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腸内細菌「P. clara」がトリプシンを分解し、感染を防御していると判明-理研ほか

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2022年09月20日 AM10:41

消化酵素が大腸で働くと悪影響の可能性、その制御における腸内細菌の役割は?

(理研)は9月15日、タンパク質を分解する消化酵素の一つであるトリプシンを分解するヒト腸内細菌を同定し、このトリプシンの分解が細菌やウイルスなどの病原体の感染防御に寄与していることを突き止めたと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター消化管恒常性研究チームの李優先基礎科学特別研究員(研究当時)、本田賢也チームリーダー(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室教授)、新幸二客員主管研究員(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室准教授)、かずさDNA研究所ゲノム事業推進部の川島祐介ユニット長らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ヒトの消化管には500~1,000種類の腸内細菌が生息し、その数は約100兆個にのぼると言われている。膨大な種類と数の腸内細菌は多種多様な機能を持ち、ヒトの健康と密接に関わっている。しかし、個々の腸内細菌の役割については、培養が難しいこと、種類が多いことなどの理由から、解明されていないことがまだ多く残されている。

消化管内には、食物を分解し栄養を吸収するため、アミラーゼやトリプシン、リパーゼなどの消化酵素が豊富に存在している。これらの消化酵素は、主に口腔・胃・小腸内で糖質やタンパク質、脂質を分解し、小腸粘膜での栄養吸収に重要な役割を担っている。しかし、これらの消化酵素が活性を保ったまま大腸内に存在すると、腸管内で大事な働きをしている糖やタンパク質を分解して悪影響を及ぼす可能性がある。そこで研究グループは今回、消化酵素の制御における腸内細菌の役割を解明することを目指し、研究を行った。

盲腸と大腸に存在する腸内細菌がトリプシンの分解に関与している可能性

腸内細菌が腸管内に存在するどのようなタンパク質に影響を与えているかを探索するため、腸内細菌が存在しない「無菌マウス」と腸内細菌が存在する「SPFマウス」の盲腸内容物に含まれるタンパク質を、プロテオーム解析という手法を用いて網羅的に解析した。その結果、腸内細菌の有無でトリプシンというタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の量や活性に著しい差があることが判明。トリプシンは無菌マウスの盲腸内には多量に存在していたが、SPFマウスの盲腸内や便中には、ほとんど存在しないことが明らかになった。

一方、トリプシンを産生する膵臓におけるトリプシン量は、無菌マウスとSPFマウスで違いがなかった。また、小腸の空腸と回腸の内容物では無菌マウスとSPFマウスのトリプシン活性に違いがなかったのに対し、盲腸、大腸、便ではSPFマウスでトリプシン活性が有意に減少していることが判明。このことから、盲腸と大腸に存在する腸内細菌がトリプシンの分解に関与していることが想定された。

P. claraという腸内細菌がトリプシンの分解に関与、結合・分解には00502遺伝子が必須

研究グループは、ヒト腸内細菌を用いることでヒトへ応用しやすいと考え、ヒト腸内細菌からトリプシンの分解に関与する細菌種の特定を試みた。健康なヒト便を定着させたマウスを用いて、トリプシン量の減少を指標に細菌種を絞り込み、その後、同マウスの盲腸内に存在していた細菌株を分離し、試験管内でトリプシンを分解できる細菌を探索した。その結果、「Paraprevotella clara()」という細菌がトリプシンの分解に関与していることを見出した。

次に、P. claraがどのような仕組みでトリプシンを分解しているのか検証した結果、P. claraの外膜上のタンパク質がトリプシンと結合し、トリプシン同士の接着を促進することで、トリプシンが自己消化により分解していることが示唆された。そこで、P. claraの外膜上に存在するタンパク質のうち、トリプシン分解に関与するタンパク質を再度プロテオーム解析で探索した結果、「00502」と名付けた新しいタンパク質が、トリプシンとの結合・分解に必須であることを突き止めた。

P. claraによる腸内トリプシン分解で腸内にIgAが多い状態を維持、病原体の侵入を防止

さらに、P. claraによる大腸内トリプシンの分解が宿主にとってどのようなメリットがあるのか動物モデルを用いて検証した。P. clara単独では無菌マウスに上手く定着させることができなかったため、P. claraの定着をサポートしてくれる2株(Parabacteroides merdae、Bacteroides uniformis)とともに、野生型のP. clara(2-mix+WT)および00502をコードする遺伝子を欠損させたP. clara(2-mix+Δ00502)を別々の無菌マウスに定着させ、便中トリプシン活性を測定した。

その結果、2-mix+WT定着マウスでは便中トリプシン活性がほとんど認められなかったのに対し、2-mix+Δ00502定着マウスでは高いトリプシン活性が認められた。これらのマウスの盲腸内タンパク質の違いを解析したところ、消化管内での病原体の排除に重要な抗体IgAの量が、トリプシンが多い2-mix+Δ00502定着マウスで少なくなっていると判明。実際に、腸管出血性大腸菌のマウス病原菌であるCitrobacter rodentiumを両マウスに感染させたところ、トリプシンが少なくIgAが多い2-mix+WT定着マウスで炎症に伴う体重減少が軽減され、盲腸組織内に侵入した細菌数の低下が確認できたという。このことから、P. claraが腸内トリプシンを分解することで、腸内にIgAが多い状態を維持することができ、病原体の侵入を防いでいることが想定された。

P. claraの00502遺伝子が便中に検出された新型コロナ患者は下痢症状が軽く、軽症者が多い

コロナウイルスなどのエンベロープ(ウイルスの外側を覆う脂質二重膜)を持つウイルスは、細胞内へ侵入の際にプロテアーゼによる切断を受ける必要があるため、大腸内のトリプシン量が減少するとコロナウイルスの腸内での感染が抑制される可能性が考えられる。そこで、マウスに感染するコロナウイルスであるマウス肝炎ウイルス(Mouse hepatitis virus-2; MHV-2)を用いて、ウイルスへの感染防御能について調べた。

その結果、トリプシン量が多い2-mix+Δ00502定着マウスと比較して、トリプシン量が少ない2-mix+WT定着マウスでは、ウイルス感染による死亡率の抑制、体内(肝臓や脳)におけるウイルス量の減少を確認。また、ヒトの新型コロナウイルス感染症においても、P. claraの00502遺伝子が便中に検出された患者では、下痢の症状が軽く、酸素吸入が必要とならない軽症者の割合が高いことが判明した。

以上のことから、P. claraは大腸内のトリプシンの分解を促すことで、経口的に侵入してきた細菌やウイルスなどの病原体に対する防御機構を高めていることが明らかになった。

腸管感染症や新型コロナウイルス感染症、P. claraを用いた予防・治療への応用に期待

今回の研究により、腸管内のトリプシンの活性を腸内細菌が制御していることが見出された。さらに、トリプシン分解細菌種の同定を行い、腸管内トリプシンの分解が病原体の感染防御に重要であることも明らかにされた。今後、トリプシン分解腸内細菌であるP. claraを用いた「腸管感染症に対する予防・治療」の応用が期待される。

「P. claraが新型コロナウイルス感染症に伴う下痢症状の軽減や重症化を抑える効果を持っている可能性もあり、新型コロナウイルス感染症の予防や治療への応用が期待できる」と、研究グループは述べている。

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