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コロナ感染拡大初期の「感染不安の高さ」、社会的立場ごとに比較-東北大ほか

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2022年08月23日 AM11:05

、大学生を一般対象者と比較

東北大学は8月22日、新型コロナウイルスの感染拡大初期(2020年5~6月時点)における、立場による感染不安の強さや関連要因の違いについて総合的な分析を行い、一般対象者、看護師、妊婦、大学生の回答を分析した結果を発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科教育心理学講座臨床心理学分野の若島孔文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

)という未知の感染症の蔓延は、人々のメンタルヘルスに、大きな影響を与えている。特に、COVID-19への感染に対する不安(以下、感染不安)は、パンデミック下の精神衛生の中核をなすとされている。

こうした実態に対して日本では、同大若島教授を中心とした研究グループが、あらゆる時期のさまざまな立場の人々を対象に、感染不安をテーマとした継続的な研究を重ねてきた。これらのデータの中には、オンライン講義への切り替えなど多くの社会的混乱を経験した大学生、感染した場合の重症化のリスクが高いとされていた妊婦、感染者と接触するリスクがほかの立場より高い看護師と、立場の異なる感染不安の研究がそれぞれ行われ、すでに学術雑誌に掲載されている。しかし、これらの研究は個別に行われた研究であるため、これらのデータを統合して比較検討することで、立場による感染不安の高さや、その関連要因を比較することが求められている。

今回の研究は、日本人の感染不安とその関連要因について、社会的立場による比較を行う目的で行われた。具体的には、大学生、看護師、妊婦の3つの立場については、先行研究で明らかになっているデータを用いた。また、大学生、妊婦、看護師を除いた日本人を「一般対象者」として、新しく同様の項目を調査した。そのうえで、一般対象者をベースラインとして、大学生、看護師、妊婦の3つの立場について、感染不安の高さと関連要因を検討した。

一般対象者と比べ妊婦は感染不安が高かったが、看護師は一般対象者/大学生と有意差なし

インターネット調査で新たに収集した450人の一般対象者の回答、318人の妊婦の回答、152 人の看護師の回答、300人の大学生の回答、合計1,220人の回答が分析に含まれた。立場による感染不安得点の違いを、分散分析により検討した結果、立場による感染不安得点の差異が示された(F=54.59、p<.001)。

多重比較の結果、一般対象者(M=19.00、SD=5.28)と看護師(M=18.27、SD=5.13)の間に有意差はみられなかった。他方、一般対象者と比較して、大学生(M=17.88、SD=4.95)の感染不安は低く(p<.01)、妊婦(M=22.96、 SD=5.68)の感染不安が高いことが示された(p<.001)。ほかに、大学生と妊婦、看護師と妊婦の間にそれぞれ有意差がみられた(どちらもp<.001)。一般対象者と比較して、妊婦は高く、大学生は低く、看護師が同程度の感染不安を抱えていることが示された。

この結果から、妊婦は、一般対象者、大学生、看護師と比較して、高い感染不安をもっていることが明らかになった。妊婦を含めたハイリスク者は自然災害や大規模な疾病の流行に対して特に脆弱であるため、感染不安が高まっていることが推察される。

看護師では、感情のまひや適切な知識による不安低減の可能性

他方で、看護師の感染不安は、妊婦よりも低く、一般対象者および大学生と有意な差がないことが示された。看護師は、COVID-19の感染者と接触するリスクが高い立場にあり、特に感染不安が強いと指摘されているが、研究結果はこれらと一致しない結果となった。このことについて、過去の感染症の研究では、感染に関する情報に多くさらされることで、感情の麻痺が起こり、不安が生じにくくなるという研究報告がある。パンデミックにおける看護師の職場では、COVID-19に関する情報が多くあふれていたため、感情のまひが起こり、感染不安が抱かれなかったのではないかと考えられる。

また、看護師は、ほかの人々と比較して、COVID-19への予防や、感染した場合に必要な処置などの専門的な技術や知識をもっていると予想される。このように、COVID-19への適切な知識や対処方法をもっていることが、看護師の感染不安の低さに寄与しているのではないかと推測される。

大学生と妊婦では「主要な情報源」が、看護師では「高齢の家族との同居」が感染不安と関連

研究グループは、ステップワイズ法による重回帰分析を用いて、感染不安の関連要因についても検討を行った。その結果、大学生と妊婦では「主要な情報源」が、看護師では「高齢の家族との同居」が(β=.19, p<.05)、それぞれ感染不安と関連していた(β=-.13;-.12, ps<.05)。一般対象者ではこれらの結果が示されなかったことから、それぞれの立場に特徴的な結果であると推察される。

感染者に接触する可能性が高い看護師は、自身が感染源になることを懸念するとされている。一方で、高齢者は感染した際の重症化リスクが高いことから、高齢者家族をもつ看護師においては、特に自身が感染源となることを恐れている傾向があることが推察される。

また、新聞やテレビなどの伝統的なメディアは、妊婦の恐怖心を高めている可能性が指摘されているが、大学生にも同様の結果がみられた。妊婦と大学生は、パンデミックにおいて、比較的対人接触が少ないことが共通していると推察される。したがって、SNSなどのメディアが、感染不安の低減に役立っていたのではないかと考えられるという。研究グループは、感染不安について「妊婦のメンタルヘルス支援の重要性が示された」としている。

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