頻繁に使用されているため、実際に影響が生じている患者も多いのではないか」と懸念を表している。
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Holt氏らは、デンマークの医療情報データベースを用いて、糖尿病患者へのNSAIDs使用が心不全リスクを高めるか否かを検討した。1998~2021年に2型糖尿病と診断された33万1,189人を解析対象とした。なお、NSAIDsが長期間処方されている患者、または心不全の既往のある患者は除外されている。
解析対象者の平均年齢は62歳で、女性が44%だった。追跡開始後、最初の1年間で16%の患者にNSAIDsが少なくとも1回処方され、3%の患者は3回以上処方されていた。処方されたNSAIDsは、12.2%がイブプロフェン、3.3%がジクロフェナクナトリウム、0.9%がナプロキセン、0.4%がセレコキシブだった。
中央値5.85年の追跡期間中に、2万3,308人が心不全による初回入院治療を受けていた。NSAIDsの使用は、心不全による初回入院リスクの高さと有意な関連があった〔オッズ比(OR)1.43(95%信頼区間1.27~1.63)〕。薬剤別に解析すると、ジクロフェナクナトリウム〔OR1.48(同1.10~2.00)〕とイブプロフェン〔OR1.46(同1.26~1.69)〕がリスク上昇と有意な関連があり、ナプロキセンとセレコキシブは非有意だった。
一方、HbA1cが6.6%未満と、血糖コントロールが良好な糖尿病患者では、NSAIDs使用による心不全リスクの上昇は認められなかった。また、65歳以上の患者では心不全入院リスクとの強い関連が見られたが、65歳未満では非有意だった。
今回の発表に関連して、米レノックス・ヒル病院のEugenia Gianos氏は、「NSAIDsは主に体液貯留を引き起こすことにより心不全リスクを高める」と解説。また「これまでに、糖尿病の有無にかかわらず一般集団、ことに心臓病患者集団では、NSAIDsが心不全リスクをわずかに増加させる可能性が示唆されている。さらに、既に心不全発症後の患者では確実に入院リスクを高める」とのことだ。加えて、「2型糖尿病自体も心不全リスクを高めるため、冠動脈疾患や心不全の兆候がなくても、糖尿病患者は心不全ハイリスク状態にある」としている。
一方、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のGregg Fonarow氏は、「2型糖尿病患者は、鎮痛薬を服用する前に、医師に相談すべきだ」と話す。NSAIDs以外の鎮痛薬としてアセトアミノフェンがあり、同氏によると「アセトアミノフェンは心不全リスクに関連がないと考えられ、安全に使用できるはずだ」という。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
▼外部リンク
・Non-steroidal anti-inflammatory drugs linked with heart failure in patients with diabetes
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