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新規ミトコンドリア病モデルマウスの樹立に成功、mtDNAに病原性変異-筑波大ほか

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2022年08月26日 AM11:02

多くの病気を引き起こすミトコンドリアDNAの突然変異、モデル動物の作出例はごくわずか

筑波大学は8月24日、ミトコンドリアDNAの中のtRNALeu(UUR)遺伝子領域に病原性点突然変異を有するモデルマウスを、世界に先駆けて樹立することに成功したと発表した。この研究は、同大生命環境系の中田和人教授、東北大学加齢医学研究所モドミクス医学分野の谷春菜研究員(研究当時:)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nucleic Acids Research」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

ミトコンドリアは、生体エネルギー産生を担う細胞小器官であり、細胞核にあるDNA(核DNA)とは異なる独自のゲノムであるミトコンドリアDNA()を持っている。このmtDNAにはエネルギー産生に必要な遺伝子群がコードされている。mtDNAになんらかの突然変異が生じ、それらが生体内に蓄積すると、エネルギー産生不全によって、さまざまな疾患がもたらされる。これらを総称してミトコンドリア病と言う。また、mtDNAの突然変異は、、神経変性疾患、不妊症、がん、さらには、老化の原因にもなると考えられている。

このような疾患群の詳細な発症機構を解明し、有効な治療法を開発するためには、突然変異型mtDNAを導入したモデル動物の作出と活用が必須である。しかしながら、核DNAの遺伝子改変技術はmtDNAに対しては適用できないため、これまで、変異型mtDNAを持つミトコンドリア病モデル動物の作出例はごくわずかしかなかった。このことは、これらの疾患群に対する理解の遅れにつながり、創薬や治療戦略の探索においても大きな障壁となっている。

/糖尿病で病原性突然変異が生じやすいtRNALeu(UUR)遺伝子変異を持つマウスを作出

研究グループは、mtDNAにコードされたtRNALeu(UUR)遺伝子に病原性突然変異を持つモデルマウスを、世界で初めて樹立することに成功した。ミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子は、ミトコンドリア病患者や糖尿病患者において病原性の突然変異が生じやすいことから、ミトコンドリア関連疾患のホットスポットと言われている。

まず、薬剤処理によりmtDNAにランダムな突然変異を誘導したマウス培養細胞株を出発材料として、それらのクローニングを繰り返すことで、tRNALeu(UUR)遺伝子領域に点突然変異を有するmtDNAを高い割合で含有する細胞を単離した。こうして得た細胞の細胞質をマウスES細胞に移植して、tRNALeu(UUR)遺伝子領域に点突然変異を有するmtDNAを導入したマウスES細胞を樹立し、キメラマウスを作製した。このキメラマウスの交配による生殖系列移行を利用して、最終的に、全身の細胞にtRNALeu(UUR)遺伝子領域に点突然変異を有するmtDNAを導入したモデルマウスを樹立させた。このモデルマウスが有するtRNALeu(UUR)遺伝子のA2748G点突然変異は、ヒトA3302G点突然変異と相同であり、この変異を有する家系では、ミトコンドリア病や糖尿病の発症が報告されている。

10か月齢で代謝異常と肝機能障害を併発、ミトコンドリア呼吸酵素複合体Iの活性低下による可能性

こうして得たモデルマウスは、体内に野生型mtDNAと変異型mtDNAが混在しており(ヘテロプラスミー)、その割合はさまざまな組織間においておおよそ同程度で、加齢依存的な変化も確認されなかった。変異型mtDNAを高い割合で有するモデルマウス(10か月齢)を解析したところ、血糖値および乳酸値の上昇、インスリン抵抗性といった代謝異常の特徴が確認され、肝肥大や血中の肝機能不全マーカーの上昇などから肝機能障害を併発していることがわかった。

また、ミトコンドリアの機能については、ミトコンドリアの形態異常やミトコンドリアの内膜に存在する呼吸酵素複合体のうち特に複合体Iの著しい活性低下がみられた。マウス肝臓を用いた分子病理学的解析により、変異型mtDNAを高い割合で有する組織においては、ミトコンドリア内のRNAプロセシングが阻害され、複合体Iを構成するタンパク質であるMT-ND1の発現量の低下が引き起こされていた。

以上のことから、このモデルマウスでは、ミトコンドリア呼吸酵素複合体Iの活性低下に起因するミトコンドリア機能不全を介して、肝機能不全を伴う代謝異常が誘導されていると考えられる。これらの知見は、tRNALeu(UUR)変異によって誘導されるミトコンドリア機能障害とミトコンドリア関連疾患の発症機序を理解するための分子基盤を提供するものであるという。

モデルマウスを加齢させ、長期的な病態を追跡中

研究グループは、今回樹立したモデルマウスを加齢させ、長期的な病態の追跡を行っているという。「ミトコンドリア病は体内でエネルギー消費量の多い筋肉や中枢神経系に症状が出やすいことから、大規模な行動解析等を含む病理学的解析により、老化に伴って病態の悪化が見られるか、あるいは新規の病態が出現するかなどを確かめている。このモデルマウスは、ミトコンドリア関連疾患の基礎研究や創薬研究のための新たな生体モデルであり、今後、mtDNAのホットスポット変異に関わる基礎研究および臨床研究に大きな前進をもたらすことが期待される」と、研究グループは述べている。

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